第28話「合格……?」
「手が滑った!」
背後から、大手パーティの魔術師が放った土魔法が、あからさまに火山の足元を狙って地割れを起こした。完全に事故を装った嫌がらせ。
突如として足元が激しく崩れ、火山の体勢が大きくよろめく。
ウェアウルフがその隙を見逃さず、引き裂かんとばかりに爪を振り下ろした。
「わぁっ!?す、すごい!地面がピョコピョコ踊り出したよ!?」
火山は地面の揺れなど諸共せず、精密な魔法操作を行う。
体勢を崩しながらも、杖の先から放たれた高熱の火炎が、ウェアウルフの眉間を正確に消滅させた。
「……は!?あの体勢から撃ち抜いただと!?」
妨害した男が呆気にとられる。だが、その隙に、残る二体のウェアウルフが火山を押し潰そうと肉薄した。
「ハァ、ハァ……っ!火山センパイ……!」
最上はすでに激しく息を切らせていた。
この極限の緊張感の中で一気に体力が消耗された。
しかし、じっとりとした冷や汗を拭いながら、最上は背後の大手グループへ向けて、底冷えするような鋭い敵意の視線を走らせた。
(あのゴミ共……!事故を装えばバレないとでも思ってンのか……!?火山センパイのジャマをする奴は、絶対に、絶対に許さない……!!)
最上は怒りと執念で動かない体に鞭を打ち、反射的に“ブリーズ・ステップ”を発動、陽炎のように姿を消した。
――スキル、“隠蔽”。
ウェアウルフの死角へ回り込み、泥臭いド根性で地を蹴る。
「邪魔を……するなァ……!!」
最上の双剣が、ウェアウルフの首の継ぎ目を正確に捉え、強引にへし折った。
「凄い! 渚ちゃん!でもスタミナ、大丈夫?」
「……センパイ、大丈夫、です!」
最上は荒い息のまま、ステータスを表示させる。
【HP:90 / 90】
【MP:20 / 40】
【スタミナ:40 / 100】
「それにしても、ダンジョンに罠まで仕掛けられてるなんて知らなかったよ~」
「……それ、ワナじゃなくてアイツらの妨害です」
最上は鋭い目配せで、先ほど攻撃を仕掛けてきた魔術師の男を睨みつけた。
「え、なんでぇ!?」
「ワタシたち、あからさまに悪目立ちしてますからね……。だからって、最低な連中ですよ」
「んー……でも、うちにクレームを入れに来るお客様に比べたら大したことないよ」
「え、例えばどんな人が来るんですか」
「一番ひどい時は、会社に乗り込んできたかなー。しかも別々のお客様が三人同時に!」
「あー……よくあるやつですね」
「それに、お客様が怒りすぎて爆破魔法使って会社の入り口が吹っ飛んだこともあるし! その時は私が対応して、最終的に警察に連れていってもらったよ」
「一体、どうしたらそんなにくるんですかね……?」
「なんか、うちのサービスの解約手続き、平日の9時から15時の間に、専用の用紙を印刷して窓口まで直接持ってこないといけないのがダメらしいよ」
あまりにも爽やかな笑顔。
妨害を仕掛けた男たちは、火山――いや、"ネクロス社"の底知れぬ狂気を本能で察知し、ヒッと息を呑んでそそくさと逃げ出した。
だが、安堵する暇もない。
開けたエリアに踏み込んだ瞬間、空間を引き裂く咆哮と、激しい地響きが轟いた。
現れたのは、優に2メートルを超える巨躯。
大型に指定されるDランクの脅威――“コボルト”が2体。
巨大な獣たちが、凄まじい速度で二人へと突進してくる。
「ひ、火山センパイ!私の風に合わせて、最大火力で床を撃ってください!」
「了解! まかせて!」
「“ブリーズ・ステップ”!」
最上が火山の背に手を当てた。残る全魔力を絞り出し、速度上昇魔法を解放する。
同時――火山が真下へ向け、圧縮火炎を放つ。
――ドォン!!
大爆発の推進力。そして最上の風。
重力を置き去りにし、二人の身体は真上へと跳ね上がった。
直後、空を切った巨大コボルトの爪が、誰もいない地面へと深くめり込む。
「もう一度!今度は“フレイム・ストーム”を!」
「オ、オッケー!――“フレイム・ストーム”!」
「“テイル・ウィンド”!」
空中からの着地と同時に、二つの魔法が交差する。
業務用扇風機並みのはずの風が、火山の炎を巻き込み、巨大な火炎旋風へと急膨張した。
「えっ!?」
思わず火山がマヌケな声を上げるほどの業火が、Dランクコボルト二匹の巨体を一瞬で焼き尽くす。
【Dランクモンスター討伐:火山 夕香、10ポイント獲得 計:17ポイント】
【有効な回避・討伐支援:最上 渚、6ポイント獲得 計:13ポイント】
二人の端末が、合格へのカウントダウンを刻むように激しく鳴り響いた。
「す、げえ……一撃かよ……」
大手パーティの面々は、開いた口が塞がらない。
自分たちが総力を挙げても苦戦するはずの大型モンスターを、あのボロボロの二人が一瞬で消し去ったのだ。
顔が見る見るうちに青ざめていく。
「わあ!渚ちゃんのおかげで大成功だよ!」
「ハァ、ハァ……見たかゴミ共……これが、うちの火山センパイだ……!」
最上は虫の息になりながらも、呆然自失としている大手の連中に向かって、勝ち誇ったように鋭いドヤ顔を向けた。
「ハァ……!こ、これで、センパイは合格ラインを超えて――」
ピピッ!と端末が鳴る。
【妨害ペナルティ:火山 夕香、-5ポイント消失 計:12ポイント】
【妨害ペナルティ:最上 渚、-5ポイント消失 計:8ポイント】
「……は?」
「なんで……!?ポイント消失……!?」
「ゲホッ、ゴホッ……!危ないですわね!もう、せっかくわたくしがあの魔物を罠に嵌めて差し上げようと待ち構えておりましたのに!」
濛々と立ち込める煙を払いのけ、左側の通路から姿を現した影。
それは、先ほど火山が声を掛けたあの縦ロールのお嬢様だった。
直撃こそ免れたものの、凄まじい熱波の煽りを受けたのか、自慢の純白ドレスのフリルがうっすらと黒く焦げている。
「は……!?さっきの!?……ジャマしやがって……」
最上が絶望に目を見開いた、その時だった。
演習場全体に、あの丁寧な試験官のアナウンスがスピーカー越しに響き渡る。
『受験生の皆様にお知らせいたします。間もなく試験開始から45分が経過いたします。これより、中央エリアにレイドボスが出現いたします』
現れたのは狼と竜の特徴を併せ持った魔物――"狼竜"。
地鳴りのような重低音が演習場全体を震わせ、ズズン……と中央エリアの大地が大きくひび割れた。




