14.CIAの実態
「盗聴対策か・・・意味はないと思うのだけれど・・・」
山口から泉田市長に、サンタクロース振興課の引っ越しのお願いがあった。
「市長室と交換しますか?」
好々爺の市長は、笑いながら答えた。どうやら本気らしい。
山口は、正直に事情を伝えることも出来ず、どう伝えていいか山口は困惑する。
伏し目がちに市長を見つめると市長は、何かを察したようだった。
そして、サンタクロース振興課の引っ越し先が決まった。市長室、市長公室の近くにあった窓のない空き部屋をサンタクロース振興課兼副市長心得室として改造してくれることになったのである。
「あ、副市長心得業務は、市長公室で構わないんです」
泉田は、「副市長心得室を2部屋用意しましょう」、こうして山口と細田のデスクは、市長公室と空き部屋に設置されることになったのである。
窓のない部屋を使っても、盗聴は出来る。スマホもCIAなら人海戦術で解析をするだろう。そもそも、人間が理解可能な技術でサンタクロースが飛んでいるとは思えない。
山口を盗聴しても、情報を得ることができるとは思えなかった。心配があるとすれば、山口より、細田である。
CIAをはじめとする米国政府の諜報機関が霞が関や首相官邸を監視していることは、多くの官僚達には公然の秘密である。公然の秘密ではあるが、一般人が信じられることではない。日本で働くCIAの職員は1千人。日本人を含む協力者は1万人。
俗にいう、M資金詐欺というものがある。太平洋戦争後に、米国政府が日本政府から接収した資金を融資すると騙す詐欺である。ドラマや推理小説では面白おかしく描かれるが、実際には、1960年代の米ソ冷戦中に与党議員や保守系政治団体にバラ撒かれ、使い切ってしまった。戦前、大蔵官僚であった人物が、後に首相になる人物ではあるが、敗戦直前に皇室財産も隠蔽し、戦後の保守党政権の選挙資金としてやはり、1960年代までに使い切ってしまった。現実は、小説のように面白いものではない。冷戦終了後は、CIAもリストラと予算カットが続いた。現在では、多くても1千人しかCIAの正規職員は日本に派遣されていない。国会議員は750人いる。
だから、国会議員ですら総裁候補や大臣クラスしかCIAに監視をして貰えないのだ。官僚は各省400人程度、霞が関全体でも数千人しかいない。それでも、米国に目を付けられるか、幹部職員しか監視対象にはなりえなかった。CIAは、日米貿易戦争の情報収集も任務としていた。正確には冷戦終了後、リストラ対象となったCIAが反米活動の監視の他に貿易戦争の情報収集を任務に加えたのである。
優先的な監視対象は、財閥系の商社、自動車産業、官公庁では日本銀行、金融庁、外務省、経済産業省が監視対象であった。農林水産省はカリフォルニア米の輸入部署が、国土交通省はゼネコン関係が申し訳程度に監視対象になっていた。防衛省は、どこの国にもセクショナリズムがあるらしく、在日米軍からCIAに対して監視を拒否されていた。
山口も警察庁や内閣情報調査室で働く、東大の同期組から教えられたくらいなので詳しいことは知らない。
国土交通省では、山口に電話を終えると次官室に呼び出されていた小樽に旭川が言った。
「CIAも公務員だろ。予算で動いているよな。官房副長官も外務省や防衛省も予算の総枠の概念はないのかね。彼らも官僚だろ」
小樽は、旭川の言わんとすることを考える。
「日本がいつまでも経済大国だと思っているのかね」
山口に話すときよりも、入省年次が近く将来次官になるであろう小樽に対しては横柄な、いや旭川の地の話し方になる。
「CIAの職員数は変わらない。いえ、日本の配置数は削減傾向にある。その中で優先順位が高い国に職員と予算を配分しているということですか?」
「そうだよ。中国と韓国に日本の職員を配置換えしているよ。1万人の協力者にも報奨金を支払わなければいけない。そんな規模の予算を日本に割いていないよ。1万人ってバブル経済の時の数だろ。今は、5千人も維持できていないと思うよ」
「それでは、山口さんになぜ次官から電話を?」
「声が聞きたかったらと答えたらセクハラだろう。用心はした方がいいと思っただけだよ。勘だけどね」
旭川の勘は当たる。旭川が局長時代の逸話がある。さっと目を通していた一枚の稟議書を手に取ると、「怪しい」と言った。その稟議書は、公共施設の建設計画だったが、耐震偽装が行われていた。こうした武勇伝ともいえる逸話が旭川にはあった。




