そよ風もいつかは
「……ぐ……ぅ」
片腕をもがれたエオリカは、苦痛に呻いている。
「……さて!? この後はどうする?? どう来る!? 俺はお前と戦うのが楽しくて仕方がないぞ!」
そう言って煽るカルモを前に、エオリカは苦痛に耐えながらも不敵に笑う。
「……フフフ……それはこちらとて同じよ……」
しかしその表情は、若干無理をしているようにも見えた。
(まさか一撃で……腕をもがれるとはな。くっ……)
それでも。
エオリカは身体を震わせる。周りの風がエオリカに呼応し強く吹き荒れ、ツノを形成する。
「……また同じ技を使うのか? 芸のない奴め」
「……悪いな。余計なテクニックに頼るようなことはしたくないのだ」
エオリカはカルモの問いに静かにそう答える。
「時代錯誤だな。今は力より技が物を言う時代だ」
カルモはその返答に半笑いになりながらそう言った。
「……なんと言おうが、これが俺のスタイルよ。それで時代に置いていかれるのならば……死ぬだけだ」
エオリカの放ったツノがカルモに向かっていく。カルモはそれを軽々避けて、エオリカに近づき、みぞおちに強く拳をめり込ませる。
「ぬぅ……!」
「出力が落ちたな? やはり片腕をもがれては満足に動けもせんか」
カルモはせせら笑う。しかし……
「……ぬぅぅぅぅおおおおお!」
その油断は、流石にこの場でするべきではない。エオリカは力を振り絞り、右腕で力一杯カルモを殴りつけた。
「ぐおおっ!?」
カルモは血を吐き、エオリカから離れる。
「……ここまで、ではないらしいな?」
半分笑いながら、カルモは強い声で言う。
エオリカは笑いを一瞬見せたが、すぐに止め、真剣な顔でカルモを見る。
「……当たり前だ。俺は異能指南道場の一番弟子だ。後輩に無様な姿は見せん」
「見せられんのだ。俺は、誇り高き戦士であらねばならんのだから」
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3000年の昔。
異能指南道場なる物が未だ無かった時代。
エオリカは、まだ若き青年であった。
自らの異能の強大な力を持て余し、その力で他者に恐れられていた。
「……俺は……なんなんだろうか……」
或る岩山にて、彼がそんな事を考え耽っていた時、そこに一人の少女が現れた。
「こんにちは」
少女は背後から話しかけて、エオリカが振り向いたと同時に隣に立っていた。
「……貴女がエオリカ、ですか」
「いかにも」
少女はエオリカの顔を覗き込みつつ話を続ける。
「こんなところで何を?」
「……考え事を」
「ほうほう。恋の悩みですか?」
「……生憎だがそんな事に悩める体質ではない」
「でしょうね。貴方のその力を、貴方の周りの人々は恐れているようですから」
「……知っているのか」
「ええ。村人から聞きました」
「なるほど、な」
エオリカは深呼吸をしてから、心の内を話し始めた。
「……俺は何者なんだろうな」
「はい?」
「俺は、持って生まれたこの強すぎる風の異能をまるで使いこなせない。コントロールする事もままならず、ただ暴走してしまう……。その結果、意図せず周りを傷つけ、遠ざける結果になった……」
「……俺は何者なんだ? 何を目的として生まれた? どうして俺はここで動いて、生きているんだ!?」
葛藤をひたすらにぶつけるエオリカに、少女は微笑みを浮かべ、手に持つ杖をコンコンと鳴らして、一瞬の沈黙を促す。
「……私がその意味を与える。と言ったら、貴方は付いてきてくれますか?」
「……?」
エオリカは顔を上げて、少女の方を向いて、見つめる。
「……意味を……与える?」
「はい。貴方の力をコントロールする術を教えます。そして貴方に、生きる意味を与えます。……この世界を守り、次の世代に繋ぐという"意味"を」
「……!」
「貴方の力は強大です。ただそれは、他者を傷つけるための物ではありません。それは……人々を守り、導く事の出来る力なのです」
「ですから……」
「わかりました」
エオリカは、少女に跪いた。
「このエオリカ。貴方の弟子として……誠心誠意、使命を全うする事をここに誓いましょう」
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「……最後としようか、カルモ」
エオリカの周囲を囲むように風が巻き始める。
「……そうだな……こちらとしてもとっとと終わらせたいところだ」
カルモの腕が黒く染まり始めている。おそらくは何かしらの攻撃の準備だろう。
「……俺の本気の一撃で仕留めてやる。お前の力に敬意を表してな」
「それは……ありがたい話だな」
「……お前がどうしてもと言うなら見逃してやっても良いが?」
「……そうはいかんさ。わかっている。俺の命はあと数刻も持たぬ事くらいは」
風は渦となり、エオリカを包む。
「……我が最高の技で、最後を飾らせてもらうぞ」
渦は次第に、触手のように風を伸ばしてカルモを飲み込み始める。
「!! っ、こいつめっ!」
カルモは腕で風を振り払おうとするが、風は強く、確実にカルモの腕や足を絡め取り、引き摺り込んでいく……。
「ぬおおおおっ!」
カルモは渦の中に飲み込まれた。
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「……渦の中に引き摺り込むとはな」
「コレで最後となるのだからな。少し付き合え」
「なんだ? 話でもしようというのか」
「……まぁな」
「お前の声をどこかで聞いた事があるのだ」
「……は?」
「確かめておきたい。お前は──」
ばっ、とエオリカの言葉を遮るようにカルモが手を出す。
「……すまんな。その先については何も答えられん」
「! ……そうか」
「……ならば、話は終わりだ。さらばだカルモ。受け取れ、最後の一撃を……」
「……ああ。餞別だ。喰らってやるさ」
(……ガンド……。お前はまだそよ風だ……)
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「……ん?」
ガンド。
お前はそよ風だ。
今はまだ小さい風に過ぎない。
だが、その風はお前が前に進む限り
……どこまでも、強く吹き荒れていく。
「……」
お前が前に進む限り。
だから、進め。お前が望む嵐となれ。
この先に待つ未来を。
お前の嵐で……導いてやれ……!!




