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燃え尽き王の再燃  作者: オリーゼ


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Home Sweet Home

「おっさん! 聖女様! 船が到着したって‼︎」

 ギャビーの報告を耳にして、看病の手伝いをしていたマグノリアが身体を強張らせたのを二人は見逃さなかった。

「もしも彼に拒絶されたら、その時に考えます」

 だが、何か声をかけようか悩む前に、マグノリアはサミュエルに言われたように背を伸ばして微笑んだ。

 気丈なマグノリアに、サミュエルは顎をこすりながら言った。

「なあ、提案なんだが、お前の旦那に見る目がなくて捨てられちまったら、ベルニカで俺の妾にならないか?」

「えっ⁇」

「言い方を考えろ! ど阿呆め! 台無しだ!」

 驚きで声も出ないマグノリアの代わりにヴィルヘルムはサミュエルの後頭部を思い切り引っ叩いた。

 それと同時にもう一つ、小さな影がちょろりとサミュエルの前に踊りだしてその脛を蹴飛ばした。

「っ!! でぇえええ! お前ら、なぁにすんだ!」

「なんてこと言うんだ‼︎ そんけーしてたのに! 最悪だ! 聖女様! もしも旦那がひどいやつで帰りたくないならオレのお嫁さんになってください! 若さと愛はこのクソみたいなおっさんの百倍です!」

「ションベン垂れのガキはすっこんでろ!」

 好漢から一気に人倫最低ライン上の好色ダメおじさんに堕して子供と口喧嘩を始めるサミュエルを見て、ヴィルヘルムはため息をつき、額を抑えた。

「サムのやつが変な事を言ったな」

「いえ……。逆に心が決まりました。夫に見限られたら、針子でも、代書でも、メイドでも、綿花農場でも、働いて糧を得て一人で生きることにします。私が愛しているのは夫だけです」

「一人で生きるってなんのことだ! マギー!」

 甲高い大声と共にドアを開けて、柔らかなパン種のような短躯の男がマグノリアの腰に抱きついた。

「きみが! 無事でよかった! 本当に! よかった。怪我と病は平気なのかい? まだ寝てた方がいいんじゃないか? ボクが代わりになんでもやるから寝ていておくれ」

「なんだ、この白パンは?」

「なんだとはなんだ! ボクはマグノリアの夫のモーリスだ!」

 滂沱の涙を流しながらもサミュエルに臆さず、きりりとまなじりを吊り上げた男はマグノリアの夫だった。

「そうだ。それより、なんで一人で生きるなんて言っているんだ。ボクは君がいなかったら生きていけないよ。見てくれ! 君が行方不明になってから、食事が喉を通らなくなってこんなに痩せてしまった……!」

「痩せたんか? あれで?」

 サミュエルをもう一発はたきながら、ヴィルヘルムは二人のやりとりを注視した。

「心配かけてごめんなさい……私、顔に魚人痘の跡が残ってしまって。貴方に嫌われてしまうかもって……」

「あ、そういえば何かあるね。君が気になるなら、医者を呼んで、化粧品でも薬でも用意しよう」

「気にならないんですか?」

「え? なんで? 君は君だろ?」

 あっさりと言ってのけた男をマグノリアは愛し気に抱きしめて言った。

「愛して、います……! 捕まっている間、ずっと貴方のことを思っていた。それを伝えたかった」

「ボクもだよ! マグノリア!」

 再会の喜びに沸く二人を眺めながらサミュエルは肩をすくめた。

「やれやれ。いい女はいい男とくっつくもんだから、しゃーなしか。とはいえ、甘すぎて少々胸が焼けるな」

 あーあ、クズ男だったらベルニカに連れ帰ったのに、と全く残念そうでなく言ったサミュエルをヴィルヘルムは諭した。

「妾になれって誘い方はやめとけ。最悪だ。公爵家の保護下に置くための名ばかりの妾だろう」

 ベルニカ地方は戦争と寒さで人の命が軽いから、なんとしても次代に命を繋ぐべきという気風が強い。

 再婚や養子縁組も日常的に行われており、独身女性というだけで明らかに不当な扱いを受けることも多いという。

 だが心身の傷でそういった社会に入れない人間も当然存在しており、それの保護として彼が多数の女性に妾の名目を与えているとヴィルヘルムは知っている。

「名ばかりだとて、好色公爵の妾と後ろ指差されるのは変わらんからな。最初から言うことにしとるんだ。まあ余計なお世話だったが」

 頭を掻いたサミュエルはギャビーに問うた。

「お前はこの後どうするんだ?」

「オレ? 家に戻るよ?」

「お前が良ければだが、ベルニカに来んか?」

「え? 妾として? やだよ」

「ガキがつまらん冗談をいうな! 男の妾もガキの妾も要らん!」

 従士見習いとしてだ、お前は見込みがあると誘うサミュエルにギャビーはかぶりを振った。

「ありがとう。認めてくれて。でもオレの故郷はここだから、ここにいるよ!」

 明朗な少年の答えにヴィルヘルムは故郷にいる家族の事を思い出した。

「あーあ、連敗だ!」

唇を尖らせたサミュエルにヴィルヘルムは提案した。

「なあ、サム。メルシアへ帰ろう」

親指を上げたサミュエルの拳に、ヴィルヘルムは己のそれを軽くぶつけ合わせた。

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