表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/40

第29話「ボス:狼竜」

 最上が苛立たしげに舌打ちをする。


「チッ……勝手に射線に入ってきたアンタが悪――」

「わたくしは結城開拓(かっこかぶ)が社長令嬢、結城ゆうき璃々りりかと知っての行動でして?まぁ、いいですわ。わたくしのお手伝いをしてくれるなら――」

「最上ちゃん!行くよ!」

「は、はいっ!」


 竜の硬質な鱗と狼のしなやかな毛並みを併せ持つ四足歩行の魔物、狼竜ドラゴン・ウルフ

 試験用の泥人形ベースとはいえ、全身から噴き出す黒炎と圧倒的な威圧感は、とても新人の実技試験に出していい代物ではない。


「おいおい、冗談だろ!?試験用モンスターの規格外だぞ!」

「あんなの食らったら即失格じゃ済まねえ!逃げろ!」


 その圧倒的な威圧感と咆哮に、二人を鼻で笑っていたエリート受験生たちはすっかり戦意を喪失。

 彼らは「すでに合格点は満たしているから」と自分たちに都合の良い言い訳をして、無様に逃げ出していった。


「情けないですわね。大手企業の看板が聞いて呆れますわ!逃げるならもっと可憐に逃げないと!」


 璃々華は逃げる背中を一瞥すると、全力疾走で逃げ出す。

 だが、狼竜が璃々華にターゲットを向ける。悪目立ちする煌びやかなドレス。

 竜と狼の特徴が混じり合った凶悪なあぎとが開き、炎の塊を吐き出す。


「きゃあっ!!」


 爆風で璃々華が軽く引き飛ぶ。


「火山センパイ……!スミマセン。もう、疲れてしまってぇ……!ワタシを置いて逃げ――」

「ダメだよ渚ちゃん!起きて!」


 完全にスタミナが尽き、地面にへばりつく最上。すると火山は、杖を片手に器用な動作で最上を引き上げ、そのまま自分の背中におんぶした。


「よしっ!渚ちゃん、しっかり捕まっててね!」

「せ、センパイの背中……あったかいです……!」

「って、璃々華ちゃんも大丈夫ですか!?起き上がってください!」

「馴れ馴れしく下の名前で呼ばな――」


 火山は有無を言わさず璃々華の手を取ると、半ば無理やり引っ張り起こした。


「いっ、痛たた!ちょ、ちょっと……!」

「一緒に戦いましょう!璃々華ちゃんのステータス、見せてください!」

「嫌ですわ!なんで同業他社なんかに!?」

「分かりました!では!」


 火山はあっさりときびすを返し、戦場へ戻ろうとする。


「ちょっとくらい食い下がりなさいな!あーもう、戦いますわ!」

「だったら使えるスキルとか魔法とか!」

「よっっくぞ聞いてくれましたわ!わたくしのスキルは強靭な糸を操れましてよ!適正魔法属性は"雷"ですわっ!」


 ふふん、と誇らしげに胸を張る璃々華。しかし、火山はその言葉を待たずに即座に指示を飛ばした。

 火山が背負っている最上に向かって声をかけた。


「渚ちゃん、短剣貸して!」

「え、はい……。でも、どうするんですか……?」


 最上が震える手で双剣の一本を差し出すと、火山はそれを自分の杖の先端に添え、璃々華に向かって突き出した。


「璃々華ちゃん!渚ちゃんの短剣を、私の杖の先に糸でガチガチに結びつけてください!」

「はぁ!?杖に刃物を結ぶ!?何をお考えですの!?」

「オイ……!火山センパイが……間違ってるって言いたいンですか……!?」

「も、もう!なんなのこの人たち、訳が分かりませんわ!」


 璃々華は文句を言いながらも、手首を翻して素早く糸を操作する。


 強靭な糸が杖と短剣の柄を幾重にも縛り上げ、あっという間に即席の"槍"が完成した。


「ありがとうございます!次はその糸で、あのワンちゃんを足止めしてください!」

「え!?いくらわたくしでも、一人で抑え込むなんて無理――」

「なんとかします!」

「なにをするおつもり!?」


 火山の迷いのない真っ直ぐな瞳に気圧され、璃々華は「ええいっ、ままよっ!」と叫び、両手を広げた。


「――"星霜の琴糸アストラル・ストリングス"!」


 璃々華の指先から、魔力で編まれた極細の光の糸が幾重にも放たれる。

 それらは蛇のように地を這い、宙を舞い、狼竜の太い四肢や竜のように強靭な首に複雑に絡みついた。


「そして!"エレクトリック・ショック"!」


 糸を伝い、高圧電流が狼竜の巨体を駆け巡る。

 泥人形とはいえ魔力駆動のボスモンスター。強烈な雷撃に、地鳴りのような咆哮を上げて動きを止めた。


「や、やりましてよー!」

「でも……!」


 火山の視線の先。周囲にいた他の受験生たちは、逃げ遅れたり、狼竜に挑んで吐き出された火球を受けたりして、次々と地面に倒れ伏していた。

 今、まともに動けるのは、最早この三人だけだった。


「グガァァアアアアッ!!」


 痺れを強引に振り解くように、狼竜が暴れ始める。

 璃々華の操る光の糸が、ピンと張り詰めて、プツンプツンと音を立てて切れ始める。


「くっ……!力が、強すぎますわっ……!」


 顔を歪める璃々華。

 狼竜が完全に拘束を引きちぎろうと、巨大な前足を大きく振り上げている。


「璃々華ちゃん!私たちを糸で、あいつの頭の上まで吊り上げてください!照明を使えばできるはずです!」

「は……?吊り上げる?貴女たち二人を!?」

「はい!思いっきり空高く!」

「自爆特攻でもするおつもり!?骨がボキボキに折れますわよ!?」


 完全に常軌を逸した要求に、璃々華は悲鳴のようなツッコミを入れる。


 だが、火山は「折れるくらいなら大丈夫です」と無根拠極まりない笑顔で親指を立てた。


「……もうっ、知りませんわよ!どうなっても文句は言わないでくださいませ!」


 璃々華はやけくそ気味に糸を操り、演習場の高い天井に渡された梁を滑車代わりに通すと、先端を火山と最上の胴体に巻き付けた。


 そして、思い切り後ろへ跳躍して自らの体重を乗せ、糸を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