クーデター
エオリカの気が消える。
その反応を、一部の強者は既に感じ取っていた。
「……そんな」
一番動揺したのは、三味であった。
(……あるはずがない。エオリカは、私の一番弟子……十二種王でも対等に渡り合える人間は限られる……最強の男……私が手塩にかけて育てた……)
「……どうして……」
疑念を巡らせいくら考えど、一つの事実は揺るがない。エオリカの気は、異能のエネルギーは掻き消えた。
「……いやだ……いやです……そんな。エオリカ……あぁ……」
遂には、泣き崩れてしまった。
『ウケケケ。長年付き添った男を殺されて泣き崩れるか! 3000年生きた仙人級の人間が……とんだ無様な姿だねえ!』
どこからともなく声がする。
ドンノラが立ち上がり、あらゆる方向を見回しながら口を開く。
「……この声、聞いたことがあるな」
それにプラチナが静かに返答する。
「ああ……何より耳に残る声だ。この鼻につくような嫌な声……」
プラチナの返答に頷いて返したドンノラは、そのまま継続して辺りを見回して、最終的に机の中心を指差した。
「そこだ!!」
十二種王全員が机の中心に目をやる。
その中心……空中に、机に置かれたカップから紅茶が飛び出して集まり、人型を形成する。
「……飲みかけ、だったのに……」
レナが不服そうだが、果たしてそれを気にしている場合なのだろうか。
「……こほん。……水分を操り、自分の物とする異能……」
自分でもそう思ったのか、咳払いしてから分析を始める。
猫蓮が喉を鳴らして威嚇する音が響く。
「……お師匠様に酷い物言いする奴は……許さないよ」
『おお、怖い怖い。……だぁけど、君が私に触れる事は叶わないよ。絶対にねぇ』
「……コイツ!!」
猫蓮は爪を剥き出しにして人型に飛びかかる。
しかし人型は液状化してするりと猫蓮の脇を潜り抜ける。猫蓮は机に突っ込む。
「っうー……!」
痛そうにしながら起き上がる間に、液状化した人型はするすると床を抜けていき、三味の反対側に人型に戻って立つ。
そして、高らかに声を上げ始めた。
『はーい! 皆さんちゅうもくーー!!』
人型は、やがて人となる。青と赤で彩られた、小さく不気味なピエロの姿に変わる。
『私は"五十の辻"裏幹部、リキッド・ピエロ! ここに、"五十の辻"と公爵・伯爵家連盟が結託し、エルファニア王国の古き良き制度を守るために決起することをここに宣言いたしまぁす』
気合いが入ってるのか入ってないのかいまいち分かりにくい、中途半端に気の抜けた声で、リキッド・ピエロと名乗る彼女はとんでもない発言をかました。
「……"五十の辻"……!?」
ガンドは、彼女の口から自身の所属するギルドの名前が出たことに、驚きを隠せなかった。動揺し椅子から転げ落ちてしまった。
『おやおや、何も知らないバカな子がいるねえ』
「どういう事だ? 五十の辻は……」
「……私にも聞かせてもらおうか」
ハートが腰を上げて立ち上がり、リキッドを睨む。五十の辻は彼のお抱えギルドである。当然だろう。
『ああ! そうだねえ、教えてあげよう。何も知らないバカな王様と、青いがきんちょに、事の全てを!!』
『ガンド・ヴェルナー……貴様は帝国でギルドを作った時から"五十の辻"の監視対象として、帝国側に監視を申し入れた。五十の辻の傘下に入るよう上手く誘導するために……。お前とあの吸血種が出会ったのは好都合だった』
リキッドはいきなり、厳かな男の声で喋り出した。
「……その声は!」
三味が机に乗り出して、噛み付くようにリキッドを睨んだ。
『……俺はお前達を上手く利用し帝国にヘイトを向けさせ、王国へ向かわせるルートを組み立てた。"五十の辻"の面々と協力し、エイドに偽の情報を掴ませ悪者として仕立て上げた。……エオリカが関与してくるまでは完璧だったんだがな……』
『そういう事だ。三味、それから十二種王の者どもよ。これから、このカルモ・アモーレが天下を取らせてもらう。戦争の準備をしておくんだな……』
『だ、そうですよん』
リキッドは元のふざけた口調と気の抜けた声に戻った。
「……カルモだと……!?」
ドンノラは驚きを隠せない。自らの一族の最大の汚点が生きていた事実に。しかしリキッドへの睨みと警戒は崩さず、情報を冷静に整理しようと考え込む仕草を見せている。
(……しかし、一体どうやって……??)
