風邪
「随分と楽しそうに話してたじゃない」
「…不思議な人達だった」
なゆたとニコはテーブルを拭く。
「ほんま綺麗な人やったわ」
「……」
「なゆた?」
なゆたはジッとテーブルを見つめる。
ロブロイ……意味知ってたのかな
「なんでもないよ」
「こっちは片付け終わった」
「こっちも終わったわ。行きましょ」
嫌な予感だけが胸を締める。
部屋に行き、祢々切丸を手に取る。
"時が来れば妖怪を滅ぼします"
妖怪を滅ぼす。
祢々切丸の中の記憶。
これはきっとボクらに対しての警告。
「嫌な刀だなぁ…」
手を離し机に向かい座る。
「祢々切丸…能力を宿す…」
「妖怪を滅ぼす人物…」
「妖怪、滅ぼす…陰陽師、巫女…」
なゆたはペンを止め月を見る。
「あぁ、そういうことね……」
再び、なゆたはペンを動かし気づけば日が差す。
「なゆたー、起きてるか」
ヤマトが部屋に行くとなゆたは外に向かって立っている。
「あれっ、今日は早いんだな」
振り向く。
少し黒く淀んだ目。
「おはよう、兄ちゃん」
すぐいつもの顔にもどる。気のせいかと首を傾げなゆたの元に行く。
「眠れたか?」
「うん」
「じゃあ、顔洗って飯にしようぜ」
2人は階段を降りる。
「今日は服を着ているんだね」
「なゆたに言われたから着るしかないと思って」
「なるほど…」
「あ!おはよう!ヒメたち!」
「おはよう」
なんでもない朝。そんな朝が好き。
だけど、またそう思えば壊れる。
「兄ちゃ──」
振り向いた瞬間、フラッと目眩がする。
その場に倒れ込みなゆたはわけも分からずただ瞳を揺らがせる。
「あ、れ…」
手が震え力が入らない。
「なゆた?!」
ヤマトが駆け寄り背中をさする。
「大丈夫か…?」
「だい、じょうぶ…」
「ちょっと目眩しただけ…」
ヤマトに持ち上げられ椅子に座る。
「顔赤いぞ」
額に手を当てると、
熱
呼吸も荒く汗が滲み出る。
「とりあえず、ベッドに横になろう」
なゆたを持ち上げようとすると、手を払われる。
「大丈夫だって…少し休めば…」
「大丈夫そうに見えないから。大人しく寝てろ」
力が入らずされるがままに連れて行かれる。
「なゆたでも熱出すことあるんやなぁ」
「半分は人間よ?人間と同じ症状は出るわ。それに、」
ニコは眉を下げ、ただ連れて行かれるなゆたを見つめる。
「最近は色んなことがありすぎて知らぬ間に疲れが出たんでしょうね」
ベッドに寝かせる。
荒い呼吸、汗、ぐったりとした姿。
「今、冷やすもんと飲み物持ってくるから」
その場から離れようとした瞬間、ふと机に目がいく。
大量の文字が書かれたノート。祢々切丸のことについて書いてあった。
そういえば…起こしに行った時、すでに起きてた。徹夜で何か考えていたのか…?
睡眠を大事にするなゆた。
そんななゆたが徹夜でなにかやるとは思えなかった。
「もうちょい兄ちゃんを…仲間を頼れよな」
小さく呟き、部屋を出る。
「なゆたは?」
「寝ている。とりあえず、冷やすもんと飲み物準備する」
「タオル濡らしてくるわね」
◇◆◇◆
「やぁ、なゆた」
白い空間。その目の前には、
黄泉が立っている。
「…夢?」
「夢だよ。本当に随分と大きくなったね」
「なんでいるの?」
「なゆたが呼んだからだろう?」
優しい笑顔。
もう二度と見れない顔。
なゆたはただ呆然と立つ。
「ボクが呼んだ…?」
「そう。なゆたが知らない間にね」
「それより、なゆたは仲間が信用出来ないの?」
寂しそうな顔。なゆたは眉を顰める。
「…どうして?」
「なんでも1人で抱え込んでいたらヤマトは特に気にするんじゃないかな」
「ヤマトのことわかるの?」
その言葉に黄泉は目を開く。
「そりゃあ…わかるよ。俺の大事な友達だからね」
「…ボクは2回も兄様を刺した。どういう顔をしていいかわからない」
「ヤマトにも兄様にも合わせる顔がない」
そっと近づく。そして、
頭を優しく、壊れ物を扱うかのように撫でる。
「大丈夫だよ。なゆたが思ってるほどヤマトは気にしていない。ねぇ、なゆた」
「能力の使い方。ちゃんと知らなきゃだね」
「知っ、てるの…?」
「もちろん。俺はなゆたの兄様だからね」
その瞬間、白い光が溢れる。
温かい感覚。
「なゆた。もう戻りな?ヤマトたちが心配している」
「でも、戻ったら…」
「戻ったら…兄様とは会えない…」
優しく、だけど強く、
なゆたの手を握る。
「俺はずっとなゆたの中にいる。ヤマトの中にもだ。独りじゃない。なゆたにはヤマトという兄ちゃんがいる。ニコとサクヤ、そして白夜やクロガネもいる。大丈夫だよ」
「俺はずっと見守っているよ。なゆた」
「……っ?!」
「なゆた!!!」
目を開ける。目の前にはヤマト。
「あ、れ…」
「大丈夫か?!随分、魘されてたから…」
額に冷たい感覚。タオルが置かれている。
「ごめ…ボク…」
「疲れが出たんだろ。今日はこのまま休もうか」
なゆたは布団を頭まで被せる。
「また迷惑かけた…ごめん」
「迷惑なんてかけまくろうぜ?かけまくって助け合うのが仲間だろ?それに、」
「なゆたのことを迷惑だなんて思ったこと人生で一度たりともない」
「……うん」
少しだけ頭を出しヤマトを見る。その顔は優しい顔。
さっき、なんの夢見てたっけ…
思い出せない。けど、ヤマトと似た優しい笑顔。
「食欲はあるか?」
「あんまり」
「でも食べなきゃ治んないからな。卵粥作ってやるから待ってろ」
「まって」
袖を引く。
「もう少し…もう少しだけ横にいて」
「…わかったよ」
ヤマトはベッドの端に座りなゆたを見る。
「…」
静かな空間。カーテンだけが揺れる。
「なぁ、なゆた」
「…ん?」
「俺のことは焦んなくていいからな」
「…でも、」
「最初は怖かったけど、なゆたは抑えられている。それが何より嬉しいんだ」
いつも出ていた黒い霧は少しも出ていない。
ただヤマトはその成長が嬉しかった反面、
またひとつの嘘。自分が必要じゃなくなる恐怖をかかえている。




