第八話 新しい後見人
「バロウズ様、本当に、よろしいのですか」
セドリックの問いに、バロウズは静かに頷いた。
「儂は、討伐ギルド長として、この国の産業を築いてきた自負がある。だが、幼君の心に寄り添うことについては、あまりに不器用すぎた。後見人の座は、セドリック殿にお譲りする」
「私で、務まりますか」
「陛下の笑顔を、儂よりずっと近くで見ていたのは、あなただ。それだけで、儂よりよほど適任でしょうな」
傍で聞いていたトビアスが、少し照れくさそうに口を挟んだ。
「バロウズ様、実を言うと、僕もこれから、加工の仕事を手伝わせてもらえたらと」
「お前が?」
「討伐だけが、この国を支える道じゃないって、ようやく皆さんに言葉で伝えられました。次は、僕自身が、手で示す番かなと」
バロウズは、しばし目を丸くしていたが、やがて口の端を小さく上げた。
「……相変わらず、儂の予想を超えてくる小僧だ」
そう言って、バロウズは、フィン王の前に膝をついた。
「陛下、これまで、陛下のお心を測り違えておりました。心より、お詫び申し上げます」
「バロウズ、モコと仲良くしてくれる?」
「……努力いたします」
もっとも、あの日集まっていた重鎮たちの何人かは、最後まで納得しきらない顔で、その場を後にしていった。国のあり方が、一夜にして丸ごと変わるわけではない。セドリックも、それは重々承知しているようだった。
「まだ、時間がかかると思います。でも、一人ずつでも、向き合っていくつもりです」
その言葉には、覚悟の色があった。
バロウズの生真面目すぎる返事に、フィン王がくすくすと笑い、モコも同意するように尻尾を振った。勢いよく振られた尻尾が、跪いたままのバロウズの顔面に、思い切り命中する。
「ぶふっ……!」
「バロウズ、大丈夫?」
「……問題、ありません」
毛だらけの顔で平然と答えるバロウズに、周りが揃って噴き出した。国の重鎮としての威厳は、その日、モコの尻尾によって粉々に打ち砕かれたのだった。
こうして、スピンドル王国の後見人は、セドリックへと引き継がれた。バロウズは、討伐ギルド長の座こそ退いたものの、新しい素材加工の指導役として、若手たちに睨みを利かせる日々を送ることになった。そんなバロウズの下で、トビアスも加工の修業を始めたと聞く。
もっとも、モコが遊びに来るたびに、バロウズは律儀に尻尾の一撃を食らう羽目になっているらしいが。
「あれ、絶対わざとですよね。剣を抜かれた意趣返しじゃないですか」
カイルがそう茶化すと、ゴードンも大きく頷いた。
「モコ、根に持つタイプかもしれません」
真相は、当のモコにしか分からない。
「隊長、モコ、見つかって本当によかったです」
麻衣が、モコを抱きしめながら、しみじみと呟いた。
「本当にな。……そういえば、麻衣。前にスピンドルを一人で調べに行ったときは、正直ひやひやしたぞ。今回はちゃんと皆で動けて、助かった」
「褒められると、次はもっと大胆に動きたくなっちゃいますね」
「それ、褒めてないから」
悪びれない笑顔の麻衣に、俺は思わずため息をついた。
「これに懲りたら、勝手に荷馬車に乗り込むなよ」
俺の軽口に、モコは悪びれもせず、尻尾を振っていた。




