帰国
お読みいただきありがとうございます。文字数上限があるのではっきりとは申し上げられませんが、あと3話程度で完結の予定です。
事件が解決し、マグノリアが夫のモーリスと再会してから数日後、ディックによって驚くほど速やかに二人は、オクシデンス商会の商船フェア・オフィーリア号に乗せられメルシアに送りかえされた。
余談になるが、サミュエルと共にメルシアに来ることを断ったギャビーは友人と共にモーリスの商会の丁稚として働くことになったらしい。
目端の効く少年だ。人格者の商会主に育てられて元気に成長していくだろう。
商船は船脚が速く、定期船だと二ヶ月掛かる航路を一ヶ月半で進んであっという間にハンバーに辿り着いた。
メルシアに戻ったヴィルヘルムは身体を震わせた。
「寒っ……」
旅立ったのは夏の終わりで、向こうは常夏だった。出発から四ヶ月の歳月が経過し、初冬のメルシアの空気は身を切るように冷たい。
「今までメルシアで寒さなんぞ感じたことはなかったが、向こうが暑すぎたせいだな。寒さが骨身に染みるわい」
あたりにくしゃみを響かせたサミュエルも身を震わせている。
「覚悟は決まったか?」
上陸準備をする船員を甲板で見つめていると、サミュエルがぽつりと尋ねる。
「じゃなきゃ、帰ろうなんて言わない」
ヴィルヘルムは荷物の中の青磁の皿の包みを袋の上から撫でた。
元々兄は自分のことを何度も許すと言ってくれているのだ。それを受け取りきれなかった。兄の家族を殺したも同然の自分の行いや愚かさを許せなかった。そしてそれ以上に、兄に向き合えなかった。
だから、あの時メルシュに行くことを臆し、また逃げた。それこそがさらに砂をかける行為だというのに。
船を降りるとエリアスの紋章のついた馬車が待ち構えていて、オリヴェルが疲れた表情を浮かべてその前に立っていた。
「お迎えにあがりましたヨ」
「なんかお前、疲れてないか? 贅沢し疲れか?」
サミュエルがチクリと嫌味の針を刺すとオリヴェルは乾いた笑いを返した。
「あの手紙書いたあとしばらくは、ほーんと下にも置かないおもてなしだったんですヨ。でもですね……ちょーっと調子に乗りすぎたら、その後、体で返せとばかりにすごい勢いで仕事をふられたり鍛錬の相手に赤狼団の連中に駆り出されたりしまして、その後はもうずっとこき使われっぱなしですヨ……」
だから帰ってきてくれて嬉しいです! とにこやかな笑顔を浮かべてオリヴェルは二人を馬車に案内した。
馬車には暖かい毛皮の外套も用意されていたし、軽食も用意されており、座席の座り心地もよく、兄の優しさが感じられる。
発車してしばらく経ち、寛いだ空気が馬車内に満ちた頃、サミュエルがおもむろに懐から箱を取り出した。
「オリヴェル。土産だ」
「なんです? これ?」
「ディアーラの氷華。彼の国の国宝だ。お前の父親から託されたものの事情があって手放した物だ。それをリベルタのオークションで見つけて買い戻した」
「へぇ……」
手に取ったオリヴェルは馬車の窓からさす光にディアーラの氷華を翳して、目を細めた。
「お前に渡すように言われている。仕立て直して……」
「えっ! これくれるんですか⁈ 実は最近通ってる娼館にお気に入りの娘がいて、その子への贈り物探してたんすヨネ。喜んでくれるかな?」
へらへらとはしゃぐオリヴェルに雷と拳骨を落として、サミュエルは再びそれを懐にしまいこむ。
「ばっかもーん! 国宝を遊び相手へのちょっとした贈り物にしようとするな! もういい! 妹に渡す!」
「えー。母上も元旦那の形見とか、いらないとおもいますけど」
「そういう問題じゃあない! このボケマラめ! メルシアについたら、赤狼団の手だれと共にしごいてくれる!」
「いでっ! いでででで! 拳骨でぐりぐりするのやめてくださいよ!」
二人のやりとりを眺めながら、ヴィルヘルムは小さく笑いをこぼした。
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