秘密の宴
その先には、栄華があった。
その茶会に使われている部屋のなんと荘厳な事か。
言葉で表すのもおこがましいとさえ思えるその美しい装飾の数々。
茶会のための長いテーブルを、囲う様に並べられた椅子は、一つ一つが玉座の様に大きく、輝いて見えている。
ガンドは呆気に取られた。
予想はついていても、実際に見ると人は驚くものだ。想像もつかないような別世界の景色というものは、往々にしてそういう物だ。
しかし呆気に取られているばかりでは話もできない。ガンドは思い直して三味の方に目をやる。
「あっちの二つが私達の席です。座りましょう」
そう三味が指差したのは、奥の白い椅子と、その左隣の椅子であった。三味のドレスと同じ色である。
二人は椅子に座り、他の者達の到着を待つ。
「……そういえば、俺はどういう扱いなんですかコレ」
「そうですね……。端的に言えば、同伴許可者……"ここに来る事を私もしくは王に認められた者"という事になります。この茶会では必ず一人同伴許可者を連れてくるルールがありますので……貴方はそのルールに則って、ここに来る事を許可されたという事になります」
「……ふむふむ」
そうして説明を聞いているうちに、見覚えのある者がやってくる。雪のような髪色の少女───────"戦王"レナ・ビルガメスだ。
「レナさん……そりゃそうか」
「……久しぶり」
レナはガンドに笑いかけた。彼女の同伴者は、三十代程度の少しくたびれた顔の男性で、ガンドと三味を見ると、ぺこりと小さく頭を下げて挨拶してきた。
「……あの人は?」
「"戦王"レナの夫です。側近でもあるため毎日激務で、いつもくたびれた顔をしています」
「……ちょっと気の毒ですね」
そう言うと、三味さんはクスッと笑う。
「あの人は"戦王"レナが大好きですから。あんな顔してても、大して気にしていないと思いますよ。貴方もそうでしょう?」
「……んまぁ、はい」
次に入ってきたのは"我王"三木猫蓮だ。連れているのは薄黄色の着物を着た、可愛らしい鬼の女の子である。二人は三味とガンドに気づくと、笑顔で手を振った。
「あの人は?」
「あの子は、"我王"三木の親友で、側近の人です。とても仲が良いようで、"我王"三木はいつもあの人を連れてきています」
「……へぇ」
顔見知りの王の話を聞いているうちに、残りの王達も入ってくる。その中には"竜王"マイル・リジェネーションがおり……そしてその隣を歩く二人がいる。恋人繋ぎで仲良く話しながら入ってきたその二人は、アンブラと千明であった。
「……………………アンブラ」
その光景を見て、ガンドの中にはじめてある感情が浮かんだ。
(……羨ましいな)
自分もああであれたら。
もし、フェターリアと仲良く手を繋いで歩けていたら。そんな風に、今までガンド自身思っても見なかったような事を考えるようになっていた。
ガンドは守ることに固執しすぎていたのだと、そう思っている。もっとフェターリアや皆に向き合っていれば何か別の方向へ進めたかもしれないと思っている。
(……もう一度会えたら必ず聞こう。フェターリアに。俺の想いを伝えてから、フェターリアの本心を……聞くんだ)
全ての王が座った後、三味が一つ咳払いをして、ゆっくりと立ち上がる。既に仕事モードに入っているようで、目はギラギラしている。
「皆様、忙しい中お集まりいただきありがとうございます。お久しぶりです」
「……さて、今日集まっていただいたのは他でも無い、今日の茶会すら欠席し結婚式の準備に奔走する"吸血王"ルキドゥス・ロッソと、その妹フェターリア・ロッソに関する事です」
「彼女の婚姻は半ば脅しと呼べる物。我々とて黙っているわけにはいかない。そこで、対策を講じるため皆で意見を交わそうという事です」
三味はそう言ってニヤリと笑って見せた。
そうして議題が始まるとすぐに、"火王"ドンノラ・アモーレが立ち上がる。
「必要かと思い、オレの所で此度の件についての情報を集めておいた。妹に資料を配ってもらう。皆、受け取ってくれ」
