誰かが届けた宵闇
白い嘘
ただしエロティックだけど女装ボーイズラブな
「ああ、アイスはいいな。熱くなったら車も冷却しないと」
「不健康の極みですね」
ホソミがイズヤに呆れて言う
「時短ってやつだよ。すぐ体の芯から冷えるだろ」
「昔の人は怪談で 涼を得ていたのでは」
「そうだな…」
「ひとつなにか きかせてください」 かわいいホソミがかわいい眼をしてイズヤを見つめる。
「そうだな…
じゃ 即興ででっちあげよう…
昔 手のない銅像が 図書館にあった」
Δ
「手がない…」
イズヤは首をひねる。
「あ、お姉さん、この彫刻ってなんで手首が無いんですか こわれたのかな」
学芸員はこたえた
「それは たぶん元からそうなのですね」
イズヤはけげんな顔をした
「風変わりな こだわり ですね」
学芸員はこたえる
「まあ 芸術ですから…」
そんなもんか、と 納得してみたイズヤ
「手のない銅像…」
イズヤはつぶやく。
手が必要なのは、手がかかるとき。
赤子を世話するには手が必要で
手仕事をするときは手が必要である
ならば 手を片一方うしなえば できることは
かつて 両手が使えたときにしていた行為をなぞろうとする
意思とそれがかなわぬ現実である
そしてトータルでは新しいものが生まれる
ある数字が連想させる
926は朽ちる
026は落ちる
87は 花
たいした想像力も無いまま 与えられた連想を生きる
おそらくは
ホラーの中にも 真実があり
和風だったはずが 冷たい床に横たわる 寂しい心理にたどり着いたり。
そんなこともあると思う
手がない、それは片手が無い…
10進数を生きた個体が急に5進数の支配に揺蕩う 運命のいたずら…。
規格が規格を淘汰する
それは悪意などでもない
しかたない 時間のたゆたい
そのなかで最後は呼吸が止まっている
呼吸が止まってない今
ただ 運の良さを感じる。
痛感する、だから 痛いのか。
「ああ 淘汰されてない… なんて必然的な 偶然だろうΔ」
かぶきもの…着物を着崩していた仕事のない武士だろうか…
いばしょのない 哀しい乱暴者たちのことかと 夢想してみる
裕福なのに蔑視される表現者、というのはある。
どの国でも。それはアーティストなのかあるいは工業の職人なのか…
モデルさんでも ケース的に、あるかもしれない
よくもわるくも触れられない
茶道も文楽も歌舞伎も。
この世界を支配する豊かな知恵が横たわっていても
自分たちは
もっと ネオンのきいた さびしい悲しみを手掛かりに生きる
そういう 話だった。
血みどろの妖怪も
美しい悲しい静かな人形のような女性も
「 ああ、 つたえたいこと だいじなもの なんだっけ」
という言の葉を 吐くときは おなじ かおをしている。
Δ
「一般論として俺はきみがすきだ」
「すげーミクロな一般論…いや 一般論ちゃうでしょ」
ホソミはイズヤに突っ込む
美女と野獣
美しい中学生の男子と
不器用な文系の変な男子高校生…
「どうにも交錯するな…」「本当は ぼくたちが騒いでる事柄など
ワイズなひとたちにとっては無価値なのに…ぼくたちは 高い知性に怯えて暮らしている。太陽に近づいたイカロスと自分を重ね合わせて…」
「なにをいってる、ばかもんが。先輩の肩を揉め、美少女先輩の」
「…せっかく、ひたっているのに邪魔しないでください。じゃじゃうま先輩」
「ナルシストがきどるなよ。ナルシストはもっと働け。バランス感覚があってこそナルシスト冥利に尽きるぞ」
「…えらい愉快なナルシスト像ですね…」
動的平衡って言ったって
どの細胞が別離して 境界を越えて
うつりかわったのだろう
規格に認識され生じるとき
それは 1秒に満たないのだろうか
ホソミがペンを回す
ある室内
イズヤはそれをみる
「器用だな」
「あなたが不器用だから…あたしが合ってるわ。」
「ん…」
何も言わずに年下の男の肩を後ろから抱き、
まるで知前科のようによそおいキスをしたイズヤは
その唇の感触ではなく、そこにいてくれる他者を、愛していた。
博愛、お互いその程度…でも寂しさに毎秒死んでいた過去と比較すれば
劇的に奇跡とも 言えた…
優しく舞い上がる




