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9.山口の官舎、魔改造される・・・・。

次回更新は、5月9日土曜日の予定です。

 細田と退庁口まで行くと守衛の太田に市長公室の鍵を渡した。

 「お疲れ様」

 駐車場の前で、山口は細田と別れる。

 山口の官舎は市役所の横の民家である。

 「5千円?」

 申路市には、宿泊施設がない。山口が着任時に宿泊した民宿は、市議会議長の自宅だった。昔は民宿をやっていたが、何年か前に閉業したという。それでも、宿泊できるからと農協の組合長をやっている市議会議長が食事を作ってくれた。ちゃんちゃん焼きという鮭をバターで焼いた北海道の郷土料理であった。

 「民泊、農業体験といっても、こう遠くちゃ、誰も来てくれませんよ」

 達観したように市議会議長は言った。

 山口は、ペーパードライバーである。自動車を購入しても、本省復帰時に手放すことになる。

 「雪で遭難します」

 細田からも運転は止められた。

 「空家だらけですから」と泉田から紹介されたのは、市役所の横にある一軒家だった。

 

 昭和時代に建てられたコンクリートの一軒家の家賃は、月5千円である。

 内部の写真をメールするように、国土交通省の菊池技監から連絡があった。

 菊池は、山口が国土交通省で係長をやっていた時の、局長である。東大大学院の工学博士でもある菊池技監は、国土交通省の建設技官のトップでもある。

 「その家、うちで修繕して借り上げようよ」

 旭川に相談すると、「菊池さんがそう仰るなら、ご好意に甘えなさい」と言われた。

 旭川と菊池は同年齢である。たすき掛けで事務次官にも就任できる技術官僚のトップの技監だが、事務官の旭川と年次が同じでは次官就任は難しい。

 

 菊池から依頼を受けた北海道開発局の技官集団が、修繕を終えると、宅配会社に預けてあった山口の荷物を運び込む。

 「見た目は変わらないだろう?」

 菊池にお礼の電話をすると、修繕した家の自慢をされた。修繕された家はどこを直したのか素人の山口にはわからない。


 ただ、どこからか重機が数台運ばれてきた。大型トラック数台で資材を運び込んでいた。資材は、リユースらしい。

 菊池によると震度7までの地震なら耐えられるようにこっそりヤミ修繕してあるらしい。錆びて使い物にならなかった水道管や排水管も全て取り替えたという。


 増築・改築にならないように、法律的には修繕で押し通せるギリギリの線まで直した新築よりもお金がかかる建設技官の芸術品だという。


 外装も内装も、国の監査やマスコミ対策で、中古住宅にしか見えないように偽装したらしい。

 「それ、犯罪なんじゃないですか」という言葉が出かかるが、山口は口をつぐむ。

 申路市周辺は、河田大臣の地盤である。

 地元の建設会社に依頼すると採算度外視で修繕されるリスクがあった。

 しかし、公務員がこっそり修繕をしたことの方が問題な気がしたが、「山口さんと同じで口が堅い信用できる人しか参加していないよ」と菊池は断言した。

 菊池の元部下しか参加していないということであろう。修繕中の現場を視察に行った泉田が青い顔をして帰って来た。菊池の直属の子飼いの元部下なら、管理職以上の幹部技官しかいないはずである。

 それから、泉田は山口を畏怖するようになった。

 壁紙も丁寧に古い壁紙を剥がして、修繕が終わると古い黄ばんだ壁紙を貼りなおした。そこまでする必要があるのか疑問ではあった。こうやって、この人達は会計検査も行政評価も誤魔化してきたのだろうか・・・。

 

 山口は、帰宅すると入浴の準備をする。ガスでも電気でも使えるように修繕された風呂釜にお湯を貯める。山口の官舎は、「北海道開発局の倉庫も兼ねることになった」らしく食器洗い機や洗濯機、乾燥機等の備品には開発局の建設課や住宅課、河川課のシールが貼ってあった。

 

 市役所では、使えない5Gや光ファイバーがなぜかこの官舎では使えたが、メールで報告をした旭川からは、「深く考えないように」と諭された。

 

 申路市には、24時間営業のコンビニはない。食材は土曜日にまとめて配達して貰い、河川課所有の大型冷蔵庫に1週間分の食材を備蓄していた。宅配ポストも鍵付きのものが設置してあったし、監視カメラで24時間録画してあるという。

 

 女性の一人暮らしということで、泉田から依頼を受けた警察官が定期的に巡回をしてくれていた。

 お風呂から出ると、山口は洗濯機を回す。住宅課の洗濯機はドラム乾燥機付きらしい。

 「電気代がすごいことになりそうだな」

 菊池によると、電気代は理論上はほとんど無料らしい。山口退去時に取り外すことができる太陽光発電パネルが、国の実証実験として設置されていた。国が倉庫として利用している分の電気代は、山口が支払う必要はなかった。だから、冬でも電気代や燃料代はそれほど心配する必要はないらしい。


5月9日、更新予定

10.市長の漢気

(来週も、忖度、忖度) 

 「市長の給料を10万円まで下げると言う事か、年間120万円か」

 山口の着任時に臨時の民宿を開いて宿泊させてくれた市議会議長の浅野がため息まじりに言った。

 「市長のところは農作物を市場に出荷していませんが、任期まで生活ができますか?」

 元野党の早野議員が心配そうに質問する。

 早野の質問には、市長ははっきりとは答えなかった。

 5人の市議は、全員が作業着やジャージ姿である。仕事を抜け出して市役所に来たのだ。

 「5千円」

市議の1人が言った。

 「市長だけさらに給料カットというわけにも・・・。市議報酬を5千円カットすれば、36万円になる」

 「仕方ないわな」


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