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サンタクロースを騙して財政破綻した貧乏自治体を再建します、腹黒美人官僚活躍記  作者: 林和志(林雄介)
2章 サンタクロースのレンタル・サービスはじめました
17/21

17.サンタクロース軟禁 

 申路市に入ると、もう誰も使っていない空家を改造したログハウスに太田を案内した。

 ログハウスの周りには、菊池技監が手配してくれた有志がコンクリートの巨大な塀を作ってくれていた。

 「刑務所?サンタクロースの軟禁施設ですか?」

 「ヒグマ対策よ。電気柵だと子供の夢を壊すし、猟友会の方を呼ぶとマスコミがきちゃうでしょう」

 「それは、問題ないです。申路市の猟友会は市長と市議ですから」

 「市長、猟友会もやっているの?」

 泉田の超人ぶりに山口も驚くが、そう言えば、申路市ではあまりヒグマが出たという話を聞かない。

 細田は官僚の山口に教えていいものか迷った。

 「高齢化が加速化してから、自衛をはじめたんです」

 「自衛?」

 山口は不思議そうな顔をする。細田は言いにくそうに小声で伝えた。

 「この辺りの民家は蔵に、村田銃を持っている人が多いらしくて」

 「銃刀法的に大丈夫なの」

 「猟銃として使用許可は取ってあるみたいです。実際に村田銃が使用できるかどうかは別にして、屯田兵の払い下げ銃みたいなものは、どのご家庭にもあるんですよね。実際に、銃を使ってヒグマを駆除はしていないと思いますが」

 そうか、申路市には銃火器を取り締まるべき警察官もいない。ヒグマのフィールドワークを行っている研究者も申路市まで来ない。

 市内地の大半が、半径200メートル以内に10軒以上の民家が存在しない。法律的には猟銃を使用できる市街地外なのだ。

 北欧のサンタは、熊と戦っていそうなイメージもある。だが、太田さんがヒグマを射殺すれば、どうであろうか。

 その結果、国の補助金と北海道開発局を中心としたボランティアが作った要塞に太田さんを逆クマ牧場に幽閉する形になったのである。細田は殺風景な要塞に一人軟禁される太田さんのことを考えると、少しだけではあるがつらい気持ちになった。

 「まあ、ログハウス自体が取材用のダミーだから、実際には太田さんには守衛室で生活して貰いますが・・・」

 「え」

 細田が珍しく驚嘆する。

 「要塞は、ヒグマ除けというより、観光客避けね」

 「観光誘致でもあるんですよね、サンタクロースは」

 「そう。でも、サンタクロースのイメージを守ることができるサンタ村みたいな箱モノを作る予算がないもの」

 

 当初、申路市名物の炭鉱跡地にサンタクロースの執務室を作ろうかとも思った。申路市には、財政赤字の原因となった負の遺産しかない。廃墟マニアも遠すぎて遠征してこないし、宿泊施設もない。山口もサンタクロース誘致という荒唐無稽なことをいきなり思いついたわけではない。廃墟マニア向けに、炭鉱跡地等を見学させる有料ツアーも考えた。

 

 保険会社に交渉をして、負傷、死亡時に支払われる保険の見積もりをお願いした。

 保険料そのものは、廃墟に入場する個人が支払えない金額ではなかった。しかし、誰がその保険代を徴収するのかという徴収コストの問題、不払いで廃墟に侵入する人間が出てきた場合に取り締まる人を用意できないこと。何より、廃墟で負傷した場合に、行政不作為として訴えられるリスクがあった。

 

 警察庁の友人に、個人的に山口は相談をした。

 「廃墟の不法侵入を助長するような地域振興は、個人的にはやめて欲しいなあ」

 廃墟ホテルは改造費がない。申路市でも、山口が思いつくようなことは一通り検討したことがある。そこまでやって、衰退が続いているからこそ、河田大臣の人員派遣要請を旭川達が拒まなかったのだ。

 本来、こうした地域振興は総務省の仕事である。

 

 河田大臣から総務大臣に、人員派遣の相談をした。旭川も次官等連絡会議で、情報公開法の対象とならないように、世間話として、総務次官と自治官僚を派遣するかどうか尋ねてみた。

 総務省から自治官僚を派遣した場合、財政難の自治体から同じような派遣を求められるであろうこと。自治官僚や財務官僚を派遣して、失敗した場合、国の威信にかかわることから、地域振興や財政再建と無関係な国土交通省の官僚を派遣することになったのだ。

 河田は国会の予算委員長や与党の幹事長経験者である。失言メーカーではあるが、国対委員経験者でもあったから、野党に太いパイプもある。

 

 財務省的には、数十億円ぐらいであれば、今後の増税に賛成して貰うために申路市に補助金を出すことには、益があることであった。

 「君達みたいに超一流の国立大の法学部出身じゃなくて、私大の経済卒だが」

 河田の財務官僚に話しかける枕詞であった。

 「バカはバカなりに考えがある。経済学的に失敗した自治体に、経済学的にリターンが望めない補助金を出しても無駄金になる。君らは天才だからよくわかっていると思うが」

 河田は、財務省から、若干、煙たがられていた。

 河田が、予算委員長時代に財務次官や主計局長、主税局長が増税の説明に河田のところに行った。財務省の面々は、他の政治家にやってきたように、「委員長のお見事なご采配で」と話を切り出した。

 河田は、幹部の面々の顔をじっくりと見る。

 「次官はどこの大学の何学部を出ておられたかな」

 馬鹿正直に、財務次官は、「東大法学部でございます」と小さな声で言った。

 主計局長や主税局長も、「東大法学部でございます」とばつが悪そうに言った。

 「次官は、どちらの高校を出ておられるのかな」

 「開成でございます」

 主計局長と主税局長は、灘と麻布と答えた。

 「開成から東大法学部、灘や麻布から東大法学部。そこから国家公務員の上級職試験に合格して、財務省の幹部をやっておられる。天才だな。いや神だ。次官も主税局長も在学中に司法試験にも合格しておられる。まさに日本の宝だ。国宝だ。それに比べて、私は私大しか出ていない」

 「滅相もございません」

 次官は慌てて否定する。

 「道議あがりで、私大卒の私にも理解できるように、もう一度、説明して貰えるかな」

 二の句がつげず、増税を阻止された形になった。

 河田は、関係省庁の幹部官僚の学歴、出身地、経歴を丸暗記していた。

 首相秘書官から根回ししようにも、河田は首相秘書官達に会うと「よ、天才」とか「未来の次官」と逆に官僚のようにごまをする。

 財務官僚が、財務大臣に相談すると、「河田さんは、同僚議員全員に『次期総理』と呼んでいる。私も、『総裁就任の際には、ぜひ新内閣に御奉公したい』と言われたよ」。

何とも奇怪な政治家であった。

 河田は頼みごとを断らない。河田には、有権者や支援者から各省への陳情が大量に持ち込まれる。こうした陳情をごり押しされることを官僚達は、嫌う。

 河田も直接、各省の課長や局長に陳情団を向かわせると電話をかける。

 「申し訳ない。陳情内容は、予算に一切、反映させなくていい。そのかわり、なるべく立派な応接室で話だけ聞いてやって欲しい」

 それでも、河田に忖度して陳情内容を予算に反映する官僚もいた。河田は、陳情内容を逐一確認して、予算に反映されている時は、削除するように次官に連絡してきた。

 こうして、河田は永田町でも霞が関でも、アンタッチャブル的立ち位置にいたのである。


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