共依存という名の狂気
階段を降りると、ニコが立っている。
「ちょっといいかしら」
呼ばれキッチンに着いていく。
「あの子の中身が止まって、感情が欠落しているのは分かっているのよね?」
「分かってるよ」
「あなたたちの距離、普通の兄妹では無いのは理解している?」
「……」
ヤマトは黙ったあと笑みを浮かべる。
「理解した上だ」
「異常なのも?」
「どうしたんだよニコ。今までそんなこと言ってこなかったじゃねぇか」
ニコはため息を着く。
「最近、目につくの。特にあの子が暴走を抑えれるようになってから。あの子は前に進んでる。だから──」
「だから俺が必要ないってか?」
「分かってるよ。そんなこと。暴走を制限出来るようになって俺の能力がなくなってそれでもあいつは俺を必要としてくれている」
ヤマトの顔にニコは青ざめる。
「それの何が悪いんだ?」
「狂ってるわよ…」
「知ってるさ。あいつはただの兄として俺を見ている。だったら俺もただの妹として──」
「妹として見れてないでしょ。いい加減にしなさいよ。恋愛対象として見ているのであればそれ相応の対応を取りなさいと言っているの。あなたが黄泉様の命令で兄として接しなくちゃいけないのはわかっているわ。けど……っ?!」
ヤマトから出る殺意。重い空気。
赤く揺れる瞳はただニコを睨む。
「なぁ、俺はお前と違って昔から家族はいない。他人との距離も知らない。お前の世界観で物を語るな。あいつが俺をどう見ようが俺は俺の気持ちに素直になるだけだ。あいつにとって抱きつくのもキスをするのもただの兄妹としての距離」
「あいつにとっての愛情表現」
「俺はそれを素直に受け入れてるだけだ。それ以上の一線を超えないようにしている。だから、黙っててくれないか?お互いがお互い依存している。それの何が悪い。俺は───」
パンッ!
鈍い音が響く。
頬に走る痛み。
ニコは険しい顔でヤマトを睨む。
「あなたはなゆたの何になりたいの」
「…勝手に言ってろ。もう知らねぇよ」
ヤマトは小さく呟きその場から離れる。
表情は見えなかった。
見えなかったのに、殺気だけは感じた。
「待ちなさ───」
白夜とサクヤが止める。
感情任せに勢いよくドアを開けそのまま去るヤマトをただ見るしかなかった。
「ニコ。踏み込みすぎだ」
「それでもあの2人を誰かがブレーキをかけないと止まらないでしょ」
「気持ちはわかるでニコちゃん。けど、もうあれは手遅れやろ…」
「責任に負われ、それでも突っ込んでくるなゆたをヤマトはあんなふうに受け止めるしかないんや」
「じゃあ、なんであの子がいるのに他の子と色々付き合ったりしてたのよ…」
「自分自身の感情を知るためとちゃう?付き合って生まれる感情はなゆたに向くものと一緒なのか…確かめたかったんやろ。今は1人にさせといた方がええ。全員、冷静になるべきや」
白夜の言葉で肩の力が抜ける。
「全ての愛情表現が恋愛に向くとは限らんのやで」
日も落ちる残照。
大きな音。
大剣を取り出し大きな木を無意識に切る。
笑う顔
泣く顔
困った顔
甘いものを食べた時の顔
全てが愛おしい。
この感情が何なのか、
恋愛としてなのか妹としてなのか曖昧だった。
その中で刺さるニコの言葉。
「そんなん…俺が1番知りてぇよ…クソ…」
どう足掻いても兄妹でつなぎ止められた関係。
崩れて元に戻らなくなることぐらいわかる。
なゆたの距離と視線。それはズレがある。
「俺は……」
その場にしゃがみ込む。
「ただそばにいて欲しいはなにかの感情で表さないといけないのか…?」
目を閉じる。
"おはようなゆた"
"ボク…ずっとなにしてた…?"
"ずっと寝てたから兄ちゃん心配したんぞ?"
"兄ちゃん…?"
"そうだよ。俺はお前の兄ちゃん"
"兄ちゃん…そっか。ボクの兄ちゃん…"
欠けて消えた黄泉の存在。
兄がいるという認識だけ残ったなゆた。
その穴に入った俺。
「兄ちゃん、か…そうだよ。俺はなゆたの兄。誰かに否定されようと訂正されようと俺はずっと、ずっとずっとなゆたの兄だ」
「これは恋愛なんかじゃない。ただの依存。恋愛なんて綺麗な言葉で片付けちゃいけないんだ。恋愛って言われるから腑に落ちなかったけど、」
「これは兄妹の共依存……馬鹿だよなほんと。俺も」
「なゆたも」
ストンと心に整理が着く。
"恋愛"
そんな優しい言葉で片付けるのがいけない。
恋愛なんて生ぬるい感情じゃない。
俺はなゆたがいないと生きていけない。
なゆたも俺がいないと生きていけない。
俺たちは太陽と月。お互いが横にいるから機能している。
完全に日が落ち三日月が笑う。
赤い目は揺れ輝き、
「なゆたと俺の邪魔をするやつは味方であろうと斬り殺す」
そして、
黒く沈む。




