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燃え尽き王の再燃  作者: オリーゼ


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36/37

その恩はなにより重い

本日の更新、3/4です。

「陛下、お時間です」

「ああ」

 部下に声をかけられ、サミュエルは頷いた。

 メルシア王国の密使が非公式に王同士での会合を求めてきた。

 会談の場所はこちらの意を汲むといわれてサミュエルはそれを了承した。

 部下達は暗殺を心配していたが、どのみち負けが込んでいるのだ。メルシア王の首を取れば後顧の憂いが晴れ、いまだに抵抗している国々も少しは楽になるだろう。

 会談場所はベルニカ郊外の家屋にした。

 そこは元牧場で伏兵を張りづらく、かと言って人の行き来がないわけではないから、ベルニカ人である自分たちが秘密裏に部下を配置しても怪しまれない。

 王だと分からない格好で会談場所に赴くと、すでにそこには農夫の服装をした壮年の男が粗末な木の椅子に座っていた。

「貴様がメルシア王か」

 確認したのは、素朴な農夫の姿が他者を騙すためにしてもあまりにも自然だったからだ。

 そして、彼の兄であるエリアスとは知己であったが、似たところがなかったからだ。

「少し違うな。今は、《《メルシア連合王国》》国王、ヴィルヘルム・ブリッツ・トレヴィラス。本日は来ていただいたこと感謝する」

 思ったよりも腰の低い男にサミュエルは眉を吊り上げた。

「何用だ? 恭順を求めるのならば、時間の無駄だぞ」

「まさか。恭順などしてもらったら困る。特に今はな」

 さらりと敵対しろと口に出されて、その言葉の意味するところを掴みかねた。

「何をしにきた。恭順への説得じゃないのか? 我々は敵同士だろう?」

 それを小さく鼻で笑ったヴィルヘルムは言い切った。

「敵はティグ川の向こうだろう」

 その言葉がどこを指すのか子供でも分かる。背中の毛が聳り立つ感覚と、一筋の光明を感じながらも真意を測りかねてサミュエルは瞬きもなく男を見据えた。

「それを、俺の前で言う理由はなんだ」

「あと一年だ」

 それには答えず、ヴィルヘルムはサミュエルの目を見てはっきりと告げた。澱んでいるが、まっすぐな瞳をしていて引き込まれる。

「一年で今の盤面をひっくり返す。だからその一年間、ノーザンバラの敵として耐えて欲しい。その間は秘密裏にメルシア連合王国から貴国に支援を行う。ただしノーザンバラを欺くために事前に予告の上で攻撃は仕掛ける。そして一年後に同盟を結んで反転攻勢の一翼をになって欲しい」

「一年……長いな」

「今、内部からジェネラル・フロスト排斥の工作をしている。奴が戦場に出なくなれば少しはマシだろう? 当座の食糧を持ってきた。使ってくれ」

「罠ではない保証は?」

「ないな。信じて欲しいとしか言えないが、滅びかけの国一つにわざわざそんな罠をかける必要があるか?」

「もっともだ……」

 そう、ベルニカは滅びの上にある。もはや正攻法で挟撃されれば終わりだ。これから本格的な冬になれば餓死者はもっと増えるだろう。

「あまり長くもいられないんだ。ノーザンバラにバレたら首が飛ぶ。綱渡りの毎日だが、あの国を地獄に落とすまでは死ねないからな」

 立ち上がったヴィルヘルムにサミュエルは問うた。

「答えは聞いていかんのか?」

「聞こうが聞くまいがやることは一緒だ。一年間、ノーザンバラと連携して貴国に攻撃を仕掛け、一年後に正しい国境までノーザンバラを押し返す。それまで死ぬなよ?」

「誰に言っている。死ぬものか! やってやろうじゃないか!」

 ヴィルヘルムの挑戦的な言動にサミュエルは奮い立った。

「そうだ。もし思い入れのある馬ならば別だが、ここまで馬車を引いてきた馬が疲れていてな。貴殿の乗ってきた馬と交換してもらうことはできないだろうか? 一年後にお返しする」

「……死にかけの痩せ馬でよければ好きに乗っていけ」

 サミュエルが子供の頃から愛しんだ馬はもうとっくに死んで己の腹の中だ。

「馬車も置いていくから使ってくれ。山羊は姫君への誕生祝いだ。可愛がって欲しいが、糧にしてくれてもいい」

 ヴィルヘルムが去り、荷馬車を見てサミュエルは驚愕した。

 疲れているなどとんでもない。

 二頭立ての馬はどちらも立派で、先ほど変えた馬とは比べ物にならない。

 そして片方は産後らしくて乳が出る。

 荷馬車の中には飼葉があり、山羊も乗っていた。こちらは腹が膨れていて、じきに子供が産まれるようだ。仔山羊が産まれれば乳が出る。

 これでしばらくは保つだろう。

 ソフィアならば生き延びることができるかもしれない。

「ぐっ……っ!」

 サミュエルは胸を抑えて、ヴィルヘルムが馬に乗って帰った方向に向かって深く深くこうべを垂れた。

お読みいただきありがとうございます。次話完結です。

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