殲滅戦に向けて
「さて」
リキッド・ピエロを捕らえ、フォリを倒し、コガラは後から合流したガンドと三味と共に、リキッド・ピエロを運びながら茶会の会場へ戻っていた。
「この後は殲滅戦ですかね、三味さん」
「ええ。相手も目的もある程度割れた以上、なりふり構っている暇はありません。すぐにでも準備を済ませて……と言いたいところですけど、ガンドさんが……」
「……あ、そういやまだ途中か」
コガラはまた、考えるような仕草をした後、ガンドに一瞬だけ顔を向けてから、三味に向き直る。
「じゃあ、東雲さんに引き継ぎですかね」
「……あっ。そういう手がありますか。彼の異能は風ではないので少し難しいかもしれませんが……」
2人が話し込み、ガンドを気にせず話にのめり込んでいく中──────
(……なんか俺そっちのけで俺の大事な話が進んでる気がする……)
と、至極当然の思考に至るガンドであった。
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会場に戻った後、リキッド・ピエロは改めて捕縛され、尋問に回された。
王達は起きた事の一通りの説明をコガラから聞き、一瞬だけ沈黙したのち、議論を始めた。
「大体裏が出たな。明日には正当な理由を持って五十の辻と公爵家を襲撃出来る」
プラチナがそう言うと、皆頷く。そしてドンノラが小さく手を挙げて、話し始める。
「一応、既にウチの偵察隊を、ハートの領土にある五十の辻アジトに向かわせてある。そのアジトの様子によっては……もぬけの殻にでもなっていれば、襲撃先は一本に絞られる」
「そうでなければどうする?」
プラチナが質問を投げかける。
「その場合はレナ、オスクリタ、ハートらに撃滅戦をやってもらう。まぁ、可能性は低いがな」
「……私もか? いいのかい、ドンノラ君」
「構わないさ。ハート、アンタには奴らを抱えていた事への尻拭いの意味もあるからな」
「……まぁ、確かにねえ」
「レナ、オスクリタ。お前達もそれでいいな?」
「……ああ、異論はない」
"空王"オスクリタ・フェニーチェ。鳥人間、という種族の、翼を持つ金髪の女性。ここまでほぼ口を開かなかった彼女が、今ようやく口を開いた。
「……よし。レナはどうだ?」
「……私も異論はない」
「そうか。よし、ではそのつもりで話を進めよう」
そうして、話が1つまとまった……
「……ドンノラさん」
……かに見えたが、そこにコガラが口を挟む。
「なんだ、コガラ」
「俺も、五十の辻殲滅戦に出向いていいかな」
「何故だ?」
「……あそこへの潜入捜査を行なっていた者として……けじめをつけたいのと……俺はあの組織に少し思うところがある」
ドンノラは納得したように頷く。
「わかった。では、レナ、オスクリタ、ハート、コガラの4人の勢力での殲滅戦プランとしよう。異論のある者は?」
沈黙。
「……よし。では、五十の辻は彼らに任せる。……っと、マイル。そういえばお前はこのメンツでついていかなくていいのか?」
ドンノラが不意にマイルにそう尋ねた。
「んぁ? ……私はいい。私は三木と王国に残りたい」
「……何故?」
「奴らはまだ何かを隠してる。私を洗脳したと勘違いしてる時に……何やら不穏な事を言っていたのだ」
「ふむ。懸念材料は排除すべきか……。わかった。マイル、三木の2人が王国防衛という事にしよう」
「では、残りの者らの勢力は全員、公爵家を攻める。オレ、プラチナ、エビル、カーネ……それから三味さん。……過剰戦力のような気もするな……」
「……そういえば、エビル、カーネ。お前達ほぼ意見を出していないが、問題はないのか?」
"闇王"エビルと、"獣王"カーネ。悪魔族のエビルは静かに頷き、獣人のカーネはというと……
「コガラが良いならいいのだ」
と、すんとした顔で言った。
「……ふむ。ならそれで良いが」
「……さて。一旦解散としようか。今日中に"要塞化"を済ませておく。各自準備を忘れずに。では」
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俺はひとまず三味さんについて行くことになった。なったが、実力不足な事もあり、殲滅戦が始まるであろう"式の日"までの数日間、東雲さんの元で修行する事になった。今日は、ひとまずこの茶会会場があった建物……"王都集権中央協議館"に泊まる事になった。
俺が聞いたところによると……
この建物……動くらしい。
「その名も"飛行要塞エンタープライズ"……。王国が戦争する際用いる最強の防衛要塞です。異能者の移動や射出には最適の設備が備えられています。ただ、かなり酔うのでこの酔い止めを忘れずに飲んでください」
「私は……少し、やる事があるので。ゆっくり休んでくださいね」
そう言った三味さんの様子がちょっとおかしかったので、何やら興味が湧いた俺は、三味さんの後をつけてきてしまっていた。まぁ、遂に1人になってしまったので、それ以外にやる事もあまり思いつかないのだが……
三味さんはとある大きめの部屋に入って行った。隙間が空いているので、そこから覗いてみると……
「……コガラく〜ん。ちょっと、肩揉んで〜」
「……あのさぁ……急におばさんぽい事言うな……感覚狂うだろ……」
「仕方ないでしょ、肩が凝ってるんだから」
「……まぁ、心配になるからやるけども」
……。
……三味さんはコガラに肩を揉んでもらっていた。いや、何してんの。ってか肩凝るの!? あの見た目で!!?
