会いに行こう!
久しぶりの投稿です。
パトリックが騎士を休業し、我が家に当主修行に来てから早一ヶ月、帰天祭のシーズンに入った。
今年の降雪は例年より遅いらしい。
慣れない事務仕事にパトリックは疲労困憊だ。
ミリエールはそれを微笑みながら手伝い、どうにか形にはなってきた…そんなある日。
「フェリシアに会いに行かないか?」
パトリックが言い出した。
「フェリシアに…?」
ケムダー家初代と言われるシリウスの妻フェリシア。
ミリエールの予想通り悪魔…もしくは人外だとすれば生きている可能性がある。
それどころか…
「あの日、確かに声がきこえた。だとすれば少なくともあの時は見ていたということだ」
もしかしたら今も見ているのかもしれない。
「そして、唯一の手がかりは…」
「蒼い洞窟」
ミリエールが答え、パトリックは頷いた。
蒼い洞窟…シリウスとフェリシアが出会ったと手記にあった場所だ。
「問題はどこにあるか…ですよね…」
ケムダー領は高位貴族と領地の交換を度々している。
隣の畑が青いだけでなく、事実ケムダー領は天災知らずだ。民の満足度も高く、税収も右肩上がり…多少余分に払ってでも欲しいと申し出る者は多かった。
そうして領地が広がり、収めた税など条件が重なって今の地位にある。
2人は地図とミリエールが翻訳した日記を照らし合わせていく。
古い地図、古い地図と辿っているうちに、そこに辿り着いた。
「「……グランデール領」」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
グランデール領のさらに端、忘れられてそうな田舎にシリウス・ケムダーが商会を起こし、最初に治めた街ーー今はただの辺境の村だが…がある。
雪が降り出せば完全に埋れるだろうその村唯一の宿に部屋を取り、調査を開始する。
初めに向かったのは、商館跡地だ。
商館があったのは約240年前ごろまで、その後は村長の館になり、強運によってその手腕を買われたシリウス・ケムダーが代官になり出ていくまでしか使われていない。
領地がグランデールに渡ってからは税を取れるだけ取った後は放置されたようだった。
「何もないねー」
「何もないな…」
そこにあるのはただの荒地。200年も経っていればこんなものかもしれないが。
あたりで聞き込みをしても、当然ながら当時を知ってるものはいない。
旧街道近くに迷いやすいので誰も入らないという森があることだけはわかった。
「シリウスも道に迷ったと書いてあったな…」
そうなると、一番怪しいのはその森だ。
その番は宿で休み、翌日、探索することにした。
翌朝、2人は森に入った。
人のあまり入らないそこは、野生動物が繁殖していた。
今も数匹の獣を追い払ったところだった。
「リックが騎士でよかった」
ミリエールが胸を撫で下ろす。
「私1人ならとっくに食べられてました」
それは謙遜ではなく事実。
森の奥へ奥へと進む。
途中、ミリエールは不思議な感覚になった。
知らないのに知っている。導かれている…そんな感覚。
それを頼りにしばらく行くと、大きな湖に出た。
その中央には浮島があり、洞窟があるのが見える。
「あそこか?」
辺りを警戒しながらパトリック。
湖の辺りまで、ミリエールがくると、まるで浮島への道を作るように、湖が凍りついた。
ーーー間違いない。呼んでる。
確信を持ってすすむ。
中に入ってみれば、一面水晶で覆われ、蒼く輝いていた。
「すごいな…」
パトリックが声を漏らす。
「綺麗…」
ミリエールも感動しながら進む。
誰かに見つかっていれば掘り尽くされていてもおかしくない。だが事実そこにあった。
奥へ奥へと迷うことなく進む。
「あら、ほんとに会いにきてくれたのね?」
洞窟の最深部、洞窟湖の中で彼女はそう言って笑った。
透き通るような肌に、水晶色の髪、顔の造形はミリエールによく似ている。
「フェリシア?」
「ええ」
ミリエールに呼ばれて彼女は頷いた。
「精霊…」
ポツリとパトリック。
「正解、そしてケムダーの始祖よ?」
そしてクスクスと笑う。
「……始祖…」
パトリックが繰り返すように呟き、ミリエールとフェリシアを見比べた。
どうやらミリエールの推理は当たっていたようだ。
「ご先祖様なら、なんで呪いをかけたの?」
「呪い?」
尋ねるミリエールにフェリシアは首を傾げる。「成人までに…」とミリエールが説明すると、彼女は「呪いとは失礼ね」と腕を組み、むくれた。
「私は貴女たちに恋愛の自由をあげたかっただけよ」
ーーーやっぱりな…
