がんばる!
ーーー付き合うってなんだっけ?
ミリエールは真剣に考えていた。
というのも
「ねえ?ミリーたちは本当に付き合ってるの?」
そうエレオノーラが尋ねるほど、全く変わっていないのだ。
「て、手紙はやりとりしているよ?」
ただし、パトリックからの手紙には甘さなどなく、業務連絡の様な内容だった。
せいぜい、休憩時間の焼き菓子が美味しかったとかその程度。色気はない。
こうして訓練の様子を見学していても、手を振るどころかこちらを見ることもない。
まあ、そんなことをしたらパトリックではないけれど。
「キスはしたの?」
ワクワクとエレオノーラ。
ミリエールは首を横に振った。
告白前に手と髪にキスをしてくれたが、それだけだ。
送ってくれたのもーーそうそう訓練を抜けられるものでもないので、告白された時だけだ。
ーーーこの朴念仁っ!でもそこが好き!
ミリエールの心を読み取ったかの様に、「はいはいごちそうさま」とエレオノーラは苦笑した。
でも実際問題、それではだめだ。
死の期限は刻々と近づいている。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
あとひと月で建国祭だった。祝祭は3日間ほど続く。
最終日の開かれた王城でのパーティはもちろん、街も祭り一色になる。
ミリエールはアレクシスからの手紙にエスコートしたいと書かれていて思い出した。
パトリックからの手紙は相変わらずの業務連絡だ。パーティどころか、建国祭のことすら書かれていない。
彼女はため息を吐く。
パトリックは身分を気にしていた上、エレオノーラの誕生日パーティでも嫌な思いをしていた。連れ立って行くのは絶望的だろう。
ーーーまあ、私も必要以上に行きたくないけど
将来を考えれば顔を出さなければいけない場所ではある。
かと言って父親には頼めない。母親が参加するからだ。
アレクシスの招待に乗るわけにもいかない。下手に噂されたら困るのはもちろんだが、何より万が一が起きれば詰む。最愛の人じゃないからだ。
「パトリックに頼んでみて、ダメなら仕方ないか」
呟いてため息をついた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
今日は暑くなるらしい。
「ノーラ、今日はレモンの蜂蜜漬けも用意してきたの」
「まあ、美味しそう」
「冷やした紅茶に入れたら良いかなって」
いつものお菓子作りタイム、そんな話をしていた。
「建国祭はどうするの?」
ーーーあ、やっぱり
別の話題で誤魔化されないエレオノーラ。
「んー、街の祭りはともかく、夜会は迷ってる」
ああ、とエレオノーラは頷いた。
「パトリックね」
エレオノーラも覚えている。自分の誕生日パーティでパトリックがどんな扱いを受けたか。
それでも、将来を考えれば慣れなければならない。
手紙に書くの?と尋ねられ、「直接言う」とミリエール。
「頑張ってね」と言いながら、エレオノーラは焼きたてのマカロンを確認していた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
レモンの蜂蜜漬け入りのアイスティは好評だった。お付きのメイドが大変そうだったので、もうできないかもしれないが。
「エレオノーラ嬢は建国祭、どうするんだい?」
尋ねたのはマクシミリアン。
「エスコートしてくださる殿方がいらっしゃるなら参加したいとおもってますの」と言うと
「それは良かった」とマクシミリアンは笑った。
「エレオノーラ嬢、私と参加してくれませんか?」
「ええ、喜んで」
ミリエールがパトリックを誘う前に、こちらがペア成立したらしい。
ーーー言い出し辛くなった…
笑顔が固まる。
どうしようかと考えている視界の片隅で、マクシミリアンがパトリックの腕を肘でつついているのが見えた。
ハッと彼は息を飲む。
「ほら、手本は見せたぞ」と小声でマクシミリアン。
パトリックは拳を握り締め…
「ミリエール嬢!」と呼びかけた。
「は、はい!」
考え事をしていたミリエールの声が上擦っていることにパトリックは気付かない。
「建国祭、俺と共に過ごしてほしい!」
「「「え?」」」
3人の声が重なった。夜会の話だけではなかったのか。
「祭りをミリエール嬢と楽しみたい。夜会は俺は爵位も低いし、不快な思いをさせてしまうかもしれないがエスコートさせてほしい!」
精一杯の告白。
「お前、初日は警護だったよな…?
