探し人
更新遅くなりました。一応毎日、朝更新を目指していますがストックがなくなったので不定期更新、8月末完結予定とさせていただきます。(公募作品のため)
ディックから頼まれた人探しの話は、ヴィルヘルムの感傷をよそに進んでいた。
「で、誰を探すんだ?」
「三ヶ月前までここで働いていた娘です。名前はマグノリア。ディアーラ人」
サミュエルの問いに、ディックは捜索対象を口にする。
「淡い金髪と白い肌。銀色にも見える淡いグレーの瞳。背は高く細身で脚線の艶かしいディアーラ美人。元貴族」
「なるほど……大体わかった」
サミュエルの声はわずかに苦い。だがディックはそれに気がつかないのか、そのふりをしているのか、態度を変えることなく先ほど出した地図を指差した。
「彼女は身請けされてリベルタ大陸の豪商と結婚し、リベルタ本土のこの街で穏やかに暮らしていました」
「そういやハンバーの屋台の男も、ここの娘に惚れて身請けしたと話しとったな」
「この館に所属した娘達は、最終的に富豪や貴族の妻や後妻に収まる事が多い。後は女優や歌姫ですかね」
ヴィルヘルムはリコリスを思い返した。
彼女の所作は洗練されていた。あの兄の指導を受けているのであれば、どの女性も貴族の妻として充分以上の働きをするだろう。
サミュエルの雑談に応えながらディックは、海亀島を示した。
「ここが海亀島で、隣接しているこちらがオクシデンス島です。マグノリアは彼女の家からオクシデンス島の孤児院へ慰問に向かう途中、突然行方をくらませた」
「夫が嫌で逃げたんじゃないのか?」
買われた妻だ、可能性はあるだろうと尋ねるも、ディックは首を振ってそれを否定した。
「その場合は交渉するから帰ってこいと伝えてあります。彼女らには差し出した物以上の幸福を得て欲しいというのがアレックスの方針ですから」
ここは特殊なんですよ。あの人らしい欺瞞でしょうと口元を緩めたディックは続けた。
「彼女はこの航路の途中、小型船ごと姿を消しているので、今回は特に事件性が高いと考えられてます」
「ん? ある程度は捜索しているのか?」
「もちろん。ただ漫然と探させたりはしません。マグノリアの夫は彼女に惚れ込んでいますからね。総督を巻き込んで辺り一体捜索済です」
けれど彼女は見つからなかった。未捜索地域はこの島だけです、とディックの指が弧を描いた場所には奴隷島と書かれていた。
「剣呑な名前だな」
「実際、名前の通りの場所ですよ。かつてはおおっぴらに奴隷の売買が行われ、アレックスもここで売られてこの娼館に買われました」
さらりと告げられたそれによって、既知の情報に色がつき、胸が詰まる。
「アレックス達の不在が長くなって、彼らは再び組織だって悪さをするようになりました。違法取引や人身売買も増えて、スラム街も形成されている」
ディックは指を曲げて地図の上の奴隷島を叩いた。
「この島の闇オークションへの潜入して、もしそこで彼女を見つけられなければ、島内を探索して手掛かりを見つけてほしい」
「そんな面倒なことせずとも、総督と懇意なら海軍を出して島ごと取り締まってしまえばいい。引退した身だが、それぐらいなら俺が許可を出せるぞ」
ヴィルヘルムの提案に首横に振ったディックがこの近隣の実情を二人に説明した。
「そんなに簡単ならアレックスがいた頃にとっくにやってますよ。あの島は今、食い詰め者の最後の受け皿だ。皿が壊れたら悪党どもが他の島に散らばっていくでしょう? それに、悪党どもは組織を作っていて、下手にどこかに手を出すと島内で抗争が起きかねない。伝手を辿って、腕っぷしの強い人間を、少人数潜入させるのが一番丸いんです」
「なるほど、そう考えるとまさに俺達向きだな! 大規模に潰さなくても局地的に大暴れして美姫を連れ出す程度なら許されるだろ。腕が鳴るぞ! これぞ求めていた冒険だ!」
呵呵大笑するサミュエルに波乱の予感を覚えてそっとディックに視線を投げると、不安気に額に浮かんだ汗を拭く様子が見てとれた。
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