第二章:プロローグ「KDC」
燃えるような紅の西日が、世界を赤く染め上げる夕暮れ時。
帝都の空を覆うように浮かぶ威容――それこそが、世界経済を裏から牛耳る"黒澤財閥"の象徴たる空中オフィス街、“アーク・クロサワ”である。
その一等地にそびえ立つ“クロサワ・ダンジョン・キャプチャー株式会社”本社ビル。
最上階の社長室で、豪奢な革張りの椅子に一人の女性が鎮座していた。
ガラスのデスクに置かれた銘板が、"黒澤 凛華"という名を冷たく反射している。
姫カットに整えられた艶やかな黒髪と、淀みのない純白のスーツ。
彼女は空中に展開されたホログラム資料を一瞥し、軽く指先で払うと、応接ソファへと冷徹な視線を向けた。
「聖人、随分と楽しそうですね。何を見ているのです?」
ソファで長い脚を組んでくつろぐ男――トップダイバーである白銀聖人は、嬉々としてスマートフォンを操作していた。
「ん?ああ、ちょっと憧れの人と連絡先を交換できたんですよ」
「ほう?あの貴方に『憧れ』と言わせる人間が、この世にいるとは驚きですね」
「ええ!社長の姉上……凛名さんのところにいる人でして」
「姉さん?……ああ、あの噂のゴミ企業ですか。そういえば、貴方が配信通知をリポストしていましたね。まさか、姉を尊敬しているのですか?」
「ひっど!? いや、流石に姉上じゃないですよ。あそこが新しく始めたダンジョン攻略事業にいる『連実』って人……正直、実力者っすよ」
「なるほど?」
「元"ナイト・ブレイカーズ"の"黒い虚飾"ですよ!知ってます!?」
「知りませんね。過去の栄光には興味はないので」
「ま、ですよね!」
「ですが、貴方ほどの実力者が『憧れ』と称すのは面白い――」
凛華の唇に、ふっと冷たい笑みが浮かぶ。
「では、手っ取り早く、うちに引き抜いてしまいましょうか。"黒い虚飾"は知りませんが、連実という名前には心当たりがありますので」
凛華は立ち上がり、ガラス張りの窓際へと歩みを進めた。眼下に広がる都市の夜景は、すでに黒澤財閥の掌中にある。




