愛の力
「お、お前は……フォリ!!」
ガンドがそう叫ぶと、フォリは微笑んだ。しかしその微笑みは以前よりもはるかに邪悪に見える。空気の重さか、はたまたフォリ自信のオーラによるものか。
「……フォリ? ああ、エオリカと組んで破砕を抜けたっていう、"破砕のスパイ"か?」
「な!?」
コガラの言ったセリフにガンドが驚愕する。
(……じゃ、じゃあエオリカは、フォリが情報を流したせいで……!?)
「上手く情報を手に入れられたおかげで、そちらの戦力を削ぐ事が出来ました」
「エオリカは敗れて命を落とした。エイドも戦闘不能。これほど喜ばしいことはありません」
「……貴様ァ……!」
三味が低い、威圧感のある声を出して、フォリを睨む。しかしフォリは臆しない。何やら、随分と余裕があるようだ。
「……なるほどな。あの可愛いらしい人は、元々はお前の仲間だったわけか」
「ええ」
コガラは何やら考える仕草をする。
(そういえば、ガンド……だったか。彼が倒したのがエイド……だったよな……)
「……なるほど。あのエイドという人をわかりやすい敵として用意して、それを越えさせる。更にエオリカを師匠になるように仕向け……いずれは五十の辻を介して破砕の操り人形にでもする気だったか」
「……おや、中々に鋭い……」
「くだらない、下卑たやり方だが、三味さんまで利用したその度胸は評価に値するな」
コガラはそう吐き捨てた後、大きく、怒りを誤魔化すような深呼吸をする。そして、フォリを怒れる明王かの如く睨みつける。
「だが、お前は喧嘩を売る相手を間違えた」
コガラは、瞬きする間に消えるほどの速度でフォリに斬りかかる。抜刀したことすら認識するのが難しいほどであったが、それを抑える者が宵闇から現れる。
「!?」
コガラはその者と数度斬り合うと、少し後ずさりした。
「……あっ!」
三味が声を上げる。コガラの攻撃を防いだ者にどうやら心当たりがあるようだ。
「……三味さん、今コガラの攻撃を止めたのって……」
「……マイル……ですね。彼女が……裏切りを??」
なんと、止めた相手は"竜王"マイルだった。
三味は明らかに動揺している。数千年連れ添った一番弟子を殺され、更に信頼していたであろう仲間が裏切ったとなれば当然の反応かもしれない。正気を保つのも難しいだろう。こういう時正気を保ち、冷静でいられる何も知らない第三者がいると、時に助かることがある。
「三味さん、マイルさんの様子がおかしいです。明らかに」
そう、今のように。
三味はガンドにそう言われて、冷静にマイルの様子を観察する。すると、よくよく見れば目が虚で、なんだかだらんとしているのがわかる。
「……あの感じは……まさか」
「おや、気付いた方もいるようですね」
フォリが不敵に笑う。
「……ああ、そういうことか。そういえばアストゥートの現当主は、人を操る異能を持つらしいな」
コガラはそれを見抜いたようだ。
「おや、詳しいですね」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」
「存じていますよ。コガラさん。貴方は……ん? そういえば、貴方はどこの組織から"五十の辻"へ潜入捜査を仕掛けていたのですか?」
「……知らねえんじゃねえかよ。スパイが聞いて呆れるな」
剣を前に掲げ、コガラは息を吸う。
「俺は"異能暗部特別管理組織"……通称"S.M.O.S."の管理官をやらせてもらっている。お前達のような、王国に仇なす異能力者や、異能犯罪者で、手のつけにくい者らを躊躇なく処分するために作られた組織だ」
「三味さんですら内情は一部しか知らない特別機密組織だ……情報を漏らせば死も覚悟しなければならない」
コガラの淡々とした説明に、フォリは口を挟む。
「……つまり?」
「俺がここでお前を殺さなければならないってことだよ。察しの悪い奴だな」
コガラは再び切り掛かる。しかしそれはマイルに止められる。
「おや……出来るんですか? 人形となったマイルさんを殺せるんですか? 貴方達の"表"の繋がりは把握しています。もちろんルキドゥスさんとの関係性もね……だから我々は……」
フォリがそんな風に話している……それを意にも介さず、
「はっ!?」
「ちょっ……コガラさん!?」
「……おや」
コガラはマイルにキスをした。口付けとかでは済まないくらい、深くて長いキスを。口が離れると糸を引く。人形同然の相手にコレをやるのかこの男。実にキモい。
……と、普通なら思うのだが。
「……お、遅いのだ……目覚めさせるのにどれだけ……」
「本来自力で解ける催眠だろ? マイルちゃんよぉ。こんな公衆の面前でキスをせがむとは思わなかったぞ」
「うるさいっ、最近構ってなかったお前が悪いっ」
「わは。ごめんごめん」
