正義の味方
サミュエルと合流したヴィルヘルムは皆を先導してオークションハウスに乗り込むと、競売人のノアを説得して避難場所をその館の一角に設けさせた。
マグノリアにも部屋を一部屋を確保して手厚く保護した。まだ体調が悪く、しっかりと受け答えできる状況ではないが、命に問題はなさそうで安心した。
食事を取らせるためにスラムの住人を集めた中庭の様子を見たノアが憤懣やるかたない様相で呟いた。
「なんで薄汚い貧乏人どもを受け入れないといけないんだ!?」
「対価は払ったろ?」
「元々あの時の金……いえ……なにも!」
ノアはサミュエルの一睨みでさっと愛想笑いを浮かべる。
件の金貨を使ってすぐに調達できる物資を手配して、東地区の住民に今出来る限りの手当を施した。
そして事前に決めていた方法でディックに連絡をとりマグノリアを保護したことを伝え、あわせてヴィルヘルムの署名と印璽を押した書類を作って魚人痘の薬を総督府に用意させるように命じた。
雑務をひと段落させ、怪我をしていない人間を動員してスープを作って配り終わるころにさらりと列に並んだサミュエルがそれを受け取って器を口に運んだ。
「疲れた体に沁みるな。皆も少し落ち着いたようだ」
表情は暗いが、皆落ち着きを取り戻して配給の食事をゆっくりと腹に収める余裕は戻ってきたようだ。
スラム街の被害はサミュエルの尽力と住民の協力で小さく済んだ。
だが亡くなった人間はゼロではないし、木製の天井や床が燃えて元々限界だった家が使い物にならなくなって焼け出された人間は大勢出たし、もちろん怪我人も多い。
そもそもヘンリーが食物の値段を不当に釣り上げ、この地域に配られる予定だった薬を奪い独占していたせいで、病は蔓延してたくさんの住人が魚人痘を悪化させている。
彼らの様子に胸を痛め、その原因を作ったヘンリーに対して許し難いという気持ちが強くなった。
「彼らの手当てはひと段落ついたが、我々にはもっと大きな仕事が一つ残っていると思わないか? サム」
ぐいっとスープを飲み干したサミュエルは力強く言い切った。
「お前が行くというのなら、地獄にだってつきあってやる。とはいえ、海賊退治はお前が来なくても行くつもりだったがな」
「いや、そこは誘えよ」
「何の話してるの?」
食器を回収して歩いていたギャビーが足を止めた。
顔に痛々しいあざもあるが、マグノリアと友人が助かったことで前向きさを見せ、初対面の時にヴィルヘルム達に向けられていた棘は消え失せている。
「海賊狩りに行くつもりでな」
「あいつら、強いし怖いけど大丈夫?」
「誰に言っとるんだ。俺達はもっと強い」
親指で胸をとん、と叩いてみせるサミュエルに賛意を見せてからヴィルヘルムは懸念を示した。
「あいつを倒すのはたやすいが、もっと酷い争いや悪辣な支配者を生むかもしれない。そこだけが心配なんだ」
ギャビーは二人を見上げてはっきりと言い切った。
「オレ達はずっとあいつに酷い目にあわされていた。難しいことは分かんないけど、あいつがいたほうがいいなんてことはないよ」
「お前がそういうなら安心だ」
「ま、反対されてもやるんだが!」
力こぶを見せたサミュエルにギャビーが尋ねた。
「二人とも何者なの?」
「よくぞ聞いてくれた! ある時はモテモテの爆イケおじさん、またある時はラトゥーチェのディックの使者、しかしてその正体は……」
そこでたっぷりと期待させる間をもたせたサミュエルはドヤ顔を決めた。
「弱きを助け、強きを挫く、正義の味方だ!」
「え、自分で言っちゃう? 正義の味方なんて、普通いわないよ!」
目を丸くしたギャビーにヴィルヘルムは肩をすくめた。
「単なる旅人のおじさんだよ」
「旅人か……って! そっちもなんだよそれ!」
ケラケラと笑った少年の様子に自分達に対する警戒はもはやなく、あたたかな信頼があった。
「ああ……そうか。俺はこの国のあちこちを巡って、玉座からでは助けられない、市井で困っている人達に寄り添いたかったんだ」
王位につく前、ずっと抱いていた夢を思い出して口に出すと、サミュエルは笑いながらヴィルヘルムの肩を抱いた。
「つまりは旅人で正義の味方って訳だ。第二の人生として、最高にイカしてるな!」
「……そうだな。つきあってくれるか?」
「さっきも言ったろ、地獄の果てまで付き合ってやる。俺はお前の親友だからな!」
ヴィルヘルムは目の前に出された拳に己の拳を打ち合わせた。
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