19.サンタクロースのふるさと納税
太田がそう答えたので、泉田の決裁を取り、総務省に申請書をメールした。
1時間後、山口にメールで返信があった。
「総務省内の手続きは終わりましたので、サービスを開始してくださって構いません」
これが、政治案件かと山口は実感する。
細田に、総務省のメールに載っているふるさと納税の取り扱い事業者一覧に掲載の登録を送るように指示した。
「ふるさと納税のポータルサイトに載せましょう」
「手数料がもったいないから、自分達で集客したいですけど、仕方ないですよね」
山口から転送されたメールの事業者のサイトを見ながら、細田は登録作業を行う。
最初のポータルサイトに、細田は申路市と入力する。首をかしげる。
上から順番にリストの載っているサイトに登録作業を行っていくのだが、細田は、顔を曇らせる。
「どうしたの?」
「山口さん、すでに登録されています」
「どういう意味?」
「サンタクロースの返礼品事業は、このリストのサイトには泉田市長が責任者、山口望と細田美代が担当窓口として、登録されているんです。あと、パスワードもIDも発行済みです」
山口は、総務省の返信メールに載っているサイトをスマホで確認する。サイトの新規サービス品に、 申路市にサンタクロース誕生とアップされている。
ネットの担当官庁は、総務省である。だが、経済産業省も関わっているし、何社かは米国に本社がある多国籍企業である。
「米国に本社があるからか」
手数料は?ふるさと納税の代理店は、寄付金の一部を手数料として受け取り運営している。申路市に寄付されたお金の一部が、代理店に支払われるのだ。だから、申路市と契約を結ばなければ、申路市のサンタクロース事業の紹介はできないはずである。
山口は、サンタクロース協会に問い合わせのメールを送ることにした。
山口と細田のメールにふるさと納税の代理店から、メールが送られてきた。
メールの内容を要約すると、「サンタクロース事業に関しては手数料が無料。掲載の有無は、サービス開始後に山口達が自由に決められる」と書かれていた。手数料が無料だから、契約は不要らしい。日本のふるさと納税専門の代理店は、1年後から掲載を続けるのであれば、手数料契約をして欲しいと書いてあった。ホワイトハウスの政治的圧力であろう、多国籍企業は永久に無料らしい・・・。
「ただより高い物はないんだけれどね」
山口は、この件ではもう驚かないことにした。
サイトの編集を細田と一緒に行うことにする。
「本物のサンタクロースが夢を届けます。ベタよねえ」
細田は呟く。
「夢を届けるのに、お金を払わせるんですけどね」
「それは考えない。サンタクロースも霞を食べて生きているわけじゃないのだから」
「そういえば、サンタクロース基金で資産運用しているんですよね。法人税は払っているんですか?」
顔色一つ変えずに山口が答える。
「非課税。NGOでも営利事業は課税対象になるんだけど、課税すると課税された金額を税金をかけた国のプレゼント代から」
「それで子供革命が起きるわけですね」
「そういうこと。サンタクロースは所得税を払っているから公務員と同じ扱いですね」
そう言えば、認定サンタの太田も公務員として所得税を源泉徴収されている。他のサンタクロースも同じような扱いなのであろう。
1週間後、クリスと太田の顔合わせをした。実は、山口もクリスの顔は初めて見る。
普通のサラリーマンにしか見えない。海兵隊上がりというが、軍人だったようにも見えない、どちらかというと華奢な身体つきの男性だった。
「こちらがクリス・北見さん。太田さんのボディーガードをしてくれます」
「サンタクロースのボディーガードをやらせていただき光栄です。ミスター太田。よろしくお願いします。」
「太田です。なまら屈強そうな人だね。こちらこそ、よろしくお願いします。」
屈強と言った太田もボディーガードという言葉に首をかしげている。
「細田です。よろしくお願いします。」
「サンタクロースのことは知識がないので、いろいろ教えてください」
「なんでも聞いてください。ただ、私達もほとんど教えてもらっていないんですけどね」
「サンタクロースの資料は、市役所においておくよりクリスさんに預けた方が安全だと思いますから、クリスさんにお預けしていいですか?」
山口の唐突な提案にクリスが驚いた顔をした。彼女は、全てを理解した上でそう発言しているのだろうかとでも言いたげにクリスは山口の茶色の瞳を見つめる。
「私に資料を預けて大丈夫ですか。コピーは取ってありますか?」
「丸暗記していますから、サンタクロース協会から送られてきたものの複写は、日本には存在しません」
「パーフェクトです。サンタクロース誘致を行ったクレイジーな人だと思っていましたが、秘密保持は完璧です。私達の仕事を手伝って欲しいくらいです」
茶目っ気のある笑顔でクリスはおどけてみせる。情報将校?山口は軍の知識はない。だが、米軍の精鋭部隊が海兵隊であることぐらいは知っている。現場の軍人にはクリスは見えなかった。
「ドメスティック・ガバメント・オフィサーですから、ノー・サンキューですね」
細田は苦笑いをしたが、クリスはどう反応をしたらいいか困っていた。
ドメスティク官僚を元にした和製英語である。官僚は、20代で希望すれば海外の大学院に進学できる。希望するものと拒否するもの、両極端に分かれる。海外勤務は、本省の課長職登用の必須条件である。そのため、留学しなかった官僚は、参事官や領事というもっと上のポストで海外公館勤務を強要されるのだが、留学拒否する時にドメスティク官僚と回答するものがいるのだ。
少なくともクリスは、ドメスティック・ガバメント・オフィサーの意味は分かっているように思えた。日本勤務が長いのか、そして内部の人間にしか使用しないマニアックな霞が関用語が通じるのか、通じるとすればなぜ通じるのか。
自称27歳のクリスだが、学生のようにも見える。20代というのは本当であろう。
とはいえ、山口は国土交通省の人間。クリスの素性をあれこれと詮索しても無意味である。
申路市のどこに住むのかと思っていたが、クリスは、浅野市議会議長の家に居候している。サンタクロース事業の手伝いに来た米国人として、民宿を経営していた浅野はクリスの下宿を快く受け入れてくれた。




