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歪んだ恋  作者: ラビット
4/5

今回ちょっと長いです。ちょっとですけど。可愛らしい2人を見守ってください。

東京にいる間、康太が翔の部屋に来て


「愛美さん。髪切って~~」


と、私に言い、美容院ごっこをしていた。


康太の髪は、丁度いい感じに、天然パーマだった。


髪を切ったところで、ボリュームダウンがせいぜいで、ヘアスタイルが変わることはなかった。


それでも、非常階段のところで3人で美容院ごっこをしていると、一人、また一人と観客が増えていく。


みんなで、こっちが長いとか、こっちが短いとか言い合い、髪を切る。


そんな平和な時間がとても愛おしく思っていた。


なにより、康太に触れることができることが、私には嬉しかった。


がやがやと集まった人達は翔の部屋に引き上げてはみんなで笑ってた。


「あと何日こっちにいるの?」


2人っきりになったとき、康太が聞いてきた。


「明日の朝に帰るよ。遅出だから、翔と同じぐらいに出て新幹線に乗れば間に合うから。」


「そっか・・・。」


重い沈黙。

沈黙は100もの言葉より饒舌。


康太の心が見えた気がした。


たぶん、私の心も彼には見透かされていたことだろう。


また離れる。


そのことがとても辛くて。。。


「今度は2月の結婚の時?」


「そうだよ。」


それっきり黙り込んだ。2人とも。


何を思い黙りこんだのかはわからないけど、どことなく不自然な会話の終了だった。


散髪が終わりタバコがないとのことで、なんとなく私と康太でコンビニに出かけた。


手はつないでいなかったけど・・・。


「愛美さんさ。元旦にさ、おれが愛美さんのこと好きになるって言ってたよね?」


「あぁ。うん。言ったね。」


「あれ、なんか根拠あるの?」


「根拠?ないよ?冗談じゃん。」



なんて笑ってたけど、正直二人ともどこかぎくしゃくして、いつも、康太はきっちりレディーファーストを守る人で、彼と2人で歩くとき、車道側を歩いたことはなかったのに、この時初めて、車道側を歩いた。


息が苦しい。


胸が苦しい。


康太の心が見えた気がした。ポーカーフェイスの下に隠れる、少年の顔。きっと今康太は私にキスしたいと思ってる。そう感じた。


でも、そうしないのは、彼の理性が働いてるから。


彼は翔が友人として好きだった。


そのことも頭にあったのだろう。


不意に沈黙を康太が破った。


「結婚するの?」


「は?ここまできてしないわけにいかないでしょ?」


「そんなの愛美さん次第じゃない?」


「しないで、どうするの?愛美になんか得あるの?別にいいじゃん。康太には関係ないよ。」


少し投げやりにそう言った。そう言わないと怖かった。


君には関係ないと。


「関係なくないよ。」


ドキッとした。


康太はそうつぶやいた。聞こえるか聞こえないかの小声で。私は聞こえないフリをした。


内心ドキドキしていた。このドキドキが彼に伝わらなければいい。彼が言わんとすることを聞いてしまうと、私の決心した人生の設計図がコロっとって変わってしまうような気がした。


この時すでに、心は決まっていた。


荒川で歩いたあの数時間の間、迷っていたこと。すべてを否定してしまおうって。そう決めていた。


それでも、康太を想う気持ちはあった。


マンションに帰ると、翔がお帰りと笑った。


翔の笑顔に安堵した。


私はこの人と歩いて行く。


そう決めたんだ。








ある日電話で康太が言った。


「今度大阪に行ってもいい?」


「いいよ」


いきなりのことで、少し驚いたけど、私は承諾し、休みを調整した。


大阪に来ても、翔と康太の同期の人がいる。

2人で連れ立って歩くことはできない。ましてや、康太の泊まるところは、大阪の支社から一駅のところだった。なので、2人はビジネスホテルから出ることもそうそう簡単にはできず、ホテルの中で、甘いひと時を過ごすことになった。


この時から康太の気持ちは私に向かっていることはわかっていた。


康太はセックスの最中に、


「愛美さん。愛してる」と言い、泣くようになっていた。


「なんで泣くの?」


「わからない。感情があふれて・・・。」


康太は『愛してる』と言わないと苦しいとばかりに何度も、何度も、私に『愛してる』と繰り返す。


その切ない声に私は『愛している』と応えた。


私は私で、結婚することに迷いはなくなっていたけれど、康太を突き放すこともできず、受け入れることもできず、さまよっていた。

心は完全に康太にあるのに・・・。


康太は実は恋をしたことがなかった。正確に言えば、誰かに言い寄られても、それを受け入れ、離れていく時も追いかけることもなく、その相手に感情を入れて相手をすることはなかったらしい。私が初恋だと彼は言った。


