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どうしたのかな?


パーティーから半月、ミリエールはうんざりして、届いたばかりの手紙を放った。

差出人は『アレクシス・グランデール』

パーティー以降、毎日だ。気に入られたらしい。

ミリエールはケムダー家の一人娘だ。

世間一般から見れば、ケムダー家の爵位と幸運が手に入る恰好の存在だ。

今までも手紙などが来なかったわけではない。

ただ父と母が堰き止めていてくれた。期限まで2年となった今は、身の安全こそ守ってくれているものの、他はーーー特にラブレターに関しては素通りで届けられる。

そう、これはラブレターだ。

毎日のように甘い言葉と花が届けられている。

最初のうちはお断りの手紙を丁寧に書いていた。

それを文通と思われたとか、さらに手紙が来た。

もう送ってこない様書いた。花が届いた。

諦めた今はそれすらしてない。

マナー違反と分かっていても、もう疲れた。


逆にパトリックとはあれからギクシャクしている。

階段から落ちた時、助けられた。

膝まづき、手にキスされた。

それが恥ずかしくて、ミリエール自身が避けてしまう。

パトリックもいつもの休憩タイムにやはり目を逸らす。ミリエールも俯き…

結果的にますます気まずくなる。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「最近パトリック様、調子悪そうね」

いつものお菓子作り、エレオノーラにいわれた。「ミリーもだけど」と彼女はそう続けた。

「ケムダーの幸運、恋愛運はなんで対象外なのよー」

焼成中、ミリエールはテーブルに倒れ込んだ。

エレオノーラはふふと笑う。

「パーティで貴女とパトリック様が退出した時はドキドキしたものだけれど…」

実際は、3歩進んで4歩戻った。

「あはは」とミリエールは笑って誤魔化した。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


事態が動いたのは、その日の休憩タイムだった。少し気まずい雰囲気漂う中、嵐の根源が現れた。

「ここにいると思ったよ、僕の青い鳥」

アレクシスだ。

ぴくりとパトリックの指が動いた。

「君がよくここに来ていると聞いてね、会いたかった…」とアレクシスは花を差し出す。

「今朝、頂きましたが…」

「君には花が似合うからね」

聞いていない。

ミリエールは助けて…と視線を送った。

「君、私たちに挨拶は無しかな?」

すっと立ち上がったのはマクシミリアン。

アレクシスは姿勢を正した。

「これはこれは公爵家の…それからエレオノーラ嬢、ご機嫌麗しゅう」

「うん、君のおかげで麗しくないけどね」

笑顔で毒を吐くマクシミリアン。

「皆さんお揃いで」

アレクシスは気にしない。

そしてナチュラルにパトリックを無視した。

「王国騎士団ですか…まあ、形だけですから安全に箔はつきますね」

「貴方はもしかして廃止論者ですか?」

エレオノーラが尋ねると「ええ」と彼は頷いた。

「剣など振り回しても野蛮なだけです。隣国とは友好的にやっている。周辺の森の魔物は弱く民間人でも対処可能。どこに必要な要素が?」

アレクシスはチラリとパトリックを見て、鼻で笑った。

「抑止力は必要だ」

パトリックが返すと「ただの暴力装置でしょう」とアレクシス。

「君、その汚い口を塞いでやろうか?」と笑顔のままマクシミリアン。

「ここは君のいう暴力装置の総本山だ」

その声は冷たい。

アレクシスはひぃぃと声をあげ、ミリエールに向き直った。

「青い鳥、友人は選んだ方が良い。優しい君が汚れるのは見たくはないからね」

彼はそう言い、彼女の髪にキスを落とすと逃げる様に去っていった。

パトリックくのこめかみがぴくりと動いた。

「悲しいてわすわね、あれがこの国の現状ですわ」

とエレオノーラ。

「あんな男に靡いちゃダメよ」

彼女はミリエールの肩を揺すった。

「惹かれる理由がないよ」

ミリエールはキスをされた髪をハンカチで拭きながらつぶやいた。


休憩が終わり際、パトリックがミリエールを呼び止めた。

「待っていてくれ。送っていく」

