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燃え尽き王の再燃  作者: オリーゼ


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5/8

感傷——氷雪将軍の晒し籠

「賑わっとるな!」

 そう声をあげたサミュエルと同じ感想をヴィルヘルムもハンバーの港に降り立った瞬間に抱いた。

 この辺りの人間ばかりではなく、サミュエルと同じくことさら白い肌に淡い色合いの髪の北方の民や、褐色肌に金髪の南東の隣国の民、多くはないが東方の民も河岸(かし)を行き交い、荷積や荷下ろしをしている。

「どうします? 娼館に行くにはまだ早いですし」

 決定事項のように言うオリヴェルにヴィルヘルムは首を振った。

「俺は行かないからな」

「ヴィルさんの奥さん、強いし怖いですもんね。睨まれたらチビっちゃう」

「あの細君じゃなぁ……。ま、まずは観光でもするか」

 分かる分かる、と分かっていないサミュエルがしたり顔で頷いた。

 妻は自分が娼館に行っても何も思わない。国と息子のために手を結んだ同志で、忠誠と契約で結ばれた関係だ。

 サミュエルはこの街の簡単な地図と観光名所が描かれた案内板に視線を止め、嘲笑をあげた。

「氷雪将軍の晒し籠! あの腐れ野郎が今や観光名所ってのは痛快だな! 見にいってやろうじゃないか!」

 大灯台、王立植物園に露店街と他にも見所があるなか、サミュエルが選んだのはハンバー河の河口にある処刑場だった。

 公開処刑が行われるときはここに処刑台が設置されて庶民のための非日常の娯楽になる。

 だが今は空き地の隅に、人の背三人分ほどの高さの木製の吊り柱がぽつんと置かれるだけの閑散とした場所だった。

 柱の天辺には鉄籠が下げられ、海からの風で微かに揺れてキィキィと耳障りな音を立てている。

「……分かっちゃいたが。生前の面影はないな」

 それを見上げたサミュエルがただ静かに言葉を発した。

「あったって困りますヨ」

 籠の中で朽ちてもなお野晒しにされている骸骨は、生前氷雪将軍と呼ばわれその残虐さにおいて悪名を恣にした男の成れの果てだった。

 彼はベルニカの近隣の国々を滅ぼしてサミュエルの治めていたベルニカ公爵領を蹂躙した。

 また、内通者の情報を元にエリアスの乗る船を襲って死を偽装し、リベルタの奴隷商に売ったのもこの男だ。

 そのように長くメルシアのあちこちで恐怖と死を振り撒いたこの男は、最終的にリベルタで捕縛され、絞首の上、遺骸の晒刑を課せられた。

「本当に腐りきっちまったな……」

「なんかこみあげてきたりするかもと思いましたケド、なんも感じないっすネ」

 瞳に翳を落としながらもへらりと笑ったオリヴェルの頭をサミュエルがわしわしと撫でる。

「お前がベルニカに来たのは赤子の頃だからな。ディアーラの事は覚えておるまい」

 ディアーラはノーザンバラ帝国とベルニカ領の間にあって帝国に滅ぼされた小国だ。

「そういえば、オリヴェルはディアーラ王の遺児だったな」

「まあ、一応? 覚えちゃいないですケド」

 オリヴェルが返してその視線を籠まであげたところで不意に会話が途絶えた。

 二人とも骸を見つめているが、実際に見ているのは、敵国ノーザンバラ帝国との戦いの日々や氷雪将軍の犠牲になった人々との過去だろう。

 ヴィルヘルムも二人にならって、骸を見つめた。

 この男が絞首刑から十五年以上たってもなお晒し籠から降ろされないのはこの地を管理する兄の意向だ。

 その事実から、兄の深い憤りを読み取ってヴィルヘルムの心は竦んだ。

「さっ、行くぞ! 死んだおっさんの骨で過去に浸るのはこれぐらいで充分だ」

 サミュエルによって沈黙が破られ、時間が動き出す。

「次はどうします? 露店街で小腹を……いや、自分で言ってなんですけど、これの後に買い食いは盛り上がりませんネ」

「植物園に行かないか? 温室にリベルタの珍しい植物がたくさん植えられて、一般公開されて人気だとリアムにも勧められた」

「仕事熱心な事だ。ダメ親父からの挽回も辛いもんだなぁ。ヴィル」

「その点、オレ達はもう挽回できないとこまで来てるから気楽なもんですヨ。今回送り出されたんだって、絶対厄介払いですし」

「なんだとー‼︎」

「毎回アーニー坊や投げるの、姫さん激怒してましたからね!」

「ヤンチャなアーニーは喜んでるだろ! ソフィアもそうやって育ったんだ。文句などあるものか!」

 内心オリヴェルに賛成だが、関わるのも面倒だ。

「ほら、植物園に行くぞ」

 またしてもキャンキャン始まった二人を尻目に植物園までの道を歩く。

 気楽な次男坊だった頃はお忍びでしょっちゅう来ていた港湾地域の裏路地に、かつてのどこか燻った肌感はない。

 整備されて、愛しむべき猥雑さが排除された無乾燥さだけがそこにあった。

「変わったなぁ……」

 その独り言は自分に向けたものか、それとも街に向けたものか、ヴィルヘルム自身にも判じきることができなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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氷雪将軍(ジェネラルフロスト)はニコライ・ナザロフという男で、男娼王子で本人が、NTR王子でその息子が敵役として出てきています。

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