同じゼッケン ☩
白い風が開いた窓から流れていた
同じゼッケン…
同じフィルムの中 あたしだけが見た十字架
君を縛る翼を 規則正しい鎖で矯正する所存だ
「あ、タロットが落ちとる」
イズヤの教室の床に落ちた一枚のカードを拾ったホソミが言う。
「変わったもんが落ちてるね」
イズヤが言う
「そうかな。君の友達がタロットでもするんじゃないの」
「そうだろうね。友達かは知らないけどね。」
「クラスメイトでしょうが」
「だからこそだろ。クラス全員と友達じゃないじゃろ、ホソミだって」
「そだね」
「みんな 時間がない…それがいいとも 言える」
「恋をしなくて済むだろ」
イズヤはぶっきらぼうに言う
「恋はしたほうがいいでしょ…」
ホソミはテキトーに言う
イズヤは言う
「いや…仏頂面で一人でマーマレードを食パンに塗って食べるのも悪くない」
「……君らしいけど、腹立つな。…女の子が置いてけぼり…!…」
「はは…」
Δ
お題を出されないとひねくれれない 不器用なイズヤ。
そんなことは知っている以前にどうでもいいホソミ。
脳髄を洗う、無様に洗練された音の轟音…
若い人なら たどり着くとも限らない 不思議な組み合わせの音楽習慣の個体の身がたどり着く領域だが
実のところなにひとつ 変哲のない音楽すら無限の個性
すべての個体が 異常な個性…
「このスマホから流れる振動を地底のもぐらがきいてたら、なんてさ」
ホソミが言う
「いや。普通の想像だと思うぜ。モグラさんぐらいいるじゃろ、日本にも」
「うん。言い方が そこらへんのOKAZAKIみたいで気になるけどね」
「いや、埼玉県の伝統芸能みたいに言うなよ…どっちにもたいしても微妙に失礼かも知らんだろ」
「うん」
かすれるように口笛を吹いたのはイズヤ
ひゅい… 軽い音がする。
「へえ。不思議な口笛だね」
「うん、あまり吹けないが…」
麒麟な紅茶のペットボトルを手に持ったイズヤは
カーテンの近くで机の上に腰かけていた。
「ほっぺたにちゅうしてあげよっか」
ホソミが言う。美少年が言う。
「やめてくれ。」
「ああ、泣いたりしないでね」
「…いいよ ほっぺたにしてくれ…」
「ん…わかった…」
静に立ち上がったホソミは
イズヤの前まで来ると優しくほっぺたにキスをする。
「…どうかな。楽しい…?」
「うん…最高に…楽しいわ」
細めた瞳、ブルーグレーの景色の教室内部
誰かがこの景色をフィルムに収めてくれたらいいのに…
イズヤは、そんなことを 考えた
モテるタイプの男子、ホソミはそれに該当する
なぜなら彼はいっしょにいる人間がぼけるように できる。
たぐいまれな才能
ゆえに そういう取り巻きから感謝される
おかげで生きやすくなりました、と。
☩
「まあ、おおげさにぼけたら 目を付けられるし、
ゆったりBPMが 今の若人の常識かな」
イズヤが言う。
「なんのことかわからないけど。あなたも若人じゃん」
「いや どっかの誰かがDKに向かってジジイっていうからさ…」
「はは…根に持たないでよ…」
石の薔薇、そんなもの噛んでみる 想いの記憶、重い甘い夢…
静かな鳥のさえずりが
そらから 聞こえたよ
ああ…
君に届けられなかった思いをどっかの誰かが今日も胸のポケットにしまってくれているのだね…
そっとペンケースに視線を落とす
優しい日本語教師はきっと 海外から来た苦労人の職人の若い女性にもモテるだろう…
カーテンはきっと布