もうそれなりの大人なのに、まるで彼は中学生のようだった。


恋愛の仕方を知らない中学生だった。


そこには彼のいつもの打算やポーカーフェイスがなく、初めて恋をする少年だった。


私が、落ちそうもないと見ていた彼はもうそこにはいなかった。か弱い、仔猫のような彼を愛おしいと思っていた。


康太は恋に落ちると、ご飯を食べなくなるし、眠らなくなる。何度か倒れたらしい。


彼の変化に少し戸惑いながら、彼を受け入れ、彼といると幸せだと感じることができた。


セックスに溺れながら、その先を見ようとはしなかった。私。


この青年が凶器になるとは露ほども思っていなかった。

私に従順な、仔猫だと思っていた。


恋は盲目。


その言葉を私は知らずに、もしくは、目を背けた。


たった数日で彼は痩せた。


隣で安らかに眠る少し痩せた彼の横顔にキスをした。









2月14日に翔と入籍した。私が忘れるといけないから、バレンタインデーに入籍した。


その日は忙しかった。大阪で、入籍をすました後、東京に行き翔の友人とパーティーをする予定だった。

そのパーティーを主催、進行したのは、康太だった。


東京に着いて、翔の部屋で、準備をしているとき、康太も来て翔と一緒に私のあわただしく準備する姿を見ては、2人で女って大変ね~~などと笑っていた。


パーティーの最中みんなと写真を撮ったけれど、康太は頑として写真に映ることはなかった。そして、パーティーの最中、絶対に私と目を合わすことはなかった。


翔が、私に向けて手紙を書いてくれた。それを、みんなの前で読んでいるとき、ふと康太を見ると、この時初めて目が合った。悲しげで、戸惑っていた。


物憂げなその瞳に私はドキッとした。


 もともと決まっていたことだったけれど、翔は結婚した翌日、友人と先輩とスキーに行くことになっていた。


私は、結婚したてなのに、なんで?とは思いながら、また康太と会う時間が作れると思い、膨れたりしながら、翔を快く送り出した。


翔が出かけて、すぐに私は康太の部屋に行った。


鍵を開けて中に入る。

早朝だったのに、康太は起きて待っていた。


「会いたかった。愛美さん。」


強く抱きしめられて、なんとなく昨夜の康太の悲しみが伝わってくるように思った。


あの瞳の意味も。


抱きしめられて、私は優しい気持ちになった。同時に、彼を失いたくないと思った。


いつ来ても、康太の部屋は、殺風景で、家具と言えるものは、ベットと本棚しかなく、本棚には私と同じ趣味の本が並んでいた。本棚の上にちょこんと置かれた鏡だけが、私たちを静かに見つめていた。

抱きしめられいる私を、どこか遠くから私は見つめていた。


心の奥に潜む『罪悪感』。


ふと、自問する。誰に対しての罪悪感?翔?康太?私を私は冷やかに見つめ返した。そこに立っている自分に答えを求めるように・・・。

いや、両方だろうと自分に突っ込んだ。


『これでいいの?間違ってない?』


「愛美さん。愛してる。離れて行かないで・・・。」


「康太。ここにいるよ。愛美はここにいる。ね?」


康太は泣いていた。静かに流れるその涙を私の右手が拭う。


そのまま、ベットに流れ、康太は、何度も何度も「愛してる。」そう小さくつぶやきながら、私の中にぬくもりを残した。



セックスの後、私が煙草に火をつけると康太は


「煙草吸うの?ダメ!」


と笑顔で言う。


「なんで?」


「抱っこできないじゃん。」


と、拗ねて甘えた声を出す。


愛おしい。この一瞬をこの上なく輝いた時間に思えた。さっきの罪悪感など、どこか遠くへ行ってしまった。


朝から、夕方まで体力の限りにお互いを求めあった。夕方になって初めて


「お腹すいた・・。」


ということになり、荒川沿いを歩いて30分だろうか?北千住まで行き、ふらりと立ち寄った居酒屋でご飯を食べた。どこかアメリカンチックなその居酒屋で、康太はずっと私を見つめ、私はおどおどしてしまった。康太は普段はその体型には似合わないぐらいたくさんの量を食べる人だったのに、その時はほとんど食事には手をつけず、食べている私を微笑みを浮かべながら眺めていた。なぜか緊張して、私はたくさんしゃべり、たくさん食べた。


帰り道、夜の荒川は真っ暗でなにも見えない。少し怖いなって思いながら、康太がいるから大丈夫って自分に言い聞かせて真っ暗な夜道を歩いた。


明日になれば翔が帰ってくる。


そんな想いを2人とも感じていた。

今だけ。

一緒にいられるのは今だけ。

そう思うと、泣きだしそうな自分になぜか驚いて、でも、これで終わるわけじゃないからって思った。


『これで終わるわけじゃない。』


誰が終わらすの?


そんな疑問も自分に投げかける。


この『恋』を終わらすのはどちらだろう?


どちらが、より、傷つくのだろう?


