闇オークション
本日より書いて出しです。8月中に完結予定です。毎日目標ですが不定期更新とさせてください。
二人はオクシデンス商会で急遽仕立て直し体型に沿わせた夜会服を身に纏い、奴隷島のオークションハウスに潜入を果たしていた。
案内されたボックス席の天鵞絨張りのソファーに背中を預け、長い足をオットマンに投げ出したサミュエルは、闇オークションの主人のような面持ちを醸し出している。
それに比べて、とヴィルヘルムは上品で典雅な衣装を見下ろし、目元を隠すマスクに触れて首を縮めた。
王位につき金襴緞子に白貂のマントを羽織る毎日を経てさえも、この手の服やこの手の場所にはどうにも馴染めない。
「そうしているといかにも素行の悪い放蕩者だな」
葉巻をふかしワインを嗜みながら、買わなくてすみそうな商品に慣れた様子で入札の手を挙げるサミュエルに、感心半分の心持ちでヴィルヘルムは皮肉った。
「んなこたぁない。こういうべっちょりした奴は俺の遊びの範囲外だ」
他の公爵の名前を出して、彼ら向きだと続けたサミュエルにヴィルヘルムは苦言を呈した。
「それは直球の悪口だぞ」
「お前、なんかエリアスに似てきたぞ。そのガミガミ小うるさいところ。マスクつけてると目元が隠れて顔もちょっと似るし。ちょっとだけ」
指でちょっとの動きをするのも鬱陶しい。ため息を吐いてヴィルヘルムはそれに応える。
「うるさくもなるだろ。負わなくていい借金を負わされたんだ。ほら、オークションに集中しろ」
サミュエルはヴィルヘルムがつけているのと同じ顔の上半分をおおったマスクの位置を直して口元を悪く歪めた。
「はいはい、仰せの通り。ここにいる間は、いい子でいてやるさ。あーあ、行方不明の娘が出れば競り落として一発解決なんだがな」
絶対にそんなことを思ってもいないと分かる声音だ。
さっきもついた今日何度目かも分からないため息をついたところで新たに競売が始まり、ヴィルヘルムはその商品に目を止めた。
緑がかった薄青に細く茶色いひびの入った薄く儚い皿。
そう、ヴィルヘルムが先日割った皿とよく似た一品だ。
「一点ぐらいは買った方がいいんだろ? あれを買わないか?」
「えー! お前、マジで言ってんのか? あんなひび割れた皿買うのか? まだ剣の方が良くないか?」
「壊した皿の代わりだよ」
「まあ止めんが、ひび割れた皿だぞ?」
「俺の懐じゃないし、兄貴の皿に似てるじゃないか」
口先では止めながらも入札してくれたサミュエルのおかげで、ヴィルヘルムは無事に兄のために青磁の皿を入手することが出来た。
「しかしろくなもんがないな」
そのあと出てきた品は確かに表では手に入れにくい物ではあったが、象牙や毛皮などの商品や偽造書類ばかりで目新しくもなく、時間が過ぎていった。
そして、恭しくオークショニアが今日最後の出品を告げた。
「さて、本日最後のお品物を紹介いたします」
「むっ、これで最後か。期待薄だな」
「ノーザンバラ帝国の氷雪将軍ニコライ・ナザロフによって灰燼に帰した麗しの王国ディアーラ。こちらの逸品は、その難を逃れたディアーラの珠玉でございます」
競売人の惹句で耳に飛び込んできたのは、ディアーラという国名だった。
「今、ディアーラと言ったな?」
「ああ、ディアーラの珠玉と言っていた」
しかし色めき立った二人を嘲笑うかのように、舞台の上に置かれていたのはアーネストの握り拳ほどの大きさのサファイアだった。
「言葉通りか!」
顔を天に向けたヴィルヘルムと裏腹に、サミュエルは俯き低く唸り声にも似た声を漏らした。
「ああ……だが、あれは……本物だ。絶対に競り落とす」
普段大袈裟なほどの喜怒哀楽を見せるサミュエルだが、マスクの下のその表情を窺うことはできなかった。
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