表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/58

第43話「ソロでダンジョンへ」

 ――その日の夜。

 大量の地鶏と地酒は、火山の妹たちの手で豪華な夕食に化け、一同は居間に集まっていた。


「うっま!下手したら高級店よりジューシーじゃない!」

「……社長が来なければ新幹線代も守られてたんですがね。食費くらいは出しますよ」


 ゲラゲラ笑う社長の横で、俺は胃痛を噛み殺してお茶をすする。

 少し離れた席では、最上と璃々華が火山の妹たちを質問攻めにしていた。


「ねえ、夕夏センパイって地元では本当に……強かったの?」

「ええ、最強だったんよ!」


 真昼が目を輝かせる。


「まじで姉貴はかっこよくて!タチの悪い連中を全員ボコボコにしてさ!特に"冥竜"とかいうヤバイ連中をぶっ潰したんだよ!『妹と仲間に手を出す奴は骨まで焼き尽くす』って、マジで火を吹いてて……!」

「かっこいい……!炎姫、尊い……!」

「さすがわたくしの見込んだお方ですわ!」

「もう……やめてぇぇええぇ……」


 最上が悶絶し、璃々華が鼻高々に扇子を叩く。火山は座布団に顔を埋めていた。

 そこへ、夏夜がスマホを差し出してくる。


「あの、課長さん。お姉ちゃんをいつも守ってくれてありがとうございます」

「げ……」


 画面には、俺がハイオークから火山を助けた切り抜き動画。


「で、いつお姉ちゃんとお付き合いするんですか?」

「は?」

「だってこんなの、デキてなきゃおかしいですよ」

「俺みたいなおっさんに?ないない」

「今どき歳の差なんて関係ないですって!しかも、課長さんのこと、かっこいいってお姉――」

「な、ななな夏夜ぁぁぁ!?なに言ってんの!?」


 茹でダコになった火山が夏夜の口を塞ぐが、手遅れだ。


「そ、そうです!連実さんに恋愛は、なんか、イメージと違う……」

「そうですわよ。火山さんがお付き合いする際はわたくしを通してもらわないと!」

「えー?でも命がけで助けてくれたんだよ?漫画なら好きにならなきゃじゃん」

「漫画と現実は違うのーっ!」


 その時、ビールジョッキがドンと卓に置かれた。


「へぇー?煉夜くん?年下の可愛い部下に手を出すなんていい度胸じゃない」

「社長、濁った目で見るな。どう考えても上司と部下だろ」

「ほーん?業務でお姫様抱っこするかしら?」

「人命救助だ!アンタもその場に居ただろ!?」


 必死に弁明する俺と、それを面白がってさらに煽る社長。

 そんな俺たちの騒がしいやり取りを、火山は両手で塞がれた夏夜の頭越しに、じっと見つめていた。


「……部下、ですか」


 火山の小さな呟きは喧騒にかき消され、誰の耳にも届かない。

 俺は冷めたお茶を一気に飲み干した。初日の夜にして、俺の精神的ライフはすでに虫の息だった。


 ◆


 翌朝。俺は一人、薄暗いダンジョンの中にいた。

 昨夜、最上がスマホをいじりながら言ったのだ。


『課長、今回はソロ攻略を配信した方がフォロワー伸びますよ。ギャップの需要、ありますって』


 意外にも芯を食った提案だった。

 それにせっかくの火山の帰省だ。たまには部下たちを休ませてやりたい気持ちもあった。

 舞台は、地元の山奥に口を開けた未踏破のC級ダンジョン。

 内部はゴツゴツした岩肌が露出する"坑道"で、ひんやりとした湿気と金属臭が立ち込めている。


 ――ガガ、ガリ、と不気味な岩の擦れ合う音が響いた。


 現れたのは、周囲の岩石を繋ぎ合わせた全高5メートルの巨躯――鉱山型ゴーレムだ。


「よし、配信は回ってるな……」