2日目も御前試合があるだろう?、」
マクシミリアンがジト目でみる。 「だ、だからそのあとにはなるが…」と付け足した。
ふふふとミリエールは思わず笑ってしまった。
そして、「はい喜んで」と返事をする。
パトリックは胸を撫で下ろした。
「よくやった」とマクシミリアンがパトリックと肩を組み、頭を小突く。「やめろって」と2人が戯れ合っているのを見て、ミリエールとエレオノーラも笑いが止まらなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
建国祭の日がやってきた。
パトリックは警護の日だ。どこで何を警護しているのかは当然ミリエールはしらない。
なので、会うことはできない。
人通りも多いのでエレオノーラと連れ立って出かけるわけにもいかない。
そんなことを考えていると、部屋に母親がやってきた。
「ミリエール、聞きたいことがあって」
母親はそう言うと、ミリエールの部屋のソファに腰をかけた。
「今、どうなの?」
単刀直入。「え」とミリエールは間の抜けた声を出した。
「お付き合いしてる人、いるんでしょ?」
「…はい」
あらやっぱり!と母親は嬉しそうな顔をした。
「どんな人?」
「とても真面目な方です」
「…真面目な?」
一瞬母親の笑顔が崩れた。
「もしかして…進展してない?」
ぎくりと肩が揺れる。母親は声を引くして尋ねる。「どこまで進んだの?」と。
「手と髪にキスを…」
「それだけっ?!」
秒。
「奥手にも程があるわ。時間もないのに」
ぎりりと歯軋りをする。とても淑女とは思えない。
一族全員皆殺し…そのリミットまでもう1年半を切っている。
「良いわ、お父様に話しておくからその人の名前を教えなさい。悪い様にしないわ」
「でも…」とミリエールは口籠る。
パトリック自身も気にしていたが、伯爵家令嬢と不要論さえ囁かれている騎士だ。3年前の御前試合で爵位を授かったが、それも一代限り。身分に差があり過ぎる。
「気にすることないわよ」
あっけらかんと母親。
「我が家は娘の最愛の恋を邪魔したら死ぬの。つまり自由恋愛至上主義なのよ?身分差なんて些細な問題よ」
彼女はそう言って娘の肩を抱いた。
「さあ、おしえなさい」
ミリエールの母親は強いのだ。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
建国祭2日目。今日は御前試合がある。
建国祭が始まる前に予選は済ませ、準決勝と決勝のみだが、人気のイベントだ。
ミリエールもエレオノーラと共に試合会場に向かったが、席はほぼ埋まっていた。
「すごい人気ねー」と呆気に取られるミリエール。
場所取りしておけば良かったーと笑っているとと、一人の少年が目の前でオロオロしていた。
「どうしたの?」と尋ねてみれば、
売店へと出かけたら、人混みに飲まれ戻れなくなったらしい。
「どこの席なんですの?」
「えっとねぇ…」
エレオノーラが席を聞いたら納得した。
「シード関係者席…」
ごくりと喉が動く。
そこに座れる平民なんて、一家族しか思い浮かばない。
「君、もしかして…」
「僕の兄ちゃん、パトリックって言うんだ」
期せずしてパトリックの弟と出会ってしまった。
シード関係者席は貴族が多い。警護の者も多く、確かに普通の人は入りにくい。
戻れなくなるわけだ。
警備担当者に話を通し、入れてもらうと、少年はミリエールの手を引いた。
「お姉ちゃんたちも一緒に応援して!」
「私たちも席を探していたの。甘えていいかしら?」
と答えると少年は笑った。
狭い通路を抜け、関係者席…というより関係者ブロックにつくと、優しげな婦人が心配そうに待っていた。
「ネイト!どこまで行ってたの!」と戻ってきた息子を抱きしめ叱る。
「へへっ、戻れなくなっちゃった」と彼は反省せず、「お姉ちゃんたちに連れてきてもらったんだ」とミリエールらを振り向いた。
「ミリエールです」
「エレオノーラですわ」
二人は挨拶する。
「僕はネイサン!」と元気に挨拶している横で
「ミリエール様?どこかで…」と母親が首を捻った。
「あーーーー!!!」
ネイサンが声をあげる。
「にいちゃんの恋人だっ!!」
「…………っ!」
ミリエールは真っ赤になり声が出なかった。
それを見て母親は確信を得たらしい。
「あらあら、あなたが…」
嬉しそうに声をあげる。
「あ、改めて…ミリエール・ケムダーです。お世話になってます」
ミリエールは急いで挨拶をしなおした。
ふふふと後ろでエレオノーラが笑う。
「パトリック様はご自宅でミリーの事をなんと?」
「息子からの手紙にはよく名前がでてきてました」
「この前帰ってきた時は可愛い恋人ができたって自慢してたよ!」
「………っ!!」
ミリエールは再び声を失った。エレオノーラは耐えきれないと扇子を取り出して口元を隠して笑っている。耐えきれなかったようだ。
「あの子、不器用でしょ?ご迷惑かけてないかしら?」
「兄ちゃん、プレゼント一つ一人じゃ選べないからなー」
「こら、それは内緒って、リックが言ってたでしょ?」
この母子、パトリックと正反対におしゃべりが好きなようだ。
楽しく時間を過ごした。
一方控室では…
パトリックが盛大にくしゃみをしていた。
「おいおい、風邪か?」
「いや、体調管理は万全のはずなんだが…」
パトリックは家では惚気るタイプ
お母さんはどちらの家も強いです




