さいなむ彩(IRODORI)
静かなる十字架の誤解。
光を堕としたまま目覚めた虹…
イズヤは 空の景色の温度を確認するようにゆっくりと布団から這い出ていく
「ああ、黒いな この空……」
いつもきれいだ 空は。それでも 表現として ダークな美を痛ませている。
それが切ないし温かい。
「炎なんて一瞬で僕たちを焼くんだろうな…」
つまらない想像をしてみる。
学校に行くまでに通る駅前の高架下。
自分の移動手段は限られている
18に満たない自分は きっと 車を所有する自由が無い。
あるシナリオが欠けた今を生きるだけ。
その選択肢から 除外された 選択肢を 選び選ばれて
今が虚空に浮かんでいる。 そんな偶然と必然のあいのこが 私たち 命 なのだろう…
「イズヤ 寝てないの?」
かわいい顔でホソミが聞く。まるで甘えたように…。
エロティックな後輩を優しい光でおかすように唇を光らせてイズヤはこたえた。
「愛してる…」
ホソミがきょとんとイズヤのほうを見る。
「わるいものでもたべたのかな…?」
ふふ と笑ったイズヤはそっとホソミを抱きしめた……
※
「ばーーーーーたれーーー!!」
「は?なんですか?」
「なんであたしのクッキー安堵クリームが担保されてないんだよ!冷蔵庫に!」
「部室に冷蔵庫があるだけでも奇跡の十万乗でしょうが!わがまま言うな オタク女子」
「おっと 禁句の最上級で来たか…小僧…」
「……ちっ」
認めたくないが自分の落ち度を認識したイズヤは少しとまどう。人を揶揄するのはリスクがある。自分の年齢ならわきまえるべきだった…。
「トラウマティックレコードというレコード会社があったら一枚欲しいぐらいだな」
わけのわからんことを言うイリヤ。
「ドラマティックな響きですね…」 アンティークショップのオシャレなノリに
修正しようとするイズヤ。せめてもの善意だが
かみ合わない二人…。
「ちゃちなフレーズは君の専売特許かね」
「いかようにでも言ってください…」
※
落ち着いてチキンラーメンを食べだしたイリヤを
不思議な動物を観察する目で いとあわれむように眺めるイズヤ。
「最近流行ってるゲームがあるとか…」
麺をすすりながら のたまうイリヤ。
「はやりすたりを気にするたちですか…」
「ふん あたしの太刀筋は君には読めないさ」
不敵に笑うイリヤは口にナルトを貼り付けている。
その芸術的なボケは世界中を震撼させることだろう…。
「ひとのこころのいたみをあてるげーむ なのだそうだ…」
「それはそれは 至極ご立派な感性ですね」
イズヤは続けた。言の葉、を。
「マズローでも引っ張り出しますか…」
「君はオーウェンとか 言ってたろう マイナーな と言ったら悪いが」
「ええ、そもそも知らないでしょう…」
「うん」
「ぼくたちは いずれに所属し 果たしてどこに滞在しているんでしょうね」
「そりゃ銀河系だろう」
「違いますよ 我々の村の中の綺麗な檻の中だ…」
「民俗学へのノスタルジアかね。郷愁に教習されてる」
「強襲ですけどね…」
イズヤのユーモアに苦笑いするイリヤ。
「漢字は面白いね…」
「通じてないけど それもいいですね」
「ひとつ… ダイスでも転がしてみますか…」
「どの床でも銀河系の白い洗濯機の中だ。金に洗われ…銃弾に処する…」
「あなたのバレットはきっと パレットなんですね…」
「たまにはロマンティックなことも言うんだね…」
イリヤは後輩の瞳をなまめかしくのぞき込み 額にそっと指をあてる。
イズヤの髪の毛をかきわけて いとしそうに彼の鼻筋にキスをした。
「……」 少しフリーズするイズヤ。
「こんなこともあるさ 生きてれば」
ほくそ笑む先輩女子は 宵闇に消えそうだった。銀河の麗しい白い闇に 抱擁され
姿を霧のように 消し去られる いつの日か……。
五階建ての十階層。




