その恋 なきにしもあらず ☩
たてかけた空に足りない力量
この世界がコンピュータに支配される
なんて 普通だ
効率がいいんだから
どんどんパソコンが増えて人件費をカットしよう
経営者は大喜びだ
そしてお客が人間じゃなくなった。
誰一人いない地球で経営者はコンピュータと 「いもしない客」がよろこぶアイデアを
出しあって 子供のように はしゃいでいる。
薔薇という文字が持っている PC的な文脈を僕らは知らずに京極夏彦を読んでいる
文字コードだかなんだかわからないが
こんな おおぎょうな漢字も記号として 情報として処理されている。
それにいちいち感慨を覚えるのが ああ すばらしく人間だ…
立体がある
言葉がある
その二つを結び付けるにはどうしたらいいのか
イズヤは 精神論が気になる
「なにを信じていいのやら」
「それなら 朝日新聞を信じれば 戦争とかにくわしくなるぞ」
イリヤはメガネを光らせて言う
「スマドリですか」
「それはアサヒ飲料だな…」
「つまり 下手な右翼より共産党のほうが軍事知識が豊富ってことですか」
「所属している団体の名前は別に個人の全てじゃないだろうからね…」
イリヤは指をとおせば レンズが入ってるので通り抜けないメガネを光らせる。
「まあ ぼくはべつになにも望んでないですよ…」
「でも強欲かもね…」
「はあ… 別にかわいい女子がいてもなにもしないし 無欲ですが…」
イリヤは目を細める。
「たぶん、それ あたしのことじゃないんだよね…」
イズヤは困惑する
「は…… 一般論ですから。先輩がかわいいかとかはどうでもいいですね」
イリヤは溜息を吐く
「君は変と言うか なんというか 君といると疲れるよ…」
部室には 誇りのにおいのする優しい光が充満している。
イリヤは みすぼらしいけど安くは無さそうな備品の机と親和性が高い…。
なにもかんじないけど 好きかもしれない、だけど
それは なにを好きなのだろう、自分は…。
イズヤはおのれの気持ちすらも 他人事、フラットな情報だった。そういう安心設計…。
「先輩、あの…」
きれいなものは傷つけたくない。それは保身か。イリヤをきれいだとおもった、
自分のあるいは純粋な心に自己陶酔し、それを守りたいだけではないのか
ためらうイズヤ。時空に揺蕩う少女像はことのはを口から紡いでみた。
「なんだなんだなんだなんだ…」
「いえ なんだが 多いですね」
※
「浮き輪って十回言ってみてくださいな…」
ハートマークが瞳に浮かびそうなホソミが
イリヤのネクタイを締める。心の中で…。
「うきわうきわうきわうきわ うきわ うきわ うきわ うきわ うきわ…」
「あなたがしてるのは 浮き輪ですか 」
「…は?」
ホソミは世界で百八番目には美しそうな細い足を輝かせている。
そんなもの視界に入れたくない。目に毒どころか目に神経毒な猛毒だ。
「ぼくは そんなに気が長くないですう…」
「…いや かんちがいしてるぞ ホソミ…」
ホソミはSTREETなのかフェミニンなのかわからない服装をまとう薄幸の美少年。
「あのね…」
イズヤの手を握るホソミ。
「好きならね たとえばね ぎゅっとしてね 」
イズヤは 暗闇の光るアンテナを心に立ててみた
浅黒い光の部屋で足元に体重を乗せて ホソミを抱きしめて…キスをする。
「ん……」
近すぎてホソミの顔はうかがえないけど 彼の声が艶やかに耳に届いた。
眼には見えない時計が 人生を刻むように 世界をしずかにここに終わらせた…。
クリップボードに秘めた色…
うたかたの間隙




