ただの依存
生ぬるい風。
いつの間にか寝ていた。
隣を見ると手を繋いだまま眠る兄の姿。
身体の怠けは無く熱も引いた。
「熱出るとか何年ぶりだろ…」
ヤマトの髪をサラッと撫でる。
「本当に犬みたい」
耳を触ると寝ているのにピクっと動く。
それが楽しく何度も触る。
すると、
ヤマトと目が合う。
「……あ」
「あ。じゃないよ。人が気持ちよく寝ていたっていうのに」
「おはよう。体調はどうだ?」
「だいぶ良くなった」
「そりゃあ、良かった。徹夜は厳禁。もしまた徹夜したら絵本読んで寝かしつけるからな」
「……寝ます」
「よし」
犬なのに自分が犬扱いされている気分。
繋いでた手を離し、ヤマトは身体を伸ばす。
「夕方…1日寝てたのかな、ボク」
「朝に寝て今起きたって感じだな。けど、今日は休んだ方がいい。店は俺らで回すから」
「あと、今日は酒禁止」
あからさま嫌な顔をする。
「そんな顔してもダメでーす。治ってからどんだけでも飲めばいいさ」
「わかった…そうする……」
「いい子」
ヤマトに触られるのは悪い気がしない。むしろ安心して心地がいい。目を閉じ手に身を委ねる。
「…っなゆ──」
言葉が出そうになる。その手前でなゆたの身体を引き抱きしめる。
「ちゃんと、兄ちゃんのこと頼れよな。お前がいちばん年下なんだし」
「…?う、うん…」
「開店準備してくるから、今日は部屋でゆっくりしろよ?」
ヤマトは手を振り部屋を出ていく。
1人、部屋に残されたなゆたは自分の肩に触れる。
「なんで、兄ちゃんってすぐ抱きしめるんだろう…」
それは自分自身も同じ。
1秒でも長く隣にいたいと思ってしまう。
「…こ、これが白夜が言ってたシスコンとブラコン……」
外を見る。
「兄ちゃんの恋愛ってどんなのだろう…」
「ボクの知らない顔で笑うのかな」
「また知らない人とキスするのかな」
「あれ……」
なゆたはふと気づく。
ドタドタと階段を降りると全員集まっていた。
「なゆた?!さっきあれほど安静にって……」
「ニ、ニコ……」
「どうしたの?怖い夢でも見た?」
「ボ、ボクに赤ちゃんって出来るの……?」
その瞬間、サクヤは持っていたグラスを落とし割る。
ニコも動きが止まり、
ヤマトは魂が抜けたように立っている。
「な、なななんで…?」
「だって…キスしたら赤ちゃんできるって…」
思考が止まる。それでもニコは頭をフル回転させ問う。
「だ、誰から聞いたの…?それ」
「白夜」
「おいこら狐。出てこい」
「どないしたん?ってなんでみんな般若みたいな顔しとんの…?」
ヤマトが胸ぐらを掴む。
「なになゆたに変なこと吹き込んでんだてめぇ!!!」
「何の話やねん!!!」
ギャーギャー騒ぐヤマトと白夜を無視しニコはなゆたの肩に手を乗せる。
「あ、あのね?キスだけで子供は出来ないのよ?」
「じゃあ、どうやってできるの?」
ヤマトは咄嗟になゆたの元に行く。
「赤ちゃんはな……コウノトリさんが運んでくるんだ」
「それはコウノトリさん重労働だね……」
「わかったか?コウノトリさんが運んでくる。それ以外に答えがない。わかったな?」
ヤマトの圧に押され、ただ頷くことしか出来ない。
「よしいい子だ。ほら、部屋行って寝るぞ」
去り際、白夜が察したようで顔を伏せ笑う。
「あんたね…あの2人を揶揄うのやめなさいよ…」
「あれなゆたが微塵も恋愛知らんの1番おもろない?!あー、おっかしいわぁ。ただの兄妹愛やと思っとる妹と理性に振り回される兄」
「いつ崩壊するんやろぉね」
「崩壊なんかしないわよ。そんなことさせないわ…」
「なーんや、そしたらつまらんわ」
再び部屋に行く。
「なゆた?ああいう話は人前でしたらダメだぞ?」
「どうして?」
「悪い人がコウノトリさんを連れ去るから。ほら、布団に入って」
「たしかに…」
「ん?」
なゆたはジッとヤマトを見る。
「キスで子供できたら、ヤマトはたくさん子供いるってことになるもんね」
表情は見えない。だが、言葉がやけに鋭く冷たい。
"嫉妬"
すぐに理解する。
「なゆた。俺たちは兄妹だ。離れることは無い。進む時も死ぬ時も一緒」
「俺はもうお前さえ居てくれたらなにも要らないんだ。お前が離れるのが1番怖い」
「………兄ちゃんがいたらボクも何もいらないよ」
横になり天井を見る。
「白夜になにか言われたらすぐ言えよ?あいつすーぐ面白がるから」
「わかった」
「じゃ、おやすみ。なゆた」
階段を下りる音。
その音がやけに大きく響き、寂しい。
「次に邪魔してくるやつがいたら容赦なく殺す、妖怪でも人間でも、」
「陰陽師や巫女でさえも」
フツフツと黒い感情。
誰にも渡さない。
誰にも見せない。
ヤマトは、
「兄ちゃんの隣はボクだけでいい」
静かな部屋に小さな声が響いた。




