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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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我が風に一片の曇り無し


「……よし、ここまでくればまぁ安全……だよ、な?」

 工藤とコガラは戦線を離脱した。

 コガラが受けたダメージは思ったより酷く、回復に時間がかかりそうだったため、彼に肩を貸して、安全な場所に退避させていた。

「すみません、工藤さん。……オレが不甲斐ないばっかりに」

「いやぁ、気にする事は無いよーん、ってな。……それよりお前、そろそろ"五十の辻"抜ける決断はついたか?」

「……まだ少し悩んでます」

「ふーん。ま、良いけどとっとと決めた方がいいぜ? お前にとって利益がないなら抜けた方が身のためだしさ。契約更新って春頃だろ? そっちは」

「はい。……確かにそうだな……とっとと決めた方がいいか。……抜けた後はどうするかな……」

「……あ、そうそう。最近面白い奴がいてな。そいつギルドリーダーでさ……」

「……へえ?」


───────────────────────



「……人が敵の親玉と交戦している時に……世間話とはな」

 エオリカは工藤との連絡に使っているインカムから、彼らの声を聞いていた。それほど時間に余裕を持っていた。"スカムバグ"にかなりの痛手を負わせたのだから当然ではあるだろう。

 "スカムバグ"は腹部を貫かれた後、動かずその場にとどまっていた。

「……気味が悪いな。所詮は抜け殻、というわけか。まぁいい、このままトドメを刺しておこう」

 エオリカがそう言い、もう一度風の膜から風を集め始める。

「……む?」

 "スカムバグ"の指が、ぴくりと動く。エオリカは見逃さず、瞬時に風を戻して膜を張り直す。

 そこに強烈な音。


「流石だな、エオリカ」

 "スカムバグ"……いいや、カルモ。彼はまだ倒れていなかった。エオリカの腹部に命中させようと、エネルギーの砲弾を放ったようだ。風の膜にギリギリのところで止められたようだが。

「……生きていたとはな」

「まぁな。流石に効いたが……ガワのおかげで生き残れたよ……」

 "スカムバグ"の腹部に穴が空いており、そこから別の誰かの腹が見える。

「……なるほど。皮のようにスカムバグを着ているわけか。エイドの物と似ているな」

「まぁな。だが奴よりは遥かに上だ……。この皮は、殺した奴の意志に関係なく無限に再生する」

 穴が、閉じていく。

「俺を倒したければ、この皮を一瞬で吹き飛ばし、俺の本体を叩くしかない、というわけさ」

「……気味の悪い話ではあるが」

 エオリカは、構える。そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべる。未だ余裕なのだろうか。

「やりがいはあるな」

「……その余裕を崩すのは無理そうだな。というより……それは余裕を見せているわけではないのだな」

 そう。

 これは強者の笑み。

 エオリカは久しく本気で戦える相手との勝負をしていない。それゆえに、ただでは倒れないカルモという男との勝負に、楽しさを感じているのだ。

「……ならば俺も応えようか」

「俺とお前との勝負は伝説となるぞ!」

 "スカムバグ"の衣が弾け飛んだ。


「……なんだと?」

「お前にこんな小細工をしても無意味だ。そうだろう? 先程の一撃でお前はこのガワの脆さを理解したはずだ。お前の攻撃の前では1秒も持たんとな」

「……ふふ。ああ、そうだ。だからこそ! その先に見えるお前と戦う事を喜んだ!」

 次の瞬間、二人は即座に接近し拳を合わせる。轟音が当たりに響き、衝撃波が建物にヒビを入れる。

 エオリカの瞬足の膝蹴りがカルモの腹部に命中するが、カルモはその足を掴み、エオリカの顔に肘打ちをする。それにのけぞったエオリカは、身体を柔軟に動かして掴まれていない方の足でカルモに蹴りかかる。

 カルモはそれを察して、掴んだ足を離して距離を取る。そして離れたその位置からエネルギー弾を数発放つ。それはエオリカに命中するが、風の膜に遮られ被弾とまではいかない。エオリカはそのままカウンターとして、角状の鋭い風を数発カルモに飛ばす。カルモはそれを避けて、エオリカに向かっていく。エオリカはニヤリと笑い、自身もカルモに向かっていく。

「うォォォォーーーー!!!!」

「ハァァァァーーーー!!!!」

 カルモの渾身の一撃と、エオリカの渾身の一撃がぶつかり合う──────────!


───────────────────────


「うわあっ!!」

 千明梅花の驚きの声が響く。椅子から転げ落ちそうになったのだ。それを支えたのはアンブラ。今、十二種王の茶会は、謎の地震に襲われていた。

 

「この感じは……相当なエネルギーのぶつかり合いがあったようだな」

 "剛王"プラチナが立ち上がり、床を探りながらそう言う。

 それに対して、"竜王"マイルが、目を輝かせて机に乗り出す。

「なんだ? 敵か? 敵なのだな?」

「ちょっ、マイル様!」

 アンブラがそれを抑えようとする。"竜王"マイルは、赤眼族に負けず劣らずの戦闘狂なのだ。

「……落ち着いてマイル。まだ、敵と決まったわけではない。感じた事のあるエネルギーも混じっている」

 "戦王"レナが諌める。マイルはムッとしつつも、何やら考えているようなしぐさをする。恐らく試しに探っているのだろう。

「……んん? 確かに、覚えのあるエネルギーを感じるのだ」


「……このエネルギーは、エオリカの物……確か彼は別任務に行っていたはずです」

 三味がそう言った後、ゆっくりと上を見上げる

「……エオリカ……まさか……」



───────────────────────




「……ぐぅ……」

「……まさかここまでとはな……!!」

 カルモの腹部に風穴が空いている。

「しかし……貴様もここで終わりだな……!!!」




「……ぐ……ぬ……!」

 エオリカは、技を繰り出した左腕を吹き飛ばされてしまった……。

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