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ロブロイ

「…野菜がない…だれか、買ってきてくれるか?」


サクヤが冷蔵庫を覗く。

誰も手をあげない。

だが、その中でなゆたは手を挙げる。


「ボク、買ってくる」


「え、まじ?俺…着いていけないし」


「なんで?」


「俺は夜に出す食材の下準備やってる最中」


「ニコは?」


「私もサクヤから頼まれてて…あ!」


ニコは白夜に目を向ける。

近づき、肩に手を置く。


「ねぇ、ヒメに着いて行ってあげて」


「なんで俺が…1人でも行けるやろ?お子ちゃまやないんやから」


「ヒマでしょ?夜はあんたも働かせるんだから。ね?お願い」


上目遣いでお願いされ、白夜はため息を吐く。


「はぁ…わかったよ。ほら、何買ってこればええの?」


「ここのメモに書いてあるやつを頼む」


サクヤは白夜に耳打ちをする。


「あと、なゆたを一人で行かせられない」


ヒソヒソ声に自然と白夜もヒソヒソ声になる。


「なんでや…?狙われとるからか…?」


「いや…なゆた1人に行かせると大量のお菓子を買って帰る。それを止める役が必要なんだ」


「なんっっやそれ!!!クソガキやん!」


「おい!俺のなゆたに向かってクソガキってなんだ!クソガキって!!!」

「なゆたはな!ちょっと自分に素直なだけだ!!」


なゆたに抱きつくヤマトを見て、白夜は呆れた顔で指をさす。


「てめぇがそうやって甘やかすからやろうがい!!!!厳しく躾せぇや!!!!クソ犬!!」


「んだとてめぇ!!!可愛い妹のお願いなんて断れるわけねぇだろ!!」


「一旦、死んで冷静になってから生き返ってこいこのシスコン野郎!!!」


ギャーギャー言い合う横でなゆたは気にもせず外に出ようとする。


「いってきます」


「いってらっしゃーい!」


「あ、ちょい待ち。ほな、子守り行ってくるわ」


「へいへい。気をつけろよ」


なゆたと白夜は並び、メモを見る。


「人参、キュウリ…………ピーマン…」


「なんでピーマンだけ嫌そうなん」


「ピーマン嫌い」


「お前マジでお子ちゃまやん」


「苦いじゃん…あれ…」


「そんな苦いか?」


「あと、お菓子」


白夜はなゆたの前に立ち止まる。


「なゆた、言っとくが俺はあの3人と比べて甘やかすことはないからな」


「…甘やかされることない。今日は、お菓子1個だけ」


強い眼差し。

白夜は肩を下ろす。


「ま、1個ぐらいならええんちゃう?」


「結局、白夜も甘いね」


頼まれたものを買う。


帰るとニコは目を見開く。頼んだ以上の大量の袋に満足そうななゆたと気まずそうにする白夜。


「な、なによこれ…」


「いや?止めるつもりではおったんよ?ただやっぱ妖怪の王ですわ!はっはー!」


白夜は笑っていたと思えば無駄ひとつない動きで土手座をする。


「すみません。止められませんでした」


「なゆたの大変さがわかるでしょ?」


「マジでこの子ヤバいわ…手を引こうが抱えようがすり抜けてお菓子コーナーに一直線」


「でも、白夜も楽しそうにお菓子選んでた」


白夜の肩が震える。目線を逸らし汗が出る。


「い、いや……あの……俺、お菓子食べたこと無かったから……興味が…」


「限度ってものがあるでしょうが!!!!このバカ狐!!!」


「その分、ちゃーーんと働くんで!許してや!!」


手を合わせチラッと見る。


「今日は奴隷のようにこき使ってやるわ。覚悟なさい」


「ありがとーニコちゃーん」


ニコはため息をつく。


「で、なゆた。あなたもよ」


ビクッと固まる。


「お菓子は何個までって言った?」


「さ、3個……」


「そうよね?しばらくお菓子買うの禁止令を出します」


「……はい……」


小さく返事をする。そこにヤマトとサクヤがやってくる。


「おかえりーって、うわっなにこの大量の袋」


「この2人のお菓子。でも頼んだものはちゃんと買ってきてくれたわ」


「買いすぎだろ…お菓子パーティーレベルじゃないぞこれ」


「まぁ、これを客に出すっていうのもありだな」


「えぇ…ボクのお菓子なのに…」


なゆたはメソメソと袋を抱え、キッチンの棚に仕舞う。


「そろそろ開店時間よ。着替えて準備してきてちょうだい」


「はぁい」


「うん」


店が開店する。


カラン


音を立ててドアが開く。

いつもの笑顔。


「いらっしゃいませー!」


そこには綺麗な顔をした女性と若い男性。


「2名行けますか?」