あ、ちなみにコガラは少女の姿になっていた。まぁどうでも良いが、割と綺麗めに仕上がっている。
「……しっかし、酷い話だねぇ。ガンドもだがフェターリアさんも可哀想だ。……速めに終わったらちゃんと加勢に行くから無茶しないでよ」
「うん、もちろん」
三味さんは可愛らしい、女の子らしい顔をしていた。俺どころかエオリカにすら見せた事が無さそうな顔だ。
「そういえば、そっちはオスクリタやレナと一緒だったよね」
「うん。……人見知りすぎて全然話してなかったけど、嬉しそうだったよ」
「了解求められた時、固まってたね。あはは」
アレ人見知りだったの!?
ただ寡黙なだけかと思ってた。レナに至っては天然なだけだと思ってたんだが……!?
「……そういえば雷羅が帰ってきてたらしいじゃん。元気だった?」
「元気だった……というか元気だよ? まだいるし、協力するって、ここに来てたはずだよ。会いに行ったら良いじゃん、後で」
「ふぇっ。そうなのか。……会いに行くのは良いけど、気をつけないと嬉しさで締め上げられそうだなぁ」
「力強いからねあの子」
雷羅さん……ああ、あの人。
そういえば鍛えてたな……アレに抱きつかれたりでもしたらそりゃあ痛そうだ……。
「……アイツも帰って来れば良いのになぁ……」
「……そうだねえ」
なんだか、2人が誰かのことを考えてしんみりしている? 誰のことだろうか。
気になってもう少しよく見ようとして、後ろから
「なにしとんねんジブン」
と声を掛けられた時はめちゃくちゃびっくりしたし鳥肌がたった。
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「おっひさー! 元気しとったかー、こがらー!」
そう言いながらコガラに抱きついてぐりぐりし始める雷羅さん。まさか後ろに立ってると思わなかった俺はまだ肩が震えている。
「……しかし覗きとは。コガラ……好奇心は猫をも殺すんだぞ。俺らじゃなかったら大変なことだったぞ」
「というか、私達がもし盛ってたら多分殺してましたけど」
「おい待て」
コガラは相変わらず女の姿で、むすっとした表情の三味さんをなだめている。なんというか、三味さんがいつもより怖く感じた。
「……それにしても、3人とも仲が良いんですね。長い付き合いなんですか?」
「ん? んー……2年くらいか?」
「多分そうです。とは言っても、雷羅さんは1ヶ月くらい遠征に出てましたが」
「せやな」
「遠征……どちらに?」
「アステーリア王国っちゅーとこや。まぁ大した用やない。ちょっとそこの先にある極東の国についての情報が欲しくてなぁ」
「……極東の国……」
「あ、あかんで。そこら辺の情報は極秘事項やから話されへん。探しとった言うだけ。以上な」
「あ、はい」
「……ただ、もう1つな。ちょっとここで話したい情報あんねん」
「……と、言いますと?」
「……"アイツ"な。やっぱり破砕におったわ」
「!」
「……何故……」
三味さんとコガラがショックを受けている……。
「……アイツ、とは?」
「……ああ、えっとな……」
「ガンドさん。清宮園絵という人物を、覚えてませんか?」
「……えっ。確かフェルバーさんの伝達役の……ッ!? まさか、あの人が破砕の……!?」
「……やはり。彼女は、フェルバー皇女殿下に仕えるふりをして、情報を横流ししていた疑いがあるのです」
「……………………そして」
「……彼女は、私達の仲間。私達の極秘巨大ギルド、"リリィレギオン"の元メンバーなのです……」




