21.真夏のイルミネーション
翌朝、太田のログハウスではなく、市役所職員総出でクリスマスのイルミネーションを飾り付けた市役所でサンタクロースの出発式が行われた。太田のログハウスは要塞である。
室内で作業をしているサンタクロースの撮影には使えるが、コンクリートの要塞で出発式をやっていいものか山口が悩んだ。札幌の北海道開発局の庁舎や、道庁を出発式の会場として貸してくれると申路市に連絡があった。申路市という限界集落の自治体のアピールのために、どれくらいのマスコミがやって来られるか疑問ではあったが、申路市の市庁舎で出発式を行うことにしたのである。
市長や浅野市議長は、サンタクロースのコスプレをするつもりだった。
山口も細田も真剣に悩んだ。
予算面の問題もあるが、本物のサンタクロースである太田がいる。コスプレのサンタクロースが混ざることでチープになりはしまいかと。
折衷案として、サンタクロースの帽子だけを出発式に参加する市長や職員が被ることになった。
翌朝9時、近隣の宿泊施設に泊まったであろうマスコミが2社、市役所に集まった。サンタクロースの撮影は、契約上できないと伝えた結果、2社だけが取材に来てくれることになった。
司会は細田が担当し、マスコミの取材は山口が受けることになった。
細田や泉田市長はサンタクロースの帽子を被っている。
「失敗したかな・・・」
山口は、サンタ帽を見て呟いた。
100円ショップではなく、ネット通販で1個500円(税抜き)のサンタ帽を購入したのだが・・・。紺のスーツにサンタ帽姿の泉田が挨拶をする。
「本日は、サンタクロースの出発式にお集まり頂きありがとうございます。このたび、サンタクロース協会から日本初の認定サンタクロースが誕生いたしました。これから、ふるさと納税の返礼としてサンタクロースが直接、プレゼントを届けに行ってまいります」
「こちらが、日本初の認定サンタクロースです」
サンタクロースの格好をした太田は、特殊メイクの付け髭を付けている。日本人顔ではあるが、サンタっぽい顔には見える。いや、白いつけ眉毛、付け髭、あごひげ、そして帽子を被り、赤い服を着れば顔は見えない。
「誰でもサンタクロースに見える・・・」
山口は、会場に登場した太田を見ながら、そんな感想を持った。
「プレス・リリースでお配りしたように、サンタクロースの名前、国籍等はお答えできませんのでご了承ください」
細田がそう説明をした。山口が北海道に出向してから、初めてのマスコミ対応となる。
本来、キャリア官僚が地方に出向してくると地方新聞が取材に来るのだが、形だけ北海道開発局に転勤し、すぐに申路市に再出向した山口のところには地元新聞すら取材に来なかった。
山口はこわばった笑顔で、報道陣を見回した。山口は取材が苦手なのではない。色物系の部署の勤務経験がない山口は、サンタ帽子が気になるのだ。
遠慮がちに20代の女性記者が手をあげる。
「ヒグマ新聞です。サンタクロースがふるさと納税で、プレゼントを配ることは子供達の夢を壊すことになりませんか?」
「ご指摘は、『サンタクロースがクリスマス以外もお仕事をしているよ』ということを子供達に教える活動だと考えております。クリスマス以外は遊んでいると思われているサンタクロースのイメージ向上につながるのではないでしょうか?また、本市は財政再生団体に陥る可能性が高いため、特例としてサンタクロースが結婚式や依頼があった場所にサンタクロースがプレゼントを運びます。しかし、場所や内容を吟味しております。現場でサンタクロースのイメージが損なわれると判断した場合は、サンタクロースが引き上げることもできると明記しています」
山口さん、緊張している?。細田は、山口が国会答弁口調で答える姿を見て、意外に感じた。
「えぞじかTVです。トナカイとソリは使わないんですよね?」
「はい、使いません」
えぞじかTVは、認定サンタクロースの撮影ができないから、サンタ帽の山口を顔をアップで映す。
「東京や大阪等からもふるさと納税の申し込みがあると思うのですが、どうやって配送するのですが?」
山口は、表情をかえることなく淡々と答えていく。
「11月から12月にかけて、サンタクロース・ワゴンで全国を回ります。東京は11月12日、13日の2日間。また、12月に12月10日、11、12日の3日間、サンタクロースが滞在します。滞在日が合致する方に返礼品をお渡しします。また、サンタクロースの手紙も返礼品にありますので、スケジュールがあわない方にもお申し込みいただけます」
「今、サンタクロースの手紙と仰いました。サンタクロースの手紙にお金を取るのか?という声もあるかと思いますが」
「サンタクロースの手紙は、大人の方にも返事を書きます。返事を書くには、人件費や郵送費がかかります。ですから、お金は取ります。しかし、手紙を送っていただくだけならお金は取りません」
えぞじかTVのリポーターも20代の女性だろうか、質問を繰り返す。
「例えば、具体的な商品名や欲しいものが書いてある手紙もあると思うのですが、そうした手紙には、どのような返事を出されるのでしょうか?」
「私はサンタクロースではないのでお答えできません。しかし、一般論としては、『良い子にしていたらね』と大人は教えています。そうした返事を踏襲することになると思います」
再度、ヒグマ新聞の記者が挙手をする。
「サンタクロースは、ログハウスに住んでいるとのことですが、普段、サンタクロースに会うことは可能でしょうか?」
「サンタクロースにもプライベートがあるのでお断りしています。ラップランドのサンタクロースも、サンタ村に顔を出す事があります。しかし、普段は立ち入り禁止区域で生活をしています」
「それでは、そろそろ出発のお時間ですので、サンタクロースがプレゼントを配りに行ってきます」
細田がそう言って会見を終える。
運転手役は、クリスが担当すると言った。
山口は、「日本の国際免許証を持っているの?偽造?」、思うところはあったが、何も言わずクリスに任せ、問題があれば運転の交替を細田にお願いをすることにした。
「ワシ、本職は運転手じゃよ・・・」
太田の懸命かつ真剣な抗議を無視して、サンタクロースを乗せたワゴン車は出発する。
「最初の配送先に向かいましょう」
助手席の細田がクリスに伝える。太田は、ワゴン車の後部座席にプレゼントと一緒に積み込んだ。
「紋別ですね?」
「報道車が2台、着いてきているようじゃぞ」
サンタ口調で太田が言った。サンタクロースの格好をしている以上、サンタ口調でしか話してはいけないのかもしれない。
「取材依頼は来ていませんよね?」
細田はクリスに確認をする。
「報道車は、すぐに帰ると思いますよ」
「どうしてですか?」
市役所の運転手が本業の太田が言った。
「覆面パトカーが3台、あとは交通機動隊の白バイが報道車に付きまとっておる」
「まさか取材妨害ですか?」
「警察にその意図があるかどうかはわからん。じゃが、ワシらだけを追いかけてくるのなら問題ない。返礼品の届け先の取材許可をあらかじめ取って貰わないとお客さんに迷惑じゃろ」
「お客様は、神様ですから、日本では」
おどけてみせるクリスに、おそらくは米国本国を通じて、日本の警察に圧力をかけたであろう、クリス相手に細田は呆れた顔で言った。
「プレゼントを配りにいくだけで大変なことになっていますね」
「夢を暴きたがる大人が多くて困ったものじゃな」




