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42.事の顛末

「お帰りな…ええっ!何で皆一緒なの?」


帰宅すると、(さとい)が手に持つジュースを落としてまで大げさに驚いた。その声に暁も二階から駆け下りてくる。


「ただいま。慧たち、もう帰ってたの?珍しいね」

いつもの休日なら夕飯の時間ぎりぎりにならないと帰ってこない、年頃の妹たちが揃っていた。

響の声かけもよそに、慧は目を見開いてマナミに詰め寄った。

「マナミさん、どうしちゃったの?」

「ごめんなさい、予想以上の直感で…」

「お前ら、俺を出し抜くなんて100万年早いんだよ」

「マジきもっ!いくら何でもデート邪魔する?!」

暁と恵は一触即発でもする勢いだ。


「ちょっとどうしたの、何をそんなに」

慌てて響が仲裁に入ろうとするが、

「俺は何となくわかった。響さん、先これ冷蔵庫閉まっとこう」

達観したように言う那須が、帰り際に寄ったスーパーの袋を持って台所に入って行く。



あの後、遊園地を堪能した響は、せっかくなので夕飯を食べないかと那須とマナミを誘った。弟妹5人合わせて大人7人、久々の大所帯だ。ここまでくれば全部大皿の料理にしよう、と響は心を躍らせて支度に取り掛かった。




「私が甘かったわ…。お詫びに三つ星のケーキ買ってきたの」

「きゃー!これテレビで見たことあるやつ!!」

マナミのお土産に、慧が興奮する。甘い物が苦手な恵は、見るのも嫌と顔を顰めた。

「おい、慧、暁。お前らのやったことは犯罪なんだよ。共謀共同正犯だ、舐めんなよ」

「メグ兄のそういう意味分かんないこと言っちゃうのが、まずナイ」

「んなーにが、『大変!マナミさんから緊急連絡網だよ』っだ」


今朝、恵は自分同様朝が苦手な慧に叩き起こされた。思えばそこから妹たちの計画は始まっていたらしいが、恵も朝が弱いので事の次第を理解していなかった。


「出だしは好調だったのよ、すんごい剣幕で登校してきたもの」


先日終わったばかりの期末テスト、結果を見る間もなく満点1位のはずが、まさかの出席日数不備で奨学金制度から外れると言われたのだ。マナミから、電話で。

奨学金をもらえないとなると、家計をやりくりする響に負担がかかる。そう思うと、恵は必死で模試だの講座だの何だの受けますと頭を下げるつもりだった。

ところが、学校に行けば部活の連中しか揃っておらず、何故かマナミがしつこく引きとめようとする。そこで、天才の頭脳は凄まじいスピードで記憶を甦らせた。


『―あれっ?恵、学校なの』

響ちゃんが驚いて俺を見る。そりゃそうだ、休みの日まで学校に行くなんてあり得ない。

『ごめん、呼び出しかかって。行ってきます』

『行ってらっしゃい』

そのとき彼女は何を着てた?



ピ ン ク の ワ ン ピ ー ス だ。 (※しばらく恵の暴走にお付き合いください)



あれは確か暁と買い物に出かけたときに買ってきた服。袖がなくて、丈も膝上でゲロ可愛いやつ。あんなのいつ着るんだよ、と不満だったが暁の授業参観で着て行ってた。似合ってたな、暁の友達に褒められたってよっぽど嬉しかったのか皆に言ってたしな。あー自慢げな響ちゃん超可愛い。ま、それは置いといて何かキッチンで作ってた。哉は朝練行っていたから哉の弁当ではないし、いつもなら彼女は洗濯をしている時間だし。おかしい。




『―おい、成田。響ちゃんどこ行くか知ってるんだろ』

『!!…い、いきなり何?』

急に黙り込んだと思えば、口を開いた途端核心をついてきたのだから、マナミは相当驚いたのだろう。利口な彼女が咄嗟に演技をしても、恵にはそれで十分だった。

『今日天気良いしな、行くなら外だな。あの丈で乗り物は厳しいから動物園ってとこか?響ちゃんは暗いと寝るから映画は見ないし』

『ひぃっ…な、なんで、そんな』

綺麗な瞳が絶望と恐怖に彩られていく。


『誰と行くかはどうでもいい。場所、どこだ。ん?』

こんなときだけ目を三日月にして微笑む恵を見て、マナミの全身に鳥肌が立ったという。




「…それから直行よ。響さんたちを見つけても、暫くは尾行して」

「えっ?あのとき俺らを見つけたんじゃなかったの?」

マナミの説明に、今度は那須が絶句した。

「『俺ら』って響ちゃんを括るんじゃねぇ、ぼけナス」

恵の悪態も耳に入らず、那須の顔から火が噴いた。浮かれたデートの様子を見られていたなんて、こんな恥ずかしいことがあるだろうか。

「可愛かったろー?係員に行ってらっしゃいって言われるたんびに律儀に返すとことか、お前が響ちゃんの弁当毎日食べたいって言ったら『毎日じゃ飽きない?』って神妙に返すとことか」

「う、うわあああ、やめてくれ」

全く相手にされなかったことを思い出し、那須は悶絶した。

「…ナスくん、頑張って」

同情した目で慧が肩を叩く。




「はーい、できたよー!」

響が料理を運んでいく。今日のラインナップは、エビチリ、チンジャオロース、酢豚…と言った中華である。ナスが安かったので、惜しみなく使った麻婆茄子が自信作だ。

「わー!豪華ー」

「人数も多いしね。哉の分は取ってあるから遠慮なくどうぞ」

湯気の立つ出来たての料理を目の前にして、みんな喉を鳴らす。取り皿を配れば盛り付けは気にしなくて済むし、ちょっとしたバイキング気分だ。


「とっても美味しいわぁ、響さん」

「ありがと。たくさん食べてね」

はい!と掻き込みながら言う那須に、

「てめーちょっとは遠慮しろ!」

野次が飛ぶ。恵顔負けの食欲だ。

「あのね、那須くんはスーパー(いちばん)の従業員なんだよ。あそこのおかげでこれだけ作れるんだから」

「いや、俺ただのバイトだし…」

「響ちゃん、これ美味しーね」

暁が指差す麻婆茄子こそ、スーパー(いちばん)の戦利品なのだ。


「今日はナスが安かったんだ。私、野菜の中でナスが一番好きかも」


響が言った途端、恵がブーッとお茶を盛大に噴いた。

「ちょっ!汚なっ!!何?!」

隣にいた暁が自分にかかった、とぎゃあぎゃあ騒ぐので響は布巾を取りに席を外す。


「…おい、ぼけナス野郎。てめーのことじゃないからな」

「アホか!野菜を自分に置き換えてまでおめでたくねーわ!」

戻ってきてみれば、男二人がまた掴みかかろうとしている。

「あんたたち!何やってんのよ!」

「恵ちゃん、救いようのないバカなの。『麻婆茄子』が嫌いなんだって」

慧が説明してくれる。

「はいぃ?恵も好きだったじゃない。美味しいよ?」

そう言うと、恵は目に見えて不機嫌になった。

「俺は大っ嫌いだ!」

「何なのよ、じゃあ食べなくていいわよ。姉ちゃんは好きだから食べる」

「だああっから!そういう思わせぶりすんなって!春は変態が湧くんだぞ!」

ドン!とテーブルを叩いてまで大声を出してきた。びっくりして呆気に取られると、

「今、春じゃねーし!変態じゃねーし!」

と今度は那須が大声を出す。


それからは乱闘で、この二人はきっと仲が良いのだ、と響は放置することにした。





毎度タイトルが思いつかず…辛いです…

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