そのタイミングでようやく、ガンドはコガラの服装が、先ほどまでとは全く違う黒い着物になっていた。いつ着替えたのかわからない、現代ナイズされた着物。それを着たコガラは、別に化粧などはしていないのだが……まるで、女性のように見える。
「……何者ですか、貴方」
フォリも流石に驚いたようだ。明らかな変容。しかし三味やマイルはそれについて全く疑問すら感じていない様子である。
「……ふむ。何者か、と? そうだな、ただの人間……と言っても納得しないだろう」
コガラの語る声は、だんだんと高く、女性らしくなっていく。その声の変化に合わせて、剣が鉄扇へと形を変えていく。
「私は魔人だよ」
そう言ったコガラの声は、美しく柔らかい女性の声になっていた。鉄扇をぱたぱたとはためかせ、マイルを抱き寄せてから、フォリに鉄扇を向ける。
「自分の守りたいものを守るため、側にいるため。必死に修行して人間ならざる力を得た」
「自分の欲のためだけに……ね。でも、人間ってのはそういうもんだろう?」
「……どうでしょうかね。私は、欲で女に変身してしまう人間など聞いたこともありませんが」
「おや、コレは別に女になったわけではないぞ? ただ、この姿が必要なだけで」
クスクスと、笑うコガラ。まるで子供をあやすようにマイルを撫でながら、フォリを嘲るように喋っている。
「……まぁ良いでしょう。どちらにせよ私にはコガラさん、貴方の暗殺命令も出ていることですし、とっとと終わらせてしまいましょう……。貴方がふざけている間に……」
そう言ってフォリが足を1つ前に出そうとしたその時、出そうとした足は謎の赤いオーラで形取られた手に掴まれ、引き上げられてフォリは逆さまになる。
そのオーラは、コガラが出しているもののようだ。
「……おや……これは……まずい……」
フォリの足がミシミシと音を立てている。
「やはり五十の辻は愚かだ。スパイに当てたのがここまで能無しな男だとはな。調べ上げたのでは無かったのか?」
「……調べ上げていますよ、もちろん。赤いオーラの異能力……貴方のその謎の力……特徴はオーラによる人型の、硬すぎる防御と多彩な攻撃……」
「まぁ、ぼちぼち正解だが」
赤いオーラは更に、4つの手に分裂してフォリの四肢を拘束する。
「しかし……まだこの程度ならば!」
フォリが目を見開く。
「"神域10%・ミズチの鎌!!"」
フォリの発する銀色のオーラ。神域と叫んだフォリの腰に差してあった刀がひとりでに抜けて伸びて、鞭のようにしなりつつ、最終的に鎌のような形を作りながらマイルとコガラに向かっていく。
「"神域"か。お前程度でも引き出せるのか。それは面白い。しかし悲しきかな、フォリ君の神域はノーセンスノーパワー。三味さんの小指にも勝てなさそうだな」
コガラは物凄い煽りを披露する。フォリはそれに眉を顰めて怒りを見せている。
「ならば、受けてみなさい、私の力ァァ!!!」
フォリの剣、鎌の形のそれがコガラ達に向かっていった──────が、次の瞬間にはマイルに叩き折られてしまった。
3コマで見たら吹きそうなくらい、見事な裏拳で叩き折られたのである。
「……は??」
フォリは驚きを隠せないようだ。
「……さっきから聞いていれば随分と調子に乗っているらしいな、フォリとやら。私を操って良い気になったか? あぁ? 他人から借りた力で随分とイキっていたが……」
「コガラが相手するまでもない。私が直々にその自信ごと叩き潰して、恐怖の底まで蹴り落としてやろう」
マイルは鬼の形相で振り返りながら、そう言った。
「……ま、マイル。それ多分私がいうべきセリフで……」
「ちょっと黙ってろ」
「アッ、ハイ」
「コガラを好く者は多い。かくいう私もその1人ではある。ただコガラはな、それでも自分をクズと言い、調子に乗るようなことはない」
「お前はただの調子乗りだがな」
それから。
マイルは、気合を入れて深呼吸をして。
まず、腹を本気で殴り。
更に腕を強烈な蹴りで潰し。
顔を何度も何度も殴り、蹴り、ズタズタにしていき。
「……あ……ぁ……」
フォリが見るも無惨な姿になったところで、マイルは一旦停止した。
「んで、コイツどう殺すの?」
「……んへ? 考えてなかったの!?」
「まぁ、あまりにキレてたからさ」
コガラはため息をつく。そして、フォリに近づき、マイルを抱き寄せて……
「……んじゃあ、ケジメも兼ねて」
赤いオーラを解いて四肢の拘束を解いた後、コガラは鉄扇を振るい……
「"奇術・風刹衝"」
思い切りフォリを鉄扇で殴り飛ばした。
フォリは凄まじい勢いで、上空彼方まで飛んでいく。ガンド、三味、マイル、コガラ……全員が見守る中、雲の近くまで飛んだフォリは……空中で風による大爆発を起こしたのであった……。
(……なんだこりゃ……)
(……これが……コガラ・アモーレ……)
(……こんなに……強いのが……まだ……!)
ガンドは、コガラという男の強さに、ただただ圧倒されていたのだった……。