とパトリックは心の中でつぶやいた。
ミリエールが言っていた。『呪いのおかげで好きな人と結ばれることができる』と。
それは意図的だったということだ。
「ならばなぜ、期限をつけた?死という重い罰をつけた?」
パトリックに問われ、フェリシアは困った。
「あれはね?ノリと勢い」
話はシリウスとフェリシアが結婚したところまで遡る。
精霊の加護を受け、家業は絶好調。
さらには2人の間に精霊の血を継いだ娘が産まれた。
その時、商売が上向き、調子に乗った義父母が言ったのだ。
女が生まれたなら、使える。
まだまだ我が家は上に行ける…と。
シリウスは賛成も反対もしなかった。
それが自由を愛する精霊であるフェリシアの怒りに火をつけた。
「私の子供を政争の道具になんかさせない!」
《精霊の血を継ぐこの子やその子孫たちには幸運が宿るでしょう!でも、娘が産まれた時、大人になる前に望んだ人と添い遂げられないなら、そんな家、滅んでしまえばいいわ!》
………
「え」
ミリエールは固まった。
おそらくパトリックも固まっている。
「あはははっ!」
フェリシアは笑う。
「だーかーら!私のおかげであんたたちは結ばれたのよ、感謝なさい」
そして胸を張る。
確かにその通り。その通りではあるが
「だからって、皆殺しはないでしょ!皆殺しは!」
ミリエールはーーいや、その魂は知っている。本当にそれが実行されると。
その結果、王都は襲われ、パトリックも命を落とすと。
「だって、有言実行しなきゃ」
「やりすぎだって言ってるの!」
ミリエールに強く言われ、もうっ、とフェリシアは口を尖らせた。
「でもさ、ペナルティがなかったら、いつかまた利用されそうで…」
それはそうだ。
それが当たり前なのだから。
だが、親として、始祖として彼女は許せない。
「取り消せないのか?」
パトリックが尋ねた。
「利用させないのなら…」
いじけたままにフェリシア。
「ならば書き換えてくれないか」
『本人に望まぬ結婚を強要した時のみ』に
「なるほど」とフェリシアは手を叩いた。
「今のご時世、結婚だけが幸せじゃないものね」
パトリックは頷いた。
皆殺しになるリスクは変わらない。だが、タイムリミットが消えたことは大きな前進だ。
「それに…少なくとも俺は約束する。ミリーが俺を見つけだし選んでくれたように、俺たちの子供にも選ばせてやりたい」
その言葉にミリエールの顔は赤く染まり、フェリシアの唇は嬉しそうに弧を描いた。
「わかったわ、それで行きましょう」
ただし、と彼女は付け加える。
「子供が生まれたら、私に見せに来なさい」
「はい?」
ミリエールは思わず間の抜けた声を出した。
「だって寂しいじゃない。今までは覗き見してたけど、一度子孫に会っちゃったらもう、ね」
くねくねもじもじしながらフェリシア。
「やっぱり私の子供の血を継ぐ子だもの、可愛くて」
だから今度は子供を抱きたいと彼女は言う。
「お約束します」
さらりとパトリック。
「……っ?!」
子供ができること前提の話にミリエールは真っ赤になって声が出なかった。
「ところで…」
さらにパトリック。
「ケムダーの加護はどうなる?」
富と幸運。悪魔との契約として伝わっている。
契約内容が変われば、こちらも変わるのか…無くなっても構わないが…と彼は説明した。
「ああ、あれ?まだ気づいてなかったの?」
人間って鈍いのね…とフェリシアは笑う。
「あれは私の血。精霊の力。精霊が生きやすいように幸運を約束してるだけ」
でも…と彼女は続ける。
「もうだいぶ人の血が混ざってるでしょ?じきに無くなるわ」
「でも、婿のはずのお父様も幸運が…」
ミリエールが尋ねる。
「愛する人にも幸せであって欲しいって願うからじゃないかしら」
裏を返せば愛さなくなったら加護も消えると言うわけだ。
過去に浮気して出て行った分家の人間がいたが、確かにその後どうなったかは聞いていない。
「無くなるんですか…」
ほっとしたような、寂しいような…ミリエールは複雑な気持ちでつぶやいた。
「まだ十数代は残るかもしれないけどね」
「長っ!?」
ふふふとイタズラが成功したようにフェリシアは笑った。
「変更したことは私たちだけの秘密よ?」
帰り際のフェリシアの言葉にミリエールとパトリックは頷く。
変わったことを周知してしまえば、また政略結婚に利用されかねない。
変わったことは、ここに来た時、直接フェリシアから聞けばいい。
こうして、悪魔との契約は精霊との約束に変わった。
呪い編終わりました!
次から最終章の予定です




