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燃え尽き王の再燃  作者: オリーゼ


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老い

 ヴィルヘルムは対峙する敵の剣を短剣で受け流して懐に入り込み、心臓に刃を突き立てた。

 若い頃の動きが出来るイメージで身体を動かし、敵を屠る。

 だがこの暑さと湿気、認めたくはないが老化で身体が重い。

 短剣を一閃するごと、一歩踏み出すほど、出来ていたはずの過去(理想)と動きがずれていく。

  踏み込みが浅くなって体勢が崩れ、跳ね上がった相手の剣が仮面に掠って、顔からずれて動きが淀んだ。

「取った!」

 その敵の声に命の覚悟をしたヴィルヘルムだったが、吹っ飛んだのは声の主だった。

 彼のことを構う余裕がなくなっていた自分と違い、サミュエルはこちらの方までしっかり目端を効かせてくれていたようだ。

「これで借金チャラな!」

「考えとく……が、助かった」

 ヴィルヘルムは荒い息を吐き、外れかけた仮面を投げると、返り血を吸って重くなった上着を脱ぎ捨てた。

「おいおい、だらしないな。息が上がっとるじゃないか!」

「るっさい! お前みたいな体力お化けと一緒にするな。こっちは座りたくもない席に何十年も座りっぱなしだったせいで鈍ってんだ!」

「おーおー、いいぞ! 元気出てきたな!」

 サミュエルはその調子その調子と軽くステップを踏んで鼻歌を歌いながら、襲いくる敵に拳を叩き込んで顎を粉砕し、逆側から来た別の一人を容赦なく蹴り飛ばした。

 この男と荒事で渡り合える人間はメルシア国内でも五人といないのだ。

 サミュエルは二人がかりで来た敵を易々と徒手で叩きのめして彼らの剣を奪い取ると、二本とも構えた。

「愛剣は置いてきちまったからな。二刀流でちょうどいい」

 剣をおもちゃのように振り回しながらも一本で襲いかかる敵を押さえ、逆の一振りで致命の一撃を加える。

 五十を越えても鉄の塊である剣を二振り振り回して息一つ乱さない化け物じみた膂力で、その技量も衰えを知らない。

 かつて王でありながら先陣を切ってその風貌に似合わぬ大剣を振り回し、軍馬で戦場を駆け回って百人の敵を斬り捨て、軍神と呼ばれていた時と変わらぬ動きだ。年齢という経験値によってむしろ冴え渡っているように思う。

 背中を預けるに足る相棒の安定した強さに頼もしさと共に軽い羨望を覚えながら、ヴィルヘルムも先ほど屠った敵の剣を拾った。

 その隙を狙って襲いかかってきた男に対し、体を起こすついでに胴を横なぎに振り抜く。

「どっちが多く斬るか競争するか?」

「俺は負ける勝負は、しない事にしてる」

 それに、とヴィルヘルムは周囲を見回して血まみれのまま笑んだ。

「その提案は遅かったな。もう十を切っている」

 競売人たちが襲撃の舞台に選んだのは、港へ行く途中の植栽に囲まれたちょっとした広場だ。

 だが今はそこに五十人の敵のほぼ全てが倒れ、苦痛に呻き、あるいは事切れて、死屍累々の様相を見せている。

 おそらく彼らは今までも隠れ伏すのに都合のいいこの場所で、こうやって落札品を都合よく()()してきたのだろう。だが、その目論見はもはや打ち砕いた。

「残念。さて、貴様ら、斬られる覚悟は出来てるな?」

老人と競売人の方に視線を投げ、一本だけ手元に残した剣で肩を打ちながら、サミュエルは一歩づつそちらに近づいていった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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