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第五話 姉さんの葬儀


 その後、俺は洗濯や掃除、そして杏のお世話をした。その間に俊樹が葬儀の手配などを急いでしてくれて、その日の夕方から身内だけのお通夜を執り行った。

 伯父夫婦、叔母、従姉妹などを招いての、総勢十数人規模。親戚のみんな、なぜ俺たちが取り仕切っているのか不思議そうだった。


「木蓮さんは……えっと、海外にいるから。もうじき、くるよ」


 俺は曖昧に笑いながら、ぎこちなく嘘をつく。

 母方の叔母は納得した様子だった。「大変ねぇ」とねぎらいの言葉をかけてくれた。


「ハル。この子が杏ちゃん?」

「可愛いーっ」


 従姉妹の明里と由実が制服姿で、杏の周りに駆け寄った。タブレットで何か動画を見ていたらしい杏は、びっくりした顔で二人を見上げる。


「だれ?」

「楓おねえちゃん……えっと、杏ちゃんのお母さんの親戚だよ」

「ちんせき?」

「はは。し・ん・せき。年はいくつかな?」

「五しゃい」


 舌っ足らずな杏の返答に、従姉妹たちは悶絶している。二人はもう高校生だから、五歳児なんて自分たちよりも子どもだとしか思えなくて可愛いんだろうなぁ。

 なんとも微笑ましい光景だ。

 その時だった。--ぼふんっ。


「!?」


 俺はぎょっとしてしまった。それはそうだ。だって、杏の頭部から狐耳が出てしまっていたからだ。

 従姉妹たちも、叔母さんも、目を丸くしている。


「あ、あれ? 獣耳のカチューシャなんてつけてたっけ?」

「最初からつけてたよ! は、はは、杏が可愛すぎてよく見てなかったな?」


 俺は慌てて杏の下まで行って、杏を抱っこする。もしかしたら、尻尾も出てくるんじゃないかと思って、お尻を隠した。

 叔母は、はっとした顔をした。


「そ、そうよね! やだわ、私ったら。物忘れがひどくなって」


 ふぅ。叔母さんのことは誤魔化せたみたいだ。

 でも、従姉妹二人は怪訝な顔で互いを見つめ合っていた。


「えー……カチューシャなんてつけてなかったような気がするけど。ね、由実」

「う、うん」


 それでも、カチューシャ以外にありえないだろうと、渋々と納得させていた。さすがにあやかしだと飛躍した推測にはならなかったみたいだ。

 よかった。どうにかなった。


「木蓮さんが帰ってくるまで、杏ちゃんはここにいるの?」


 明里が楽しげに聞いてきたので、俺は杏を抱っこしたまま、笑顔で頷く。


「うん。俺たちが面倒を見る」

「へぇー。ハルはともかく、俊樹まで?」


 由実が意外そうに言うと、遠くで和尚さんと話していた俊樹が「うっせ」と鬱陶しげな顔で言い放った。

 由実は、わざとらしくあっかんべーをやり返した。俺も明里も苦笑いだ。この二人は昔から口喧嘩が多くて。まったく。


「俊樹は、ああ見えて優しいんだよ。料理も上手いし」


 俺がやんわりとフォローを入れると、由実は胡散臭く思ったのか顔を歪める。


「ええーっ、嘘だぁ」

「あら、本当よ。俊樹は案外優しいんだから。失礼よ、由実」


 叔母さんが同意してくれて、娘の由実を窘める。

 由実は膨れっ面だ。納得いかなそうだった。


「余計なことは言わなくていいんだよ」


 俊樹が不機嫌そうな顔で戻ってきて、俺からさりげなく杏を引き取る。

 杏はちょっと嫌がったけど、俊樹が「あっちでお菓子食べよう」と声をかけると、すんなりとくっついていった。

 お菓子には弱いみたいだ。はは。お子様らしい。

 杏がいなくなってしまい、みんな残念そうだ。とはいえ、次の話題は俺たちの近況に移った。大学生活は楽しいかとか、俊樹とは仲良くやっていけるのか、とか。


「楓のことは、本当に残念ね……。でも、兄弟二人で強く生きていきなさいね。何かあったら叔母さんに連絡していいから」

「ありがとう。叔母さん」


 叔母さんは頬に手を当てながら、そっと息をつく。


「木蓮さん。早く帰ってきてほしいわね」

 




 翌日には葬儀が終わった。

 ちなみに葬式も身内のみに限定したから、メンツは変わらなかった。これから伯父夫婦は都内に、叔母と従姉妹たちは茨城に帰る。


「姉さんのためにここまでありがとうございました」


 俺が代表してみんなにお礼を伝え、その場で解散。俺たちは火葬場から、そのまま実家にタクシーで帰宅した。

 俺はスマホでラインを確認する。木蓮さんと交換したラインには、だけどまだ既読すらつかない。

 木蓮さん……どこにいるんだよ。杏が待っているのに。

 俺は隣に座っている杏を見つめる。すやすやと穏やかな寝息を立て、眠っていた。

 狐耳と尻尾が出ているけど、それはもうおもちゃの飾り物だということにして、タクシーの運転手を誤魔化した。


「はは。可愛いな。杏の寝顔」

「ガキは呑気だからな」


 俊樹はぶっきらぼうに言いつつ、でも優しげな顔をしている。持参したタオルケットを杏の体に掛け直す姿は、優しいおにいちゃんだ。見た目はちょっとワイルド系だけど。

 あっ、もふもふの尻尾が揺れ動いた。はは、くすぐったい。俺の腕に当たって。


「……木蓮さんのこと、どうしたらいいんだろう。俊樹」


 俺はそっと目を伏せる。

 このまま、連絡がこなくても、俺が立派に杏のことを育てるつもりだけど……なんというか、木蓮さんの考えが分からない。

 本当に連絡がとれないだけだったら、ちょっと申し訳ないなって。


「……」


 俊樹は少し押し黙った。

 それが何か心当たりがあるような雰囲気で、俺は訝しんだ。


「俊樹?」

「……賀茂神社」

「え?」

「賀茂神社の狐じいさんなら、何か分かるかもしれない。あいつのことも」

「狐じいさんって?」

「狐みたいなじいさんだから、狐じいさん。食えないじいさんだ」

「へぇ……」


 それは一体どんなおじいさんなのか分からなかったけど、木蓮さんのことで何か分かる人なのだとしたら。

 俺は真っ直ぐ俊樹のことを見つめた。


「会いに行きたい。明日、連れて行ってもらえるか?」


 俊樹はちょっと嫌そうな顔で、でも頷いてくれた。


「分かった。……ちっ。また行くことになるとはな」


 俊樹はなぜか舌打ちしていた。

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