㊳
晴龍が立ち去って1時間後、俺は刻星の寝室前に立ち尽くしていた。
「⋯⋯」
事実とはいえ言い方が悪かったのは分かっている。だからかなんと声を掛けていいのか、そもそも1人になる時間が必要なのかと迷っていると寝室から小さな物音がした。
だがその後も言い出すことが出来ない俺はリビングに戻ろうと階段の方へ体を向けた時、「⋯鍵、してない」と小さな声が聞こえた。
寝室のドアノブを捻ると刻星の言ったとおり鍵はされておらず何時でも入れた事に気付く。
中に入ると右側の壁沿いに置いてあるベットに仰向けで寝転んでいる刻星の姿が視界の中に飛び込んできた。
寝室のカーテンは閉められ電気は点けずにいるので寝室は昼間だと言うのに暗くドンヨリとした雰囲気に包まれているようだ。
そんな中、刻星は腕を額に当てているのか表情が分からない。
俺はベットの側、枕元付近まで行き背を向けて腰を下ろした。
「⋯ごめんな刻星。お前が傷つくことはわかりきっていたのにも、あんな事を口にしてしまって」
謝罪を述べたがやはり口を開いてくれない。動く事すらしてくれないまま少しずつ時間は過ぎていく。
何もしてやれない俺に俺は強い苛立ちを覚えた。
この苛立ちで俺は俺を正当化しようとしているのが分かっているからなおさら苛立ちが募る。矛盾している。でも止められない、抗えない。自分が嫌いだと心で悪態を吐いたその時、俺の首に細く・暗い寝室でも分かる色白の物が抱きついてきた。
「僕も⋯ごめん。事実なのは僕にも分かっていたんだ。彼と海が玄関先でやり取りをしている時から薄々とだけど、彼は僕より強いというのは分かりだしていたんだ」刻星の言葉と吐息が耳にかかる。とてもやるせない思いが多く耳にかかるようだった
「それでも、偽りでも海には僕の方が強いと言って欲しかった!」
決壊してしまった。気持ちを抑えていたものが壊れたんだろ。それでも俺の耳に聞こえてきたのは子どもの様な泣き声ではなかった。
気持ちをぶつける事を躊躇い・我慢する者のすすり泣く声だった。
俺は振り返らず片手で泣いている少女の頭を撫でた。
それがきっかけとなり声は次第に大きく涙の粒も大きな物へと変わっていた。
止めることもしないでただただ撫でて思う存分泣かせることしか出来なかった。
少女の涙に感化されたのか外から大きな雨の音・大きな風の音が窓を叩いていた。
耳元で泣く少女の泣き声は外に漏れず、俺達だけの秘密になった。




