十二王、集結
大体の人々が引き上げる頃合いである。
この日は雨がごうごうと降っていて、遊びに行く者もあまりおらず、引きは速かった。密会を行うには最適な日と言えるであろう。
ガンド・ヴェルナーは三味と共に異能指南道場を降りて、十二王の集まる裏の茶会へと出向いていた。
この日、ガンドは正装をさせられていた。王達の茶会なのだから当然と言えば当然だが、ガンド的には随分と久しぶりにドレスコードを気にしたので、少し苦戦した。体格によく似合うスーツを三味が用意してくれたので、選ぶのに時間がかかることは無かったのだが。
今回の裏の茶会は、十二王の一人"剛王"、ファーミメント・プラチナの居城で行われる事になっていた。急な決定だったが、剛王はかなり手際良く茶会の準備を整えていた。
茶会の前に、ガンドはプラチナに王の間に呼び出されていた。話したい事があるのだという。
「よく来てくれた。俺はファーミメント・プラチナ。まぁ、知ってるとは思うが……成り行きで王なんてものをやらせてもらっている」
「……ガンド・ヴェルナーです。よろしく」
ファーミメント・プラチナは、真っ黒のコートと帽子を着用している大男だったが、巨人族というにはいささか物足りないような、"普通の人間にしては大きい"くらいの男であった。そしてそれに対する疑問は当然ガンドも持った。
「……君はおそらく、俺に対して"巨人族という割にはチョッピリ小さいんじゃあないのか"なんて思っていると思うが、それは間違いだ」
「……!?」
「俺を含め、この世界の巨人族は皆が皆デカいわけじゃあない。……ある"巨大化する力"を持っているだけにすぎないのだ」
「……な、なるほど」
「そうだな……伊集院、見せてやってくれるか」
「……わかった」
横に控えていた、伊集院と呼ばれた男が立ち上がった。彼は黄緑色のコートを羽織った、赤茶色のちぢれた髪を持つ、少し似合わないサングラスをかけた大男であった。彼はサングラスを外し、緑色に爛々と輝く瞳をガンドに向ける。そして、サングラスを懐にしまうと、右手を──────
「はあっ!」
──────思い切り振り抜いた。
右手は振り抜かれた直後から、巨大化しながら伸びて、ガンドの右隣を掠めて壁に直撃した。壁は少しだけ破壊された。
「オイ、伊集院。何をやってやがる」
「……すまないメント。しかしこれくらいしてあげた方が、彼にとってもわかりやすいだろうと思ってね」
「……フン。修繕費はお前持ちだぜ」
ガンドは呆気に取られて、しばらく声を出す事が出来なかった。
「……さて、ガンド君。本題に入ろうか」
「は、はい……」
「まず、今回の茶会は三味さんが緊急に要請したものだ。要請理由は"ロッソ家について"。まぁ、十中八九フェターリア・ロッソについての件だろうが……そうだな?」
「……はい。間違いありません」
「だろうな。……で、その件について、お前に問いたい」
「お前は、フェターリア・ロッソをどうして救いたい?」
「……??」
救いたい、理由。
その理由はガンドにもわかっている。ガンドが、フェターリアを大切に思っているからだ。
「……彼女が大切だからです」
そうシンプルに答える。
しかし、その返答ではプラチナは満足しなかった。怪訝な顔をしている。外見からはわからないが、プラチナは怒っているわけではなくシンプルに疑問を感じているようだった。
「……本当にそれだけか?」
「……は?」
「君は彼女に好意を抱いているのではないのかね」
「……!?」
プラチナから問われるのは、当然ではあるが唐突すぎる物であった。好意。ガンドはフェターリアに対して、好意を抱いているという自覚は未だ無かった。
初めて会ったその時から、ガンドにとってフェターリアは仲間であった。共に笑い、泣き、時には喧嘩し、そして仲直りして─────共に幾度も苦難を乗り越えてきた。
そうしてガンドにとってフェターリアは、かけがえのない仲間となっていた。しかし─────
「……こ、好意、ですか」
ガンドには好意を抱いているような自覚は無かった。だからその問いにかなり戸惑ったが、ガンドは落ち着いて自分に問いかけてみる事にした。
(……俺は……フェターリアに……)
考えてみれば、いくつも心当たりはあった。
そしてそれ相応の想いが自分にある事も、ガンドは容易く理解した。
──────そして、自覚してかなり恥ずかしく感じてしまった。
顔が赤くなったのを見て、伊集院とプラチナは優しく微笑んでいた。
「……うん。その顔を見れば大体わかるね。プラチナ」
「ああ。……お前の想いはわかった。その気持ち、忘れるな。奴らをブチのめしてから、きっちり伝えろ」
「……ブチのめすの前提ですか……??」
───────────────────────
ガンドはプラチナに用意された部屋にて、用意を済ませる。そして、廊下で三味を待つ。廊下は静かで、これでもかと緊張感を誘ってくる。
ガンドは緊張に少し飲まれそうになりつつ、静かに三味の到着を待つ。
やがて、別の部屋のドアが開いて、三味が出てくる。三味は綺麗な白いドレスを身に纏っている。
「さぁ、行きましょうガンドさん」
「……はい」
「ふふ、緊張しているようですね。まぁ無理もないでしょう。王がいるパーティ、だなんて夢物語みたいな物でしょうし」
「……正直緊張してますよ。でもそうも言っていられないから、頑張ります……!」
「……殊勝な心がけです。さぁ、参りましょう」




