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白い宵闇の路地  作者: まこた


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6/23

いたずらな白い花びらの薔薇

ひとごとより他人事より君のこと

水槽で死に絶えた君の長い髪

とても美しい

虹色の泡に染まった透明ないたみ

骨の中から落下する腐りおちた花束を

流麗ルレイに表現して

満ち足りた汚空オゾラ


整然としたデスクの上でイズヤは

鬼灯のレプリカを思い出してはスケッチブックに

落としていた…


「ジャーナリングとも言うしな…」

自分の気持ちを吐き出す手段…


「君は何を見てる」

机の上の写真立ての中のホソミを見つめるイズヤ。

文芸部の部室では

貧乏ゆすりでピタゴラスイッチを起こせそうな

畦道の花嫁とでも表現できそうな麗しい先輩 イリヤがいた。


「10秒遅いぜ 少年…」

イズヤのほうを けだるそうに振り向いて

不敵にほほ笑むイリヤ。

肉付きがいいのに細腕な少女は

滑空をその青渕のメガネで見捉えている…


遠征した日

イリヤは述べた

「文芸部で遠征など 馬鹿だと思っているだろう」

イズヤは返す

「あなたが馬鹿じゃないと思ったことは無い」

イリヤは唇をかんだ

「ほーーー、あたしにそのような口を利くか 少年…」

ゆるゆるで歪んだ口元は微笑みをかたどっているものの

うっすらとレモンの香りのしそうな光の粒が目尻に放たれていた。

その様子を見て ぞくっとしてしまうイズヤは

「人生は下らない…」と思った

そう うつくしいものは 愛せない…


「君はどこにいるの」

イリヤはイズヤのシャツの襟をつかみ

眼をうっすらと細めて 口元を優しくつきだして

イズヤの首元に虹色の吐息を吹きかけた

「いつでも そばにいます…」

イズヤは何も見ない瞳でイリヤのほうを見たが

心には東北の海峡でも見つめるような寂寞の思いがあった。



キャンプには向かない退廃的な色彩の河原で

石をつかみとり口づけをして

波切をするイリヤ。


「もう一度葬列を……」

イリヤの静かに放つ音がイズヤの鼓膜に響き

脳髄にこびりつく…。

しゃがんでいたイリヤは膝を伸びた状態へと昇華させて

イズヤに近づき 自分のメガネを外した。

青い淵のメタルフレーム。それをイズヤにかけるイリヤ。

「どんな気分?」

イズヤは誰にも見られている世界で誰にも見えない河原で

イリヤに口づけをした…

「ふわっ」

布団から起き上がるイズヤ。

目覚まし時計を手に取る。黒い文字盤に蛍光のナンバーを点滅させるデジタルな

時の羅針盤。

新聞の内容は脳みその片隅にクリップボード的な場所にこびりついていて…



水死した若い女性のお話…

きれいな ルミナスな物語…

炎を転じる白い展示室…

「容疑者は三名」

白い服の男

黒い服の女

近所の女子高校生…



泣き叫ぶ文字列をパソコンのキーボードに叩きうったイズヤ…。

「ああ、 つかまったのは女子高生か…」

法律も知らない。実は化学すら 知らない。


イズヤの文脈は彼にとってはシンプルで

黒幕および犯人は白い服の男性…

黒い服の女性に惚れているが

黒い服の女性が女子高校生を愛しているから

それに嫉妬した。


いたってシンプルだから理屈は必要ない

ブラッシュアップするとは結論をいじらない

マイナーチェンジで…

妄言をはなから肯定するイズヤは

ブラッシュアップの余地が無いな…と

キーボードの上で指を遊ばせた。



つまり助からなかったのだ

女子高生の生命活動は。つまりは心臓の鼓動の継続が

かなわなかった。



ああ 生きよう…

バラの花びらが 青い空から静かに落ちてくる

それに合掌して 彩を殺してみる…


ちなみに被害者の若い女性は

若いと言っても38歳で 女子高校生の母親だった…


愛する女性が片思い、あるいは両想いになりえる対象の女性

それが 冤罪で捕まった女子高校生


イズヤが犯人だと推定する白い服の男性は

その女子高校生にありったけの嫌がらせのつもりで

彼女の母親をたおやかに殺害し

その罪を娘に与えた……


筋書き自体はこうだが

これが事実といかほどの近似性なのか

イズヤには測れない…


「なにも出すものが無くて…」

黒い服の女性はしずかにつかれた顔で

まつ毛の先を地面に向けて 口元を軽く歪ませる。斜め上に歪ませた口は

笑顔と言う記号を彩っているが その不自然さはイズヤにとっては

間違った福音だった。

「いいんです。やじ馬根性ですから…」


「じゃ イズヤさん 君の言いたいことは つまり

和也さんが 恵理子ちゃんを 陥れたんじゃないかって…言いたいんですね」


「なんていうか そう そう」

イズヤはルービックキューブを手に取る。誰の物かは知らない。


「でも…恵理子ちゃんは もういまは刑務所にはいなくて…」

「でも 白じゃないでしょ… 警察は不憫な女性を保留しているだけ…」



あなたが和也さんにお願いした…」

「そんな気がするんです」

台所で皿を拭きながら聞いている黒い服の女性は 静かに悲しそうに聞いていた。微笑んでいる。

「なぜ ですか?」

「うがった言い方をさせてもらいます… 当初あなたは単に恵理子さんを性的に愛していて殺す動機は一切なかった」

「ただ困ったことにそれは真実の愛だった。あなたにとって。」「そして」


「恵理子さんは和也さんを愛していると知った あなたと恵理子さんが近しく

あなたと和也さんが近しいのだから 恵理子さんと和也さんが接触する機会はあった。そして…」


イズヤはルービックキューブをテーブルにそっと放つ…。

「恵理子さんは和也さんを好んでしまった」

笑顔のイズヤは 眉は八の字になっていて これは困った顔と同じである。


「あとはそのまんまです」

「あなたは恵理子さんを殺すことを決めた。けど体でなく…心を殺すことにした…」

「と同時に 恵理子さんを篭絡した これは濡れ衣ですが… 和也さんを

あなたは同時に痛めつけたいと思った」


沙羅を吹き終わった黒い服の女性は タバコの箱に手を取る。

「とっても いいお話だけど あたしは そんなに かしこくないの…

眠りたければ お酒を飲んで寝るわ…

つまり そんなに気が長くない…」

「いえ 心の指数が高いなら… あとは 頭のいい和也さんを操るだけでおしまいなんです。あなたがするべきタスクは…」

「君は長生きしないわね…」

とてもさびしそうな笑顔を向ける黒い服の女…。

「お茶 ごちそうさまでした…」

アパートを後にしたイズヤ。

すべて イズヤのでたらめの想像である

それを彼女は聞いてくれた それだけであった。

イズヤは厭世的なのかばかなのかときに無茶をする。

失礼な推論を 傷ついている女性にぶつけて

自己満足する。

これが コミュニケーションなのだと…。


「うわあ またミスった」

イリヤが嘆息する。

「シャープペンの芯を変えようとしたら折れた!」

「……芯が悪いとか言わないでくださいよ…」

「…言わないけども…言いたい…」

「だめじゃん…」


タバコを吸わないイズヤは塩飴を口に放り込んで部室の扉を

きっと内側から外側に続く経路として開いた。


挿絵(By みてみん)



恋愛する連想の堕落した鎖

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