ドンノラの隣に座る彼の妹、アローネが立ち上がり、手に持っている書類の束を一つずつ丁寧に皆に配っていく。
「お久しぶりです。あの時はありがとう」
ガンドに配る時にはそう言った。
「……いえいえ。ギルドリーダーですからあれくらいはしなければ、ね」
(まぁ……あの時アレを倒したのは瞳なんだけども)
赤眼一族が集めてきた情報は、フェターリアの家と公爵家の関係性や、結婚式の日程などの情報であった。
結婚式は三日後。式は"吸血王"ルキドゥス・ロッソの城は執り行われるらしい。
「……公爵家との関係性は……と」
ガンドは資料に釘付けになっている。
(……なるほど。吸血種が迫害に遭いかけた時に助けた一族……ね。だからと言って、その後の人生まで左右するような約束をするかね、普通)
ガンドは眉間に皺を寄せている。その表情から言い知れぬ怒りを感じ取った三味は、ガンドの肩を優しく叩く。
「……ガンド。怒りに身を任せないで」
「……わかってます。大丈夫です」
「……ドンノラ。この情報……この迫害とやら、なんかきな臭くねえか」
重く、力強い声で、"剛王"ヴァーミリオン・プラチナがドンノラに尋ねる。ドンノラは目を閉じて、静かに息を吐く。
「オレもそう思う。そもそもこの異種族入り乱れたエルファニア王国で、吸血種が迫害を受けるような事はあってはならない。差別などない、だが救いもないのがエルファニアの矜持だ」
「その通り。ならコレは、"仕組まれた事件"と考えるのが無難だ。だとすると……この約束も脅しか、あるいはこの約束を承諾したらしいルキドゥスの父親が……」
「……何者かに操られていたという事になる」
「そうだ。そうなると……考えられるのは、お前んとこの赤眼の誰かが噛んでいるって話だ。ま、お前はそんな事しないだろうが」
「……オレは、な。赤眼一族は代々、世代に一人は異端者が出る呪いを持つ一族……。ありえない話ではない」
「私も意見を述べてよろしいだろうか」
ヤギのような角を持つ大男───"地王"ハート・ソンニャトーレが手を挙げ、会話に参加する。
「構わねーぜ。元々そういう場だ」
「ありがとう。……彼、ガンド・ヴェルナーは、私のお抱えギルド"五十の辻"と協力し、単独で破砕の幹部エイドを撃退した。その際倒れたエイドの、少し気味の悪いあの遺骸を解剖したのだが……少し奇妙な事が判明してね」
「……"奇妙な事"?」
「どうやらあのエイドとかいう者、赤眼一族の者らしいのだ。……眼が、赤眼一族の特徴と一致する性質を持っていた。まぁ、擬態した物だから本人の複製なのだろうが」
「なんだと!?」
「……つまり……奴がやったのか」
「いや、そうとも言い切れないんだ」
「……?」
「どうやらエイドのその赤眼……移植された物のようなんだ……」
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「〜」
暗闇に沈む街を眺めながら、上機嫌に歌を歌うエイド。彼はもはや、あの凶悪な性格ではないのだろう。まるで別人のようだ。
「……贖罪を終えたら……最後はあの人に殺してもらおうかな……。もう戻れないんだし……」
「そうはいかない」
エイドの背後に、何者かが姿を表す。暗闇で姿は見えないが、エイドにはオーラとそのシルエットで判別ができたらしく、警戒する。
「……どうしてここがわかった?」
「お前がその眼を持つ限り、俺にはわかってしまうんだよ。観念するんだな、エイドよ」
「……お前には渡さないし、二度と操られる気もないよ。赤眼一族の唯一の汚点さん」
「……奴らは俺を理解していない。いや、できなかったというべきか? ともかく、汚点などと言われる筋合いはないさ」
「……どっちでも良いよ。どちらにしろこの眼は、お前なんかには渡さない……!」
「わかっているだろう? スカムバグ・グランデベント……いや!」
「カルモ・アモーレ……!」