始まった『恋』に不安を抱き、『恋』を始めてしまった自分に腹だたしかった。


いつか終わりが来る。


知らなくてよかった感情かもしれない。


私はこれまでにたくさん恋をしてきたわけではなかった。恋という幻や憧れに恋して来ていた。そういう意味では自分から恋をし、誰かを強く『欲しい』と願ったことはなかった。翔にしてもそうだった。彼との始まりは彼の方から付き合ってくださいと言ったし、その時付き合っていた彼はいたが、マンネリ化し愛情がなくなって冷え切っていた。だから、その場凌ぎで、翔と付き合うようになり、翔とはほのぼのとした間柄だった。そうだ。恋ではなく、愛でもなく、将来を寄り添う相手として、翔を選んだ。翔の愛情の上に胡坐をかき、未来を自分で計算した。結婚という憧れに向かって彼に寄り添った。


でも、今、強く望んでいるのは康太からの愛だった。独占欲。誰のモノにもしたくない。できるなら毎日彼と見つめあいたい。


家に着いて、2人でまたお酒を飲んだ。康太はいつもグラスを冷凍庫に入れ冷やしていた。そのグラスにお酒を注いだ時、グラスから緩やかな冷気と、滴のコラボができ2人はそれをきれいだねって写真を撮ったりした。


写真。


昼間にも、2人で写真をケータイで撮ったがすべて康太のケータイでだった。2人の笑顔はキラキラ輝いていた。写真写りの悪い私でさえ、あ、この写真の自分かわいいと思った。


夜は更け、お互い昼間のセックスで疲れ果てていた。2人は抱き合い、これ以上密着できないっていうくらい近くで眠り、朝を迎えた。







  結婚休暇というのが10日間もらえた。婚姻届を出した月に貰えるらしい。

 そのことを私は翔に「結婚休暇が5日もらえるんだって」と告げていた。そんな嘘をつくのはもう慣れっこになっていた。


 スキーから帰ってきて翔と普通に過ごす間にも、康太とはコソコソと電話をしながら、翔の部屋で会っていた。もうすでに罪悪感など微塵も感じず、翔とセックスした同じベットで康太ともセックスした。


誰に私の欲望が止められただろうか?自分でも止められない想いに突き動かされどんどん康太にのめりこんで行った。坂道を転がり続けた先に何があるかなどともう計算などしなかった。未来も、見えなくていいと思っていた。


康太もまた同じ気持ちだったのだろう。康太は悲しみの表情を浮かべることがなくなっていたし、涙を流すこともなくなっていた。


 結婚休暇について翔に告げた5日は我慢のような5日間だった。翔のためにご飯を作って待って料理の傍らには康太がいた。3人で私の作った料理を食べることもあった。

そんな5日間が過ぎ、私は大阪に帰る日が来た。偽りの大阪への帰省。


「またね。」


東京駅で翔に笑顔で別れを告げ、品川駅で降りる。


そのまま、引き返しあらかじめ貰っていた康太の部屋の鍵で部屋に入る。


私にとって夢のような5日間が始まろうとしていた。





  そうだ。眠り姫みたいだった。昼間眠り夜康太の帰りを待ち、毎夜セックスに溺れた。


康太は昼間仕事に行っているため、夜は眠るが、私は昼間寝ていたので夜はさすがに眠れず、2月の夜空を眺めていた。


夜に電気をつけるわけにもいかず、ただただ窓の外を眺めていた。荒川の方向を。


1月に感じていた感情は今は違う。淡い想いが強烈な情熱へと変化していた。


計算などもう必要なく、今までの自分を悲しいと思った。


時々上の階の翔が扉を開ける音などが聞こえた。


翔から電話が鳴ると、ドキドキした。


実際の私は翔のすぐ下にいる。


何かの拍子に、同じ音が電話に漏れでもしたら、大変なことになる。

そういう計算はしっかりできていた。

休日なのに、明日は夜勤で誰々とする。

今日は仕事でこんなことがあった。


偽りの仕事の様子。

それを康太はどんな思いで聞いていたのだろう?康太に背を向けて話していたのでわからないけれど・・・。



看護師という職業を選んだのも将来への不安だった。15歳の私は「私みたいな子は結婚できない。したとしても離婚される」と信じていた。だから、自立し一人でも生きていける職業を選んだ。今思えば生意気なガキだと思う。


付き合う男にしてもそうだった。学歴重視。将来性重視。安定性重視。私の中にはいつも未来への不安があった。そういう性格なのだ。

だからこんな風に誰かを強く想う自分が信じられなかった。


『初めてする恋』


という点では康太と同じだった。


ただ、順番を間違えた。そうだ。順番を間違えたんだ。私。


2月の夜空は沈黙でただただ暗闇だった。


遠くで車の走る音がする。


静寂の中で聞こえるのは車の音と、わけのわからない康太の寝言だけだった。


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