 @びえら:『え、課長さんのソロ?w』

 @ルビィ:『いきなりゴーレム!?』

 @りりっく:『課長、後ろー!』


 同接数はまだ50人そこそこだが、コメントが流れ出す。

 背後から、丸太のような岩の腕が凄まじい風切り音とともに振り下ろされる。

 俺はノールックのステップで紙一重に回避。直後、岩の拳が地面を爆砕し、坑道に轟音が木霊した。


 @ダイス:『ノールック!?』


 並の物理攻撃を通さないゴーレムは、パーティで組んで魔法で削るのが定石だ。

 だが、俺にそんな悠長な時間はない。


「狙うは一つ……」


 岩石の隙間から見え隠れする、鈍い輝きを放つ青い結晶。

 唯一の弱点――"コア"だ。

 振り下ろされる二撃目を、俺はあえて避けない。岩の腕を駆け上がるように跳躍し、一気に懐へと飛び込んだ。

 そして、剣を突き刺すと、コアが砕ける。


「次……」


 @AKITAKA:『やっぱすげぇ』


 俺は、その着地の勢いのまま、そのまま疾駆する。

 開けた場所に出ると、もう一体のゴーレムが居る。

 ゴーレムが俺を認識する。


「――"アクア・レイ"!」


 ゴーレムのコアに向かって、幻で作り出した水のレーザーを飛ばす。

 しかし、ゴーレムをすり抜けた。


「やべ……ゴーレムには使えないんだっけか」


 @りりっく:『なにしてんのw』


 脳のない無機物のゴーレム相手では、俺の幻覚魔法を"本物"と誤認させるための脳が存在しない。

 すなわち、相手の認識を騙して現実に変える"虚実転換リアライズ"の前提条件が成立しないということだ。


「ボス狙いに切り替える、か」


 俺はゴーレムをスルーしようとする。

 だが、背後から迫る岩石の巨躯は、こちらの都合などお構いなしに、狭い坑道を塞ぐようにして長い剛腕を振りかざした。


「チッ……足止めされるのは効率が悪いな。強行突破するか――」


  俺が剣を順手に持ち替え、強引にすれ違いざまに物理でコアを叩き割ろうとした、その瞬間だった。


 ――ズバァッ!!!

 鼓膜を震わせる凄まじい大気の破裂音。

  俺の眼前にあったはずの5メートルの岩石の巨躯が、突如として放たれた"漆黒の斬撃"によって、中央から真っ二つに両断された。ガラガラと音を立てて崩れ落ちるゴーレムの破片。


 @あまえんぼう:『いまの何』

 @りりっく:『誰か乱入してきたぞwww』


 立ち込める土煙の向こう側。

  身の丈ほどもある無骨な大剣を肩に担ぎ、気怠げに首を鳴らしている一人のダイバーの姿があった。

  黒いレザージャケットに、タイトなジーンズ。長い黒髪を高い位置でポニーテールに結わえ、その切れ味の鋭い瞳が、不機嫌そうにこちらを射抜く。

  その顔立ちには、俺自身も嫌というほど見覚えがあった。


「……ハァ。ウダウダしてんじゃねえよ。クソ兄貴」


 そのハスキーな声が坑道に響く。


「お前……明日香、か!?」


 俺の義妹でありダイバーでもある――連実れんじつ 明日香あすかがそこに立っていた。


「……ハァ。みっともない配信なんかやって。昔の兄貴なら、今の三倍は早く片付けてたでしょ。鈍りすぎなんだよ」


 その言葉は、かつて同じ背中を追いかけていた者としての、苛立ちと失望が入り混じっているようだった。

 冷たく言い放つと、彼女はレザージャケットの襟を正し、躊躇うことなく坑道の闇の奥へと歩き出す。


「ま、待てよ! 明日香!」 


 @キラキラ:『兄貴?』

 @るり:『え、あの明日香!?』

 @さなぎ:『トップダイバーがなんで!?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