かなぐったデザイア
白いテンプテーション
イリヤは白くない雪を踏みしめて マンホールに黒い透明な炎を灯している
「つらい … こたえをみるのは」
どこからということなく 響く電車の軋む進行音に 体力を与えてしまう弱い個体…
※
「がたん、ごとん」
かわいいことのはをこの空間にしのばせたホソミ。
そのすぼめたくちを眺める自分は天国から退けられたおっこちた魂…
細い鎖でがんじがらめで…その鎖は白色でコーティングされていた…
イズヤは 愛している気がする個体の指先を見て、
「ああ 爪が伸びているね」
と どうでもいい言葉を伝えた
「ほんとだ ありがと…」
イズヤを見上げたホソミの眼は 痛いほどキレイで
ここに地獄の全てを奉じてもお釣りがきそう
「ねえ、今度一緒に釣りに連れっててよ」
ホソミはイズヤに言う…
「…したらば 県北かな…」
「北にはなにがあるの?」
「そりゃ 南にはないものだろ」
※
学校の敷地では 生徒がケイドロをして遊んでる ありふれた高校の風景
「先輩 駄菓子を食べに生きましょうよ」
「だっふんだ ですよ」
なんか最近とみに聞きなれない言葉を 述べる同級生が増えた
なんの宗教だろう…
つかめたと思った言葉が 指先からはすりぬける
よくあることで
すりぬけたことのはは地面に落ちてはじけて…あるいはこの世界を満たしていったのだろうか……
「ぼくが共感できる世界も幻想なんですかね」
ホソミが電話ボックスに背中を預けてスマホを片手に持ったまま
顎を引いて言葉を発音している。
イズヤとイリヤが通う高校の近所にはいまだ撤去されない電話ボックスがあり
そこに べつの中学の美少年がネストされている…
変な編集がこの世の常のようで……
「痛みのありかに関心があるのに…」
またよくわからないことをひとりごちたホソミ。
彼のパターンは読めない…。
添える言葉を与えてから考えた
「痛覚があるだろ。脳が痛いって思ったら痛いんだよ」
「それなら 腕が燃えても 脳が反応しなかったら痛くないんですかあ?」
「知らん…俺は勉強できるわけじゃねーし……」
「失ったことも気づかないなんて…」
さびしそうな男の人
「所有してなかったんだろ…」
君が堕とした音を教えて
せめて僕だけには…
「それならば ここに置いていきますね…」
いそいそとしゃがみ何かを置く動作におどけた姫男子…
「は…なにを」
「先輩の下心です。そこには僕の真心があるんでしょ」
にっこり笑った男の子を俺は二秒ほどは覚えていると思う…
腰痛ほど明確な勘違いを彼に擦り付けたら はたして 楽になりますかね…
だれにというわけでもなく実況するイズヤ…
※
部室に向かう前に花壇に立ち寄る。経路だから…
そこに女子の背中を探してみて
あるのは温度と空気だけだと知覚した。
透明なピアノは電子音なのに心に刻まれ 痛くて甘い…
「そんなところに突っ立ってたら 邪魔だよ」
メガネをかけた着物風の服装のイリヤがイズヤに声をかけた。
「あ、ごめんなさい」
「もう いいわ」
関西なまりになった袴を思わせるスカートの先輩…。
「君のいいところ…
自覚してよ べつに目の前のあたし 知覚しなくていいから…!」
「……はぁ?」
「ずっとあたしのこと 見てられるでしょ」
メガネの奥の瞳はイズヤを捉えて…
「そんなやついないよ 君以外…」
※
図書館で 天主教の本を興味なさげに開いているイズヤ
「ローチャーチ… 教会が深海にでもあるんかな…」
「低すぎだろ」
目の前の男子がつっこむ
「ああ ひとりごとはきかれてるんだな」
「…えっと なんとこたえたらいいのか」
イズヤの友達は困っているようだった
共有されることを意図したひとりごとしか まるでないのか…
この世界は無数のぼっちたちの傷む声で 再録されているのか。
収音している 空気より細かい「有」がいつも 見えて「無い」。
採録する制服たちの こすれる音はやけに冷めてさわやかだ
うずまく心づもりをおいてけぼりか。
「あ、数珠持ってるか」
聞かれたイズヤは
「あるだろ 君の家にも」と適当に言う
「どこに行ったかな」
そんなものである
数珠 JUJU ゆず……
悼む人には向いてない民俗学を静かに 図書館で探す 静かで寂しい少年は
自分一人の世界を味わう…。
内側がマグマ ならば宇宙は 外側なのか
すべてを含む宇宙はどういうパスなのか
外から内へと階層が築かれ しかし 一番内側だと定義される ぼくたちの
肉体の中の ハートの そのなかにすべての宇宙を刻んている、という……
そうか 客観的な内側は地球の中心(それすら地球人のバイアスだが)
なのに
ぼくたちの中心は 地球のどこかにいる自分の心の中、なのか
そんなものは 無いことだけはわかっている。
住所はわかるだろう 文字で区別できる 肉体の居場所ならば……
それを絶対的に刻む勘違いが あるいは 「詩」なのかもしれない
灰になったカーボンの残滓 はいはいと 答える個体
はいつくばる赤子のことか
それとも YES という 連絡手段なのか…
なによりも高いはずの宇宙はなにを自分に通信しているのか
資源が無ければのたうちまわり 途絶える自分は
美とは程遠い 雑魚な有限…
「プールで泳いでくれば」
イズヤの友達はいう
「なんだ やぶからスティックに…」
「…? ああ やぶから棒か… 誰のネタなんだ、それは」
それはトップシークレットだった…
「公共でやってる施設で ヨガとか やってんじゃないの」
と友達が言う
「やけにくわしいな」
「相場が決まっている物事もある」
「なにを訳知り顔に…」と
憎まれ口をたたくイズヤ。
左手でファスナーが閉まってるか確認するイズヤ。トイレに行ったきり
社会の窓が ソーシャルウィンドウが開いたままってことはよくある
羞恥心とはいかほどの作用のものなのか……
「ヨガ…ね」
「いのちは 海から始まったって言うじゃん」
「…生物基礎か?」
「いや 一般論で」
およそ一般論を話す友達とは続くわけないイリヤ。当然 つれも変なことしか言わない…
「小さなコルク片から … あるいは宇宙やIPSまで つながっちまったのかな」
イズヤはぼそぼそと 顎を上げて ぼやいた。
「おれらはエクセルの関数すら四苦八苦なのにな」
笑う連れ。
CELL … 売る… セル画…
シーリングライト… なんだろう きいたことはあるが
シーリングは関数にあるかな…
ホームセンターにあったパキラを思い出すイズヤ…
べつにきれいとはいわないが 品のある静けさ。
工事現場の汗を癒すにはちょうどいいはずだった。
※
プールで泳ぐイズヤはされど県営のプールで浮き輪を持って
ぼーっとしている。
「ほらほら 先輩 泳げないんだから ひとりでいたら 誘拐されますよ」
意味不明の言葉の羅列に 心が融解する…
「されないと思う…サイズもでかいし…」
「ニーズはいろいろですよ」
軽口をたたく 好きな男…
淡い長くない髪の毛をたゆたわせて ひとみをうっすらと輝かせているホソミは
この世界の中ではとびきり 悲しい美だった。それを俺は隠している。
ラッセンよりはチープな感情で
彼の光をみつめたい
それはきっと水中で。
ダゼルな上の空




