第41話「帰省の提案」
「……えへへ、私、ついカッとなっちゃって」
「社外のトラブルは会社のイメージに関わる。……ま、次からはすぐに俺が間に入るから、適当にあしらっておけ」
男が逃げ去った後、俺たちは広場のベンチに腰を下ろした。
火山は買ったばかりのクレープを愛おしそうにスマホで撮影し、ついでに自撮りまでしている。
「ひ、久々に甘いモン食った気がする」
俺の脳が糖分を求めて歓喜の声を上げる。
「私もです!」
「あれ?けど、お前のSNS、かなりの頻度でカフェ巡りしてないか?」
「あー、あれ、たまの贅沢でカフェ巡りとかしちゃったりはしてるんですけど。ほぼ過去画像ですね」
火山は写真のアップロードを済ませると、満足げに微笑んだ。
「……火山、誰に送ってんだ?」
「はいっ!妹達のグループに送ってます!」
「仲、いいんだな」
「そうなんですよ~!下の妹なんて、甘いものに目がなくて。私が高校に行かせてあげて、今度は上の妹が大学受験で……家計が火の車なんですけどね」
火山はへらりと笑う。その笑顔の裏に、どれだけの苦労が積み重なっているのかを察し、俺はふと、手元のクレープを見つめたまま口を開いた。
「俺にも妹がいるんだよ……と、いっても血は繋がってない。親父が再婚相手と連れてきた子で、俺より10歳下だ」
「えっ、そうなんですか!?煉くんに妹が……」
火山が目を丸くして笑う。
「あいつ、中学の時は派手にグレててな。毎日学校から呼び出し、夜中には警察の世話……本当に暴走機関車だった。今の俺が当時のあいつの扱いに困ってるようなもんだ」
つい、ニヤけてしまう。
「へ、へぇ~……?れ、煉くんも苦労人だったんですね」
火山の目がわずかに泳ぐ。彼女は落ち着かない様子でスマホの画面をタップした。
「そういえば妹さん、今おいくつなんですか?」
「ん? ああ、俺の10歳下だから……22歳……?になったな」
その言葉を聞いた瞬間、火山の表情がピタリと凍りついた。
「……22歳?」
「ああ。確か同い年だろ?」
彼女は自分の手元を凝視したまま、しばらく動かない。先ほどまでの弾むような明るさが、急に湿り気を帯びて冷めていく。
(同じ歳……。ってことは、私、妹みたいに思われてるだけ、なのかな……)
火山が慌てて顔を背ける。
屋上で田中が俺に打ち明けていた件といい、最近、周りの女たちの様子がおかしい気がする。
俺はよく分からず、気まずさを誤魔化すように、少しだけトーンを落として切り出した。
「妹には会ってんのか?」
「えーと、金と仕事の都合で、全然地元に帰れてない……です」
少し気まずそうに、火山は人差し指同士をもじもじと合わせた。
「……そうだな。ダンジョンは全国各地に出現している。出張って名目なら、地元に帰れるかもな」
火山が信じられないものを見るような顔で俺を見た。
「ほ、本当ですか……!?でもそれ……ただの里帰りじゃ……」
「出張だよ。あくまでもな。ダンジョン攻略はする」
俺は肩をすくめて見せた。
「れ、煉くん……!」
火山が感極まったような声を出す。
その時だ。
「――お断りですわ!」
植え込みの裏から、ドレスの裾を翻した結城璃々華が飛び出してきた。
「夕夏さんをそんな辺鄙な場所へ一人で行かせるわけにはいきませんわ!わたくしが護衛として同行いたします!」
「璃々華ちゃん……!?」
「言ったでしょう、わたくしは火山さんのお友達ですの!火山さんの地元と妹さんなら、わたくしも興味がありますわ!」
「一人じゃねーよ」
俺は苦笑しながら後頭部をかいた
「あら、そうなのですか?ですが、妹さんにもご挨拶はしなくてはなりませんので、同行しますわ!」
もうそろそろ潮時だと感じた俺は、結城が飛びだしてきた方に声を掛ける。
「最上、お前も出てこい」
「うぐうっ……バレてました、か」
最上は、渋々と姿を現す。
「ああ、火山は騙せても俺は騙せないぞ」
「……わ、私も……!火山センパイが、変な虫にたかられないよう……同行、します……っ!」
「えー!ありがとう!」
「ところで結城、お前はうちの社員じゃないだろ?」
「ビジネスパートナーですわ!」
結城。こいつの思考回路だけは、理解できない。
「わ!渚ちゃんまで!?」
「ゴメンナサイ……邪魔、しちゃいました……」
「邪魔?二人とも偶然通りかかっただけだよね?」
火山、そんな純粋な瞳でそいつらを見るな。全く違うぞ。シンプルにストーカーだ。
「み、みんな、着いてきてくれるのは嬉しいんだけど……ちょっと……」
「火山、それよりもなんでコイツらがここに居るのかは気にしないのか……?」
「え?偶然ですよね?」
「いや、尾行してた……。ずっと」
何してんだこいつら。
火山が真っ先に拳を突き上げる。最上と璃々華も、互いにバチバチと火花を散らしながらも、「仕方ないから」といった風情で、妙な連帯感を見せつけ始めたのだった。




