成敗
ヴィルヘルムは私掠船でもあるオクシデンス商会の武装船に命じ、サミュエルともにヘンリーの砦へ出航した。
「あれがヘンリーの砦か。ふむ、こちらの方が威力があるな」
望遠鏡で砦の大砲を見たサミュエルがにんまりと笑いながら砲撃を命じた。着弾を確認して砲手に指示を出す。
「少し下にずれとるな。もうちょこっとだけ上だ。あの桟の辺りを狙ってみろ」
サミュエルに海戦の経験はないはずだが、渡河戦の経験を応用してすぐにコツを掴んだ。
軍神の渾名は飾りではない。
兄達が乗組員をしっかりと練り上げていたせいもあるが、船をまるで己の騎馬のように操って、瞬く間に砦の要所を崩していった。
「そろそろ炙り出されてくるだろう。そうしたら接舷して乗り込むぞ」
サミュエルから船の指揮を任され、湾の出口に移動させ待ち伏せすると、ややもして彼の読み通り、ヘンリーの船が砦から出てきた。
砲撃の指示もサミュエルから引き継いで、その距離を測って号令を掛ける。
「よし、一〇〇……五〇……撃て!」
大砲が火を吹き、轟音と共に硝煙を上げて、着弾と同時に木の裂ける音と共にマストが折れる。
完璧なタイミングで敵船の航行能力を奪ったところで、サミュエルの命令が響き渡った。
「接舷せよ!」
慣れた動きの乗組員がすかさず渡板と鉤縄を渡して船同士が繋がれた。
鉤縄を使って危なげなく、真っ先に海賊船に乗り込んだサミュエルは、カトラスを手に海賊船の船員を切り伏せた。
「ヘンリー! どこにいる?」
乱戦を制しながら舵輪へと向かうサミュエルを狙撃手が狙っていた。ヴィルヘルムはマストを登って、逆にその男を撃ち殺すと、ロープと滑車を使ってサミュエルの横に降り立った。
「この間の借りは返したぞ!」
「銃弾をスパッと出来たわい!」
「出来るか! 馬鹿! それよりヘンリーは見つけたか?」
「ああ、そこにいる」
「さて、引導を渡してやろう」
襲いかかる敵を切り捨てながら男の前まで悠々と進んだサミュエルが、辺り一帯に響く声で朗々と告げた。
「奴隷島のヘンリー! 海賊行為及び、魚人痘の特効薬の独占、その他諸々の余罪、あまりにも許しがたい。メルシア連合王国初代国王、ウィリアム一世の名で、捕縛の命がくだっている! 大人しく縛につけ! さすれば苦しまない方法で吊るしてやる!」
「おかしなことを。俺はその陛下から、私掠船の認可及び必要な経済活動の認可を受けている。これこの通り」
自信たっぷりに広げられた書類はヴィルヘルムの名と総督の署名が記されていた。
当然、署名した覚えはない。
「……いや、それ競売人のところで買った偽物だよな?」
思わずそう問うと、ヘンリーは強く言い返してきた。
「言うに事欠いて偽物だと⁈ そう主張するなら証拠を見せてみろ!」
「ここに本人がいるからな!」
サミュエルの言葉に愚弄されたと感じたらしいヘンリーの顔が、怒りで朱に染まる。
「野郎ども! このクソどもを叩き殺せ! 国王の名を語る俺達以上の不届者だ!」
だが、襲いかかってくる敵はサミュエルの脅威にはならなかった。彼らを一撃でいなして、ヘンリーへの道を切り拓く。
「サミュエル、奴隷島のヘンリーを打ち倒し、捕縛しろ!」
「陛下と俺の御心のままに!」
ヴィルヘルムの命令の刹那、サミュエルの手によってヘンリーの体が宙を飛び、背中から激しく床に叩きつけられた。
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