想起
燃え尽き王の再燃の前日譚をNTR王子の番外編として掲載しています。
戴冠前夜
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「ほら、食え」
二人はギャビーに新しい服を着せて、食堂に連れていった。
サミュエルが注文し、目の前に並べられた食事とこちらの顔を交互に見たギャビーは音が聞こえそうなほど大きく唾を呑み込み、そして猫のように大きく見開いた瞳で、疑いも露わに睨みつけてくる。
「なんだよこれ。服も新しいやつだし、施していい気分になりたいのか?」
サミュエルはそれに肩をすくめた。
「まさか。俺は汚い服で腹をすかしたガキが大嫌いなんだ」
言った瞬間、実に良いタイミングで少年の腹が鳴った。
「後から金よこせとか、無茶振りしたりすんなよ! 恩にはきないんだからな!」
「もちろんだ」
サミュエルの言葉を聞いたギャビーは、腕でスープボールを囲い込んでスプーンを掴むと、口をボールに寄せ、牛肉と豆の煮込みをかきこんで頬張りながら、揚げパンをかじった。
「いい食べっぷりで結構、結構。ガキは元気に飯を食ってこそだ」
満足そうに笑うサミュエルをギャビーは白い目で見る。
「ほんと、なんなんだよ……おっさん、キモいよ」
「歳取るとな、若い奴に食べさせたくなるんだよ。食べたいだけ頼め。メニュー全品制覇してもいいぞ」
「食べきれないし、そんな借り作れない」
「気になるなら、情報の対価だと思ってもらってもいい。俺達はマグノリアを探すためにここにきた」
ヴィルヘルムがフォローしたとたん、ギャビーは喉を詰まらせた。
少年の背中を叩いてやり、水を渡した。
言葉もなくこちらを伺い見るギャビーの目に浮かぶのは、自分の発言のせいで彼の聖女を危機に陥らせたかもしれないという不安と恐怖。そして、親切にされる事に慣れない他人に対する不信だ。
マグノリアの看病が天涯孤独の少年が初めて受けた無私の親切だったのだろう。
そんな少年のありようはヴィルヘルムに今までの治世への反省とともに、昔自由だった頃に市井に降りるたびに考えていた、一つの気持ちを思い起こさせた。
まずは少年の不安を取り除くために穏やかに言葉を繋げる。
「俺達は彼女の夫に捜索を頼まれたんだ。彼女の乗る船が襲われたと聞いている」
「なんだよ、探してくれる旦那がいるなら傷が治った時にさっさと帰ればよかったんだ! ばっかじゃねえの!」
ギャビーはスプーンの柄を突き立てるように机に叩きつけた。
「聖女様、あんた……ほんとに馬鹿だよ。聖女様はヘンリーのやつに狙われてた。俺達、怪我をして倒れてた聖女様をたまたま見つけて匿ったんだ」
机とスプーンの柄がぶつかるカツカツという音が彼のやり切れなさを代弁するかのように響いた。
「たいしたことしてないんだ。怪我だって軽かった。包帯巻くぐらいしかできなかった。なのに、そんなささいなことを恩に着て、治った後も安全な場所に逃げずに、こんな掃き溜めでオレ達なんかの面倒を見てくれた」
がん、とひときわ強くテーブルが叩かれて、ギャビーは俯いた。
「それで魚人痘にかかってちゃ世話ない」
非難じみた声音で絞り出された声とともに、テーブルにぽつりと小さな雫が落ちた。
「マグノリアのところに連れて行ってもらえるか? 薬は俺たちが贖おう。他の患者達の分も悪いようにはしない」
「皆の分まで買ったら金貨でも足りないよ」
「つまらない心配をするな。そういうのは大人の役目だ」
「……聖女様に聞いてからでいい? 聞けたら……だけど」
「もちろんだ。ラトゥーチェのディックの使いだと伝えてくれればわかるはずだ」
ギャビーに遠慮がちに問われて、ヴィルヘルムは請け負った。
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