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8.山口、サンタクロースと交渉をする

次回更新は、5月2日土曜日の予定です。

 申路市に到着して1週間後、山口は細田と市長室の横にある市長公室のPCの前にいた。

 理事でもある山口のデスクは市長公室の中にある。

 「あの、サンタクロースって何語を話すんですか?」

 細田の素朴な疑問に山口は答える。

 「サンタクロースは、世界中にプレゼントを配って回っています。日本語が通じると思います。申路市の概要を英文でメールしておきました。『直接、話しましょう』と言うことでした。日本語で返信が来ました。最悪でも英語は通じると思います」

 「国際電話代は、かなり高額なんじゃありませんか?」

 「なので、ネット通話で話します」

 オンライン会議にこぎつけるためにひと悶着あった。市庁舎内にはWi-Fiが引かれている。だが、OSが旧式で、オンライン会議用のアプリに対応していない。

 「市役所のPCはリースですよね?」

 リースのPCならOSは新しいはずなのだが・・・。細田は少し困った顔をした。

 「予算を浮かすために旧式のPCをリース業者から購入したんです」

 「マイナンバーは?」

 「デジタル庁のオンライン導入特別振興費で、住民課のPCは3年間だけ最新型ですね」

 「リース期間が切れたら・・・」

 ばつの悪い顔で細田が呟く。

 「どうするんでしょうね」

 補助金なんてそんなものだ。国土交通省の補助金も維持費は支給していないものが多い。

 旭川にメールで相談をすると、北海道開発局から、最新式のPCが2台、サンタクロース振興課に届いた。

 「PCの出所を散策したらダメだよ」

 山口は、細田に口止めをする。

 山口はスマホの時計で時間を確認する。もうすぐ19時になる。

 ほとんどの職員が退庁している。

 「残業代出ないんですよね」

 

 泉田市長の月給は15万円、5人の市議は10万円。細田達職員だけは自治体の最低給が支払われていた。市長の年収カット、市議の削減、職員のリストラ、申路市も出来ることはやっていた。すでに財政再生団体と同じ程度の財政再建計画を実行している最中なのだ。

 地方公務員である山口の給料は、国庫から支給されている。震災時に自治体に国から派遣される職員の支給法を援用して申路市に負担がかからないようにしてあった。

 「フィンランドは、13時ですね」

 「超過勤務は避けたいところですが、時差があるので仕方ありません。サンタ協会も時差を考慮して現地時間の13時からのスタートしてくれました。では、呼びかけましょう」


 「はじめましてじゃな」

 AIの自動翻訳で字幕が映し出される。フィンランド語だろうか?

 スーツ姿の肥満体の老人が画面から語りかける。

 「赤い服を着ていませんね」

 細田の呟きも字幕表示される。

 笑顔で山口は、マイクを装着した。

 「はじめまして、今回はありがとうございます」

 「うむ、堅い話は抜きにしよう。北海道にサンタクロースの拠点の1つを作って欲しいという提案は面白いと思う。ただ、どうせなら京都や沖縄に拠点を作って欲しいものじゃ。サンタクロース達にアンケートをとったが、屋久島や石垣島に住みたいという意見も多かったのう」

 

 どうやら、サンタクロース達は日本通らしい。

 「では、サンタクロースの派遣が無理ならフランチャイズとして認めて貰えませんか?コンビニみたいに」

 画面の向こうの老人は笑顔で答える。

 「サンタクロースの拠点がどうして北欧にしかないと思うかね?」

 「暑いところが苦手というわけではなさそうですね」

 「誰も考えた人間がいないからじゃよ。もう1つは、サンタクロースが配るプレゼント代、トナカイやソリの整備費用は誰が支払っていると思う?」

 「国際連合や国家ではないと思いますが・・・」

 「サンタクロース基金じゃよ。小さいときにプレゼントを貰った大人が寄付をしてくれる。小さな時にゲームを貰った子供が大きくなってゲーム会社の社長になる。そうするとゲーム機を寄付してくれる。自動車会社の社長になった大人は、自動車の玩具を寄付してくれる」

画面の字幕を追っていた細田が呟く。

 「夢のあるお話ですね」

 「しかし、世界は広い。子供達の数も多い。サンタクロースは、国連やユネスコと違って学校を作ったり、食事や医療品をプレゼントするわけではない。年に1回、玩具を送るだけの仕事じゃ」

 山口は沈黙する。

 「世界に何人の子供がいると思う?20億じゃ。すべての子供達にプレゼントを贈ると1年間に数千億円が必要になる。君達はサンタクロースが365日、遊んでいると考えるじゃろう?しかし、364日は、サンタ基金の運用をしている。天然資源の買い付けもやる。ヘッジファンドに投資することもある。サンタクロースの中には、稼いだお金を国連に寄付した方が子供達のためになるというものもおる」

 「サンタクロースも大変なんですね」

 細田が相槌を打つ。夢のない現実的な話である。

 「実はな、サンタクロース基金を解散して、国連に寄付しようとしたことがある。その時に、アフリカ出身の国連大使から『あなた達の気持ちはとても嬉しいし、ありがたい申し出です。けれど、私はアフリカのとても貧しい国で育ちました。8歳のときに初めてサンタクロースが英語の辞書をくれました。それで勉強して国連の大使になりました。サンタクロースは夢そのものをプレゼントしているのです』と言われてな」

 「いいお話ですね」

 山口がそう答えると老人は真面目な顔で首を振った。

 「プレゼント1個で人生が変わることはないと思う。けれど、年に1回、世界中にプレゼントを運ぶ仕事があってもいいかなと思うのじゃ」

 「では、私達にも夢をプレゼントして貰えませんか?」

 「君達は、子供ではないからな。大人の君達とは現実的な話をする必要がある。フランチャイズでサンタの拠点に認定するには、1人以上の認定サンタクロースが必要になる。君達の市は財政破綻する予定だという。サンタ見習いを北欧に派遣して、研修を受けさせるお金は用意できるかね?研修期間中の面倒はこちらで見よう」

 「わかりました。一度、市の中で話し合う時間をください」

 山口は老人にお礼を告げ、オンライン会議を終えた。

 「サンタクロース、いい人でしたね」

 山口は頷く。

 「サンタクロースって、やっぱり1人じゃないんだね」

 細田が苦笑いをする。

 「それよりも、北欧までの往復航空券代が、40万円前後。北欧は物価が高いから、数ヶ月研修を受けるだけで、100万、200万円は必要ですよね」

 事前にサンタクロース協会から送られていた資料を片手に山口は言った。

 「研修費用やトナカイのレンタル代、整備費で1千万円前後は必要でしょうね。国の特別地域振興予算を使えば、9割までは負担して貰えます。ただ、最低1割は申路市が負担する必要があるのよね」

 「100万円ですか、無理でしょうね」

 泉田は、市長就任以来、市有財産で売れそうなものはネットオークションに市長自ら出品していた。

「明日、市長に相談してみましょう」

 山口は、そう言うと退庁準備を始めた。


9.山口の官舎、魔改造される・・・・

(来週も、忖度、忖度) 

お風呂から出ると、山口は洗濯機を回す。住宅課の洗濯機はドラム乾燥機付きらしい。

 「電気代がすごいことになりそうだな」

 菊池によると、電気代は理論上はほとんど無料らしい。山口退去時に取り外すことができる太陽光発電パネルが、国の実証実験として設置されていた。国が倉庫として利用している分の電気代は、山口が支払う必要はなかった。だから、冬でも電気代や燃料代はそれほど心配する必要はないらしい。


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