「はい、こちらのテーブルどうぞ」


席を案内しメニューを見る。


「あの、すみません。この、オススメってなんですか?」


「こちらは…あそこに座ってる子の気まぐれカクテルになります!」


その瞬間、なゆたは面倒くさそうにニコを見る。


「お、お客さんかと思ったらあの子も店員なのね…」


「お酒飲んで接客なんて初めて見ました」


「少し、めんどくさがり屋なので。本日のオススメにされますか?」


「そうですね。それにします」


「はーい!」


ニコは伝票をなゆたに持ってく。


「はい、注文が入ったわよ」


なゆたは少し考えたあと、白夜の元に行く。


「どないしたん?」


「おすすめカクテル作って」


「はぁ?めんどくさ」


「ニコからのお願い」


「ニコちゃんからか〜…まぁ、ええで。何作ればいいん?」


「なんでもいい」


チラッと2人組を見る。


カップル…?でもどこか距離がある。仕事の上司と部下…そんなふうに見える。けど、わざわざこんな森の中にあるバーにくるのかな。街から離れてる。

妖怪…?


見つめていると目が合う。


「こんばんは、小さな店員さん」


優しく笑う。


「こん、ばんは…」


持っていたグラスが揺れ、女性が近づく。


「それは何飲んでいるの?」


「これは…ブルドッグ」


「ブルドッグって…お酒よね?成人しているんですか?」


「一応…」


ジッと見つめられなゆたは首を傾げる。


「あなた──」


「お待たせしました。綺麗な貴女にはカシスソーダ、あのお兄さんにはもう渡してあるのでこちらに」


言いかけた時、白夜がグラスを目の前に持っていく。


「ありがとうございます。この小さな店員さんに1杯いいかしら?そうね…では、この子にロブロイを」


「え?」


女性はニコッとなゆたに笑う。


「あなた、可愛らしいからお話がしたいわ。そうね、悩みとか聞いて欲しいんです」


チラッとニコを見ると微笑まれる。その目は、

"話してあげて"

そう聞こえた。


「わかりました。では…」


なゆたは席に座る。どこか落ち着かずソワソワしていた。


「緊張しなくて大丈夫ですよ。でもビックリ。こんな可愛らしい子が成人しているなんて」


「本当ですね。俺の妹より幼く見える」


「…2人は仕事の上司と部下ですか?」


「よくわかりましたね。私が上司でこっちが部下なんです」


コトッとなゆたの前にグラス。顔をあげるとヤマトがいた。


「ロブロイになります。もし、なにかあればお申し付けください」


「ありがとうございます」


去っていくヤマトを見つめる。その様子を女性は見ていた。


「あの、赤髪の青年と仲がいいんですか?」


「…昔から一緒にいるので」


「幼なじみってやつですね!」


なゆたは目を伏せる。


そして、


「いえ、兄です。たった世界で1人だけの」


「兄…?」


「乾杯いいですか?」


グラスを持ち上げ乾杯する。


「どうしてロブロイなんですか?」


「ロブロイ好きなんですよ」


1口、カシスソーダを飲む。


「カシスソーダの意味は…魅力的な女性。あの、金髪の店員さんなかなかの女たらしですね」


「海で女性に話しかけてたのも女たらしに入りますか?」


目をパチクリ開けた後、女性は笑った。


「ふふふっ、それは完全な女たらしですよ」


しばらく話す。


「そろそろお時間が…」


「もうそんな時間?ありがとう。小さな店員さん。楽しかったです。最後に…」

「お名前教えていただいてもいいですか?」


「えっと…なゆたです」


「なゆた?そう…」

「あなたが…」


笑う女性になゆたはまた首を傾げる。


「名前も可愛らしいんですね。それじゃあ、行きましょうか。私の名前は神咲です。こちらは桜木。またお会いしましょう。なゆたさん」


会計を済ませ2人は出ていく。


「神咲…桜木…」


「なゆたー、グラス洗ってー」


「今行く」


呼ばれ厨房の中に入る。


外では風が吹く。


「まさかあれがなゆたなんて…想像と全然違いました」


「お酒飲んで成人してたけど、中身はどこかで止まっている…なにか事情があるかもしれない」


月は笑うように照らす。


「何がどうあれ、忌み子の王なゆたと接触は出来ました。これからどうするんですか?陰陽師様」


「ロブロイを選んだ理由がわかる?」


月に光る青い目の奥はなゆた。


「必ず奪い殺す」


2人は闇の中に消えていく。

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