トッドの店のパイ
翌日、二人は奴隷島東地区の貧民窟へと足を踏みいれた。
「本当に良かったのか?」
サミュエルに尋ねられ、ヴィルヘルムは冗談めかして返した。
「昨日話し合ったことだ。冒険をして美姫を助けるんだろ」
競売人に差し出された金は借金を返して有り余る額だった。
情報は得たし、その金で借金を返してしまえば無理に解決まで首を突っ込む義理はない。
だがヴィルヘルムはうっすら、サミュエルが単に美女の救出ということだけでない思い入れをこの件に抱いている事を感じとっていた。
自分にとっての兄への慚愧と同じ、割り切ろうと思ってもどうしても割り切れきれない後悔の念だ。
だから昨日どうするか確認した時、解決までこの件に関わろうとサミュエルに言ったのだ。
「そうだな。さて、マグノリアを探すか」
「まずは腹ごしらえだろ」
昨日とはうってかわって古着屋で買った丈の合わない服を着て、細く蛇行するごたついた通りを人の隙間を縫って歩く。
道に張り出したやる気のない屋台を覗き、銅貨を渡して焼いてタレを塗ったマイースを買って齧る。
「どうにも肉が足りんな」
マイースは黄色い小さな実が連なる穀物の茎で、ほんのり甘くておいしく、腹は膨れるものの、穀物なだけあって少し物足りない。
「あそこにミートパイがあるじゃないか」
店主に声をかけ酒と一緒に買ったミートパイを口に運んだサミュエルはそれを飲み込むと、眉間に皺を寄せ口をへの字に曲げて首を振った。
「やめとけ。酒の方はまあ悪くない」
こっちをやると渡された酒に口をつけると、煮しめた雑草のような味わいの後に喉が灼けつきそうな熱が下りていく。
戦場で煽った安酒に近い味は間違いなく不味かったが、懐かしさでなんとか飲める。
ならば違う食べ物をと、隣の屋台で肉の串焼きを買って口に運ぶと、淡白な肉に何種類かのスパイスがまぶされていて、なんの肉か分からないがそれなりに美味い。
だからこそ、サミュエルがやめておけとまで言うミートパイの味が気になった。
「そのミートパイ、そこまで止めるほど不味いのか?」
「お前なら食えるだろうが、悪いことは言わん。やめとけ」
もそ、と口に運んで、耐えるようにそれを飲みくだしたサミュエルは痛みを洗い流すように酒を煽る。
そこにキャスケットを目深に被り、服の袖を何重にもまくりだぶだぶのズボンを吊りでつった子供が前から走ってきて、ぶつかった。
「おっさん! あぶねーだろ! ぼんやり立ってんじゃねーよ!」
すれ違いざま罵倒して走り去ろうとする少年の襟首を、サミュエルが掴んで地面に押しつける。
「うわっ! なっ! なにすんだ!」
「それはこっちのセリフだ! あほんだら!」
「今、俺の財布をスっただろ」
ヴィルヘルムは少年の懐に手を入れて、己の財布を取り返した。
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