そう一言だけ残すと訓練場に戻っていく。

「まあ」と喜ぶエレオノーラ。

「では、私は先に帰りますわ、ごゆっくり」

彼女はそう言って、メイドを連れて帰った。

入れ違いにパトリックが戻ってくる。

「良いんですか?」とミリエールが尋ねれば

「訓練にならないからな」

ぼそりとパトリック。

無言で歩き出す。

ミリエールがコンパスの違いで少し小走りになっていることに気付くと、ベースを落とし、並んだ。

「気が回らず、すまない」

「大丈夫…です」

ミリエールは答える。

「そうか…」と彼は呟き、またしばしの無言。

会話が続かない。

「あの、アレクシス様が失礼しました」

不機嫌な理由はこれかなと思い、ミリエールが言うと、周りの温度が一気に下がった気がした。

「なぜお前が謝る?」

不機嫌だとわかる低い声。

「それは…」

ミリエールが口籠るとパトリックは歩みを止めた。

「お前は…ああいうのが好きなのか?」

「いえ、断じて違います!」

即答。どこをどう見てそう思ったのか。

「……キスをされていた」

「髪ですけどね」

嫌でしたし、ミリエールは笑う。

「…俺は許せなかった」

グッと拳に力を入れて、ぼそりとパトリック。

そして、ミリエールを抱きしめた。

その力は強く、だが、優しい。

「……っ!!」

ミリエールは声が出なかった。

「嫌なら振り払え」

そう言いながら、また少し力が加わる。

「嫌じゃ…ないです」

ミリエールが言うと、「そうか」とほっとした様に彼は息を吐いた。

「お前の手に、髪に、触れるのは俺だけでありたい」

そっとミリエールの髪に触れながらパトリック。

「あの男が触れたことが許せない」

そっと髪に唇を落とす。

「そんな資格は無いのはわかっている」

抱きしめる手が、声が、震えていた。

「俺は騎士で…この国では意味がない」

アレクシスに言われたことを気にしていたようだ。

「それに…お前に並び立てる立場にもない」

それは爵位のことだろうか。

ミリエールはただただ、黙って聞いていた。

「だが、それでも…」

パトリックは大きく息を吸って、吐いた。

「お前と…ミリエール・ケムダーと共にありたいと思っている」

それは彼なりの告白。不安そうに瞳が揺れている。

「私も、パトリック様が…好きです。すぐ隣にいたいです」

彼女は応え、そっと抱きしめ返した。

「そうか…」

彼は嬉しそうに呟いて、ミリエールの肩口に額を寄せた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


夢見心地のままミリエールは家に着き、ベッドに飛び込んだ。

そしてきゃーーーっと枕を抱きしめ足をばたつかせる。

「告白だよね?告白しちゃったよね?」

自分で言って自分で照れる。

「両思いってやつだよね?」

きゃーーーっ!!

転がる。

でも…ふと正気に戻る。

カレンダーを見る。

誕生日から半年過ぎてる。

あと一年半。

「…処女を捧げないと…死ぬんだよね、みんな…」

むしろ、ここからが始まりだ。

まさか両思いになりました。じゃあ抱き合おうーーハグではなくーーとはならない。

キスだって髪と手にしてもらっただけだ。

ミリエール自身はしていない。

「好きです、抱いて」と言って抱いてくれる訳もなく、

ーーーもし、手を出すのは結婚してからと言われたら…詰み…だよね。

ケムダー家は呪いのことがあるから恋愛結婚推奨派だ。

身分差なんて問題にならない。

ーーーでもフリン家は?

ミリエールは一人娘だ。必然的に婿入りしてもらうことになる。

息子さんをください。説得に時間がかかるかもしれない。

ーーーいっそのこと呪いのことを話す?

『成人までに最愛の人に抱かれないと死ぬんです』『貴方も死んでしまうんです』『2人で助かるために抱き合いましょう!』

ーーー馬鹿か、怪しい人だ。

自分で考えて自分でツッコむ。


どうしたら良いのか…何も浮かばない。


「なんで両思いになったばっかりなのに、こんなに悩むのよーーー!!!」

片想い編終了です。

でも呪いは続く

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