20.サンタクロースが返礼品
「明日から、レンタル・サービスの開始なんですよね」
クリスが尋ねる。政治的圧力でネットに上位表示されるからか、意外にもふるさと納税の申し込みは多く、サンタクロース事業はすぐにスタートすることになった。
太田が即戦力になるのか疑問だったが、研修内容も秘密である。
「すでに、10件ほど申し込みが来ています。明日は、10時にサンタクロースの出発式をやって、サンタ・ラッピングのワゴン車で返礼品の配達に向かいます」
「ワゴンに企業広告を載せたかったですよね」
「私も断腸の思いですが、サンタクロースのイメージを損なうので断念しました。とても悔しく思います」
真顔で山口が言った。ふるさと納税サイト以外にも、手作りで日本産のサンタクロースのホームページを作った。サイト制作は10万円で請負事業者が見つかったが、泉田や市議の給料を考えた時に、補助金が原資とはいえ10万円のサイト費用すらもったいない気がした。
山口は、器用に作るなあと細田の作業姿を見ながら感心していると、
「中身は誰でも作れるんです。どちらかというとデザイン性やセンスの部分をプロに委託した方がいい気はします」
編集ソフトは、広報誌や市のサイト用のものを流用させてもらった。
細田が作った、ふた昔前風のサイトが個人ではなく、官公庁の公式ゆえにバズッたらしく、広告掲載の申し込みのメールが届いた。
「大手ネット通販サイトやゲーム会社、外資の玩具チェーンから広告掲載の申し出が1千万円単位でオファーがありました。怪しいアフィリエイト・サイトになるのでお断りしました」
山口も広告掲載は、悩んだ。数万円の広告枠ではない。数百万円単位の広告掲載の申し込みである。申路市は、数万円単位のネーミングライツを売っている。申路市市民会館、文化会館等のネーミングライツは5万円~10万円で売ったが、売れなかった。
市の名前そのものを売るという案も市長や市議会で出たが、総務省から「お気持ちはわかりますが、本当に勘弁してください」と待ったがかかった。
法令上は、市町村名のネーミングライツを禁止することはできない。愛知県豊田市トヨタ町のように、企業名が自治体名になっている前例があった。また、宮城県仙台市にはニッカ町。長崎県佐世保市にはハウステンボス町があった。
「止める権限はないのですが、せめて企業誘致に成功してから自治体名を変えて頂けませんか?」
「それが無理だから、ネーミングライツなんです」
市長公室で細田は、市長と総務省のやり取りを見ていた。だから、山口が細田に何かを隠していることも、異様とも言える企業の広告掲載希望も細田には裏があると勘繰る以上に不気味に思えた。
それでも、山口が申路市のために頑張っていることも嘘とは思えなかった。
だから、結論として細田はサンタクロース事業を見守ることにしたのだ。
「広告は市長もまじえて、一度、相談しましょう。ふるさと納税よりも広告費だけで財政再生団体への転落を免れる可能性が出てきました」
そして、小さな声で呟く、
「訳あり広告しかないのだけれどね」
「サンタクロースのイメージを損なわない真面目な企業なら、広告の掲載を認めてもいい気もします」
「利権とかそういうのがない企業は、お金を持っていないんだけれどね」
太田が会話に加わった。
「えらく景気のいい話になっているが、やるのはわしなんじゃけどな」
「チームですから。明日は、太田さんとクリスさんと私の3人1組で、山口さんは市役所に残ってマスコミ対応。それでよろしいですよね」
「そのつもりです。サンタクロース振興課。夢をお売りするために頑張りましょう」




