疑う宴の儚い慕情
ロックではないジャズ
Majorityが「理」の定理。
イザヤはコタツ布団でごろごろしている。
まるで大型の猫のようだった
「ほらほら ごろごろしてたら 牛になりますよ…」
「ならないと思う…うっしっしっとか 言わないし」
「じゃあ ぶひって言ってくださいよ」
「うわ ホソミはいつからエスの女王様(というか王子様♡)になったのさ…」
増えていく犯人… ADD CIP
「容疑者が増えたらしいんです」
「ああ、それはなによりだ」
「どこがですか」
「捕まる速度が速くなれば迷惑の範囲が広がるのを止められる」
「…増えたら捕まりやすいんですか」
「500人の村で100人が犯人ならだれか一人は捕まるだろ」
「…絶対、圧力で捜査が始まらない気がする……」
ホソミのもっともな心配を聞いてイズヤは微笑む。
「つまり 100人で赤信号を渡れば……全員は逮捕できないってことですか」
ホソミが怪訝な顔を浮かべる
「そうだよ 一万人 戦争に兵士が参加したら 基本的には
戦争という行為の機能を中断しにくい そんな気がするし…」
イズヤはチープなカラーのクリアなアクリルキーホルダーを
指先でもてあそんでいる。
「犯人が増えたのが気になるかい いいじゃないか かわりに こちらで
だれを捕まえておきたいか 選べば…」
「はあ…」ホソミが変な声を出す。
「犯人を指名するのさ。たしかに犯人なのだから。」
「いい声出るじゃないか…」 床に視線を落としていたイズヤはそっと開いた眼をホソミの唇へと向けた……。
「というわけで」
訪れたのはテニス部の部室だった。
「あなたがたの誰かが コーヒーゼリーを冷蔵庫から移動した。おそらくは 考えたくはないが 盗み食いをした… ということですよね。」
怜悧な瞳でイズヤは 三人をねめつける…。
「ちょ とげがあるわね ゼリーなんて買えばいい、勝手に食べるわけ無いじゃない」
二年生の野々宮が云う。
「ふ おもしろいわね わたしはたべてないわよ。みなさい このふくよかなボディを。
これ以上 魅力的になったら 困っちゃう…」
二年生の千光寺が続ける。
「あ 別にあたしが食べたでいいですう。めんどいの嫌なので…」
3年生の神谷が云う。
「他の部員たちの証言からわかったことは
千光寺さんは 冷蔵庫を開き なにかを取り出した」
「野々宮さんはテーブルに置いてあった、デザートと思われるカップを膝に置いて眺めていた」
「神谷さんはスプーンで デザートらしき黒い透明な物質を口にたおやかに お運びになった…」
三人は黙っている。
イズヤは続ける。
「つまり 食ったのは神谷さん、あんただ」
「だから それでいいと言ってるじゃん…」ため息をつく神谷。
「問題は そのコーヒーゼリーが 新品じゃなかったことです」
イズヤはどうでもよさそうに空を天井を見つめた
「…何が言いたいのかなあ…おぼっちゃん♬」
神谷は背が低くて メリハリの利いた美しいボディをくねらせて
馬鹿な後輩のほうを見ていた。
「未開封が新品…ですから 新品じゃないってことは開封してあった」
「そして 勝手に食べたことが取りざたされる以上 そのゼリーはあなたたちの所有物では無かった」
「つまり はしょりますと 神谷さんは馬鹿だから 一年生をかばって
変なもんの のっかったゼリーを胃の中に処理した… そんなことろです」
黙っている神谷。 神谷の目をそらしながら見ているイズヤ。
「それが悪意の物質なのか 快楽の物質なのか その所有している後輩の意図したものか
そうでない物かは 部外者の僕には てんでわかりません……」
「観察者は有限にして無限にいた。犯人は神谷さん あなた一人だ」
イズヤはもう話すことも無いような表情で席を立つ…。
帰り際に神谷の耳元で その愛らしい耳に息を吹きかけるように 痛みをつぶやく。
「ぼくはあなたが嫌いですよ。 あなた以外がモブに見える…」
外は 厭なハレ模様。
虹より暗いオレンジ。そういえば 虹を表現するときに 和の色彩で七色を名付けない。カウントしない…。日本の絵の具の合成した虹を脳が認識しない…
イズヤは白い建物の前のベンチに座り、スマートフォンを開き、太っているグラビアアイドルの壁紙を見て 啼きそうな顔をして笑っていた。
歩み寄ってきた 背の低い細身の女性は神谷だった。
「ん いい男は趣味が悪い。その例に漏れないな 君も。」
「げ 見ましたか スマホ」
「見てない。見つめるまなざしが素敵に邪悪だったから。ろくでもないもん 壁紙にしてるんだろうなって。」
イズヤは寂しそうに喜ぶ
「そうですよ。 もうすぐ 彼が来る…」
「つきあってるのは 男性なんだ…」
「はい 愛してるだけです。たいしたことじゃない」
「ふーん うらやましいけど どうでもいいわ」
笑顔の神谷は空を眺めた。
もうそろそろ 空から罪が霧散して 日常の生活感をこの足元から脳まで
おせっかいに 焚き上げてくる…。
「まあ ゼリー食って捕まることはないですよ。というか ゼリーなんてあったんですかね、そもそも」
背の低い細身の神谷は 首を傾げ 上体をかがめる。
「ライター 持ってないよね…」
「あのねえ…おれ 高校生だから…」
呆れながらも優しくわらいかけるイズヤ。
何も答えずに もっと優しい瞳で イズヤを見た神谷の目には黒い憎しみしかない。
それがなによりも 彼女の無罪を語る。
「イズヤ君に出会えてよかった。」
「それはそれは なによりです…。ぼくもかわいい女性に出会えてよかった」
イズヤの言葉には嘘が無い。そして 意味がひとつもない。
聖書だろうとお経だろうと 我々を支配しているのではない
我々のまなざしにそれがうつるわけじゃない。
最初から 刻まれた 記号が この世界を映しているに過ぎない。
生きとし生けるものは加害者でも被害者でもない。
生きている幻想 痛みを持っている幻想
ただの文字列。0と1
行きかう人も あなたをきずつける人も。ただの1と0
それでも ホソミの腕をたぐりよせて 手の甲に口づけをしたい
それが 憎しみよりも 重い手錠だから…。
青い太陽 鎮まらない梦