「……ならば、エオリカを倒したのもカルモ・アモーレか……!!」
三味が怒りをリキッドに向ける。
各々の感情が渦巻き、だんだんと重苦しい空気が部屋を支配していく……。
しかし。
その空気は、突如天井からリキッドを貫く形で落下してきた剣によって払われた。
『!?』
「なるほどな。カルモは最初から、あのエイドって子を始末する事まで計画のうちに入れていたのか。……だがそうはならなかった。俺と工藤さんと、エオリカの尽力の元、彼女は生き延びた」
天井から男が飛び降りてくる。黒髪の青年……コガラ・アモーレだ!
コガラはリキッドにのしかかる形で着地したが、リキッドは液状化し男に巻き付く。
男は冷静に、指を2本立てるポーズを取る。するとその指の先から電流が迸る。
『うわぁぁ!?』
「"奇術 雷電"。水なら、電気はよく通るだろう」
リキッドはたまらず、液状化したままその場を離れて、十二種王達の間をスルスルと通り抜けて、部屋の窓から外に逃げた!
「待てっ!」
コガラは窓をブチ破りながら追いかける。
「ガンド、私たちも追いますよ!!」
「!? ……はっ、はい!!」
三味がガンドを半ば無理矢理連れて、後を追うのであった……。
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液状化して逃げるリキッドにコガラは苦戦する。剣では上手く攻撃を当てる事は出来ない。
「面倒な奴だな……。やはり"奇術"で対抗すべきか」
コガラは痺れを切らし、また同じように指を2本立てる。しかしリキッドはそれを見た瞬間、路地へ入り込み消えてしまう。
「ちっ!」
『流石に同じ技を2度とは喰らわないよ〜』
「……なんてな」
コガラはニヤリと笑う。不敵に、余裕を見せるかのように笑って立っている。リキッドはその様子に不信感を抱いたが、しかし抱いただけでは───ダメだったようだ。
「"奇術 焔堕とし"!!」
リキッドの上に炎の球が落ちる……それはつまり?
『う"ぁ"ぁ"ぁ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!』
水蒸気爆発だ。
路地の一角でとんでもない爆発が起きてしまった。当然、水蒸気爆発であるから大爆発である。しかし、何故か破壊はなかった。
「……ふぅ」
コガラが赤色のオーラを放出している。それはリキッドのいた路地を覆っていて、どうやら破壊を防ぐ盾となったようだ。これが彼の異能なのだろうか。
「……さて。これで生きてたら奇跡だが」
コガラはオーラを消す。
すると、ボロボロになって横たわっているリキッド・ピエロが姿を現した。
「……ふむ」
脈を測る。未だ、微かに音を立てて動いている。
「どういう原理は知らんが、命拾いしたらしいな……」
「……これはいい。情報を聞き出せるわけだ」
コガラは懐からスマホを取り出す。通話をするようだ。
「"奇術 保存氷結"」
しかしその前に用心して、リキッドを凍らせた。
「もしもし。"管理官"、コガラです。潜り込んでいた"破砕"の者と思われる異能者を確保しました。名はリキッド・ピエロ。液状化する異能力を持っており、何故か水蒸気爆発から生き延びました。かなり厄介な奴です」
『ふむ。ならば、"神域異能"を解放している可能性があるな。管理員を何人か送らせる。王達と連携してその者を確保したまま警戒を続けろ』
「はい、了解です」
コガラがスマホを切ると同時に、ガンドと三味が追いついてきた。
「コガラ! ……もう、確保したのですか」
三味が少し驚いたような顔をして、呟くように言う。コガラは穏やかに笑い、返答する。
「少し手こずりましたが、このくらいの手合いであれば俺でも確保出来るようです。成長を感じましたよ」
「……な、なるほど」
「ガンド、リキッドの氷を風で運べないか? 一旦王達の所へ戻りたいんだが、俺の"奇術"じゃ重くて運べん」
「ん?? あ、ああ……まぁ、それくらいなら多分……」
ガンドは言われた通り、少し苦戦しながら氷漬けのリキッド・ピエロを風に乗せて宙へ浮かせた……。
「……なぁ、"奇術"ってのは……」
ガンドが聞こうとしたその時……
「リキッドを渡すわけにはいきませんね」
そう言いながら、1人の男が3人の前に姿を現した。それは、数日前に相対した、そして和解したはずの男だった……!
「あ……お……お前は……!!」
「フォリ!!!」




