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燃え尽き王の再燃  作者: オリーゼ


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顔を上げて誇れ、そなたは美しい

 ヘンリーをあっさりと捕縛して乱戦を制した二人は、生きている一味を船倉に叩き込んで奴隷島に戻った。

「このたびは私などのためにご尽力いただきありがとうございました」

 魚人痘の薬が効き、立ち上がれるようになったマグノリアがヴィルヘルムとサミュエルにむかって深々と礼を取る。

 立ち振る舞いは美しかったが、肌のあちこちを瘡蓋が覆い、足にはぎこちなさが残っていて、今だに傷病の痛々しさがあった。

「まだ座っていろ。病み上がりに傅かれるのはガラじゃない。大変だったな」

 労いの言葉をかけると、ソファーに座り直したマグノリアは、曇り顔でほんのわずか俯いた。

「卑賤の身に有り余る栄誉でございます」

「やめろやめろ。しゃちほこばって暗い顔をするな。俺らに必要な褒美は美女の憂いなき笑顔と感謝のくちづけだ」

 ここにちゅっとやってくれれば良いんだ、と口元を指差すサミュエルに拳骨のキスをくれてやってヴィルヘルムは眉を下げた。

「この無神経がすまないな。既婚者にかける言葉じゃない。ああ、そうだ。海亀島から連絡が来て、君の夫もディックも一両日中にこの島に入ることが出来そうだと」

「そう……ですか」

 それを聞いたマグノリアの顔が一層深く曇った。

「どうした? 何か憂いがあるのか?」

 首を振ったマグノリアは唇を噛んで重ねた手に爪を立てる。

 鱗のような瘡蓋が剥がれてじんわりと血が滲むのをサミュエルの手が止めた。

「傷を作るな。こういう傷が元になって命を落とすことがある。知っているだろう? ディアーラの娘よ」

「……鏡を見ました。今の私は醜い。傷を負った足も思うように動きません」

「そうだ。その調子で吐き出してしまえ」

 サミュエルは彼女の手を取ったまま、さらりとその横に腰掛ける。

「覚悟はしていました。そのことに後悔はない……けれど、夫に会うのが怖いのです」

 憂いを帯びて伏せられた長い睫毛に涙の雫が小さく煌めき、ややもして頬を流れ落ちる。

「なぜ恐れるのだ? お前の夫はお前のことを愛しているとディックから聞いたぞ」

「血眼になって探していると言っていた。お前もその男を愛しているのだろう? 相愛ならば再会の喜びに胸を躍らせるところじゃないか?」

 ギャビーから彼女が夫に伝えて欲しいと言った言葉を聞いていたヴィルヘルムは、そう尋ねた。

「……だからこそ、怖いんです。相愛だったと思います。けれども、私は買われた妻です。彼が私の顔貌や所作を愛していたのなら、それを喪った私は無価値で、愛は醒めるでしょう」

 彼女はそうなる未来を予測しているのだろう。

 そこには諦めと悲哀があった。

「きっかけがそうだとしても、それだけじゃないだろう? 兄貴は見た目だけで皆に愛されているわけじゃない。それにギャビー達がお前のことを慕っているのは、そういうところじゃないはずだ」

 彼女の向かいの椅子に腰掛けて、その目を見つめながらヴィルヘルムは思ったところを伝えたが、マグノリアはただ悲しい顔で涙を落としただけだった。

 彼女は己の美貌を対価に苦界を生き延びてきたのだ。

 商品価値を喪ったものに対して冷酷な世界を知悉している。

「マグノリア! 顔を上げて、背筋を伸ばし、胸を張れ!」

 ヴィルヘルム達のやり取りを聞いていたサミュエルが、マグノリアの横で突然大声を出した。

「ディアーラの民は不撓の民だ。背を伸ばして困難にあっても誇り高く戦う民だ」

 サミュエルは、驚いた表情で頭をあげたマグノリアをその胸に囲い込んで一転、静かに慈愛深く囁いた。

「大丈夫だ。そなたは毅然と背を伸ばすだけで、誰よりも美しい。そうやって一人、戦ってきたのだろう?」

 サミュエルに縋りついたマグノリアはその胸を涙で濡らして嗚咽を漏らす。

 淡い金髪を優しく漉いたサミュエルはマグノリアに謝罪した。

「ずっと、助けることができず……すまなかった。隣国の王、そして最終的に元ディアーラ王国領を治めることになった公爵として謝罪する」

 そこには万感の思いが込められていた。

 表向きは彼女に宛てて、だが、助けることのできなかった隣国の民すべてに向けて、私人となってやっと口にできた謝罪だった。

 ベルニカ王であったサミュエルにはディアーラ滅亡の瑕疵はない。

 ノーザンバラの陰謀によって、ベルニカへの反感が強まり、サミュエルの妹は離縁されて実家であるベルニカへと返された。

 その後、ディアーラ王はノーザンバラの皇女と結婚して、最終的に国を滅ぼされたのだ。

 それでも、サミュエルは忸怩たる思いを抱えていたのだとおもう。

「もったいない、お言葉……です」

 マグノリアは切れ切れにそれだけ言った。

 それ以上は言葉にならないようだった。

「良く頑張ったな。褒めてつかわす」

 彼女が落ち着くまで、サミュエルは慈父の面持ちでその頭を撫で、髪を漉いてやっていた